カーテンの隙間から朝日が漏れ、外では可愛らしい声で小鳥が泣いている。
微睡んでいた中、徐々に意識がはっきりしてきたため、ゆっくりと目を開ける。
素肌に白い布団が擦れるのが心地よく、上半身を起こすときしりとベッドが鳴った。
うーんと延びをして、ふと隣に暖かな存在がいることに気づく。
先生がまだ寝ているなんて珍しいな、と目を擦りながら、さらさらとした後ろ髪を触ろうと手を伸ばす。…毛先にかけて、徐々に石珀色に変わる鍾離の髪の毛がとても好きだった。
「…あれ」
どんなにまさぐってもその髪の毛が触れないと言うことよりもそれによって出た疑問の声がおかしいことに気付いた。
がばっとそのまま勢いよく脱衣所まで走り自分の姿を移す。
「わーっ先生パンツパンツ」
と慌てて穿いた所で、もう一度鏡を恐る恐る見る。
「…わぁ」
それは紛う方なき、鍾離の姿。
「なんで…えマジじゃん…」
身体中に赤い花が咲いていることはさておき、顔や胸、腹など触れてみるもいつもの自分とは違う筋肉質な触り心地。
ふと、邪な考えが頭をよぎる。出来るだけ、真顔を作って
「……公子殿。」
言ったそばから恥ずかしくなって両手で顔を覆ってジタジタとその場を回る。そして再度、今度は出来る限りの流し目で、
「…愛している、公子ど」
「何をしている」
心臓が飛びてるかと思った。急に現れた自分の姿に凍り付く。
「…いや、何も」
「ほう」
両手を腰に当てて訝しげな表情をしている自分の顔を見てこんなに凛々しい顔つきが出来るのかと思った。
「あ、てかあの…俺のパンツ穿いてもらっていい」
「ん」
◆
服を着て、一旦卓につく。
心当たりは一つ
「昨日の酒、だよね多分」
「俺が貰ってきたやつだな」
昨夜、鍾離が璃月散策をしている時に知らない男から貰った酒。あまりに怪しかったが鍾離が余りにも嬉しそうだったから仕方なく呑んでみたところとても美味であり全て呑み尽くしたのだ。
「てことは酒が抜ければもとに戻るのかな…ってちょっと聞いてる」
「おぉ、凄いな。掌から水が出るぞ」
お堅いしゃべり方をしながら自分が楽しそうに能力で作った魚と戯れている。
その姿を見て仕方がないなと諦めて、自分の髪をいじる。…いつの間にか三つ編みができた。
「ん、てか能力は身体と同じなんだ」
「脳が交換されたような形だな。身体の記憶は残っているようだ。思考回路と知識は俺のものと相違ない」
「それ俺が馬鹿ってこと」
「俺の知識と記憶力の問題だ。」
なんとなくムッとする。そして、自分では自分しか見えない事にもどかしくなってきた。
「んー…なぁ公子殿」
「どうした公子殿」
「いや、あの、しゃべり方を変えないか声が、声だけでもいつも通り聞いていたい」
理解していない表情をされる。
「…お願いなんだけど、」
◆
再度、脱衣所にてやっと愛しき人を見ることができて安堵する。
…と同時に、
「…やば」
首筋、鎖骨に見える痕。鏡に乗り出し少し首もとを引っ張りはだけさせるとさらに痕。そしてその仕草が艶やかで。
自分の動きで自分に欲情する。
「どうした」
どきりと、心臓が跳ねる。自分が背後に立っている。ここまで心臓が跳ねるだろうか。
「あ、いや…」
「…己の顔が赤いのを見るのはなんというか…」
それを聞いて自分が赤面していることに気付く。普段はこんなに簡単に赤くなってなんてくれないのに。
「公子殿…なんだろうか、これは。」
鍾離も、自分の変化に気付いた。
自然と自分のものであるはずのその石珀色の髪の毛をくるりと触る。
…それは普段、これからその行為をする合図だった。
タルタリヤは自分の鼓動が煩かった。
振り向くと自分の顔があった。
「…っんぅ…っ」
なんだこれ、と。
一気に身体の力が抜けて座り込んでしまう。こんなに、口付けが気持ちいいものだとは感じたことがない。普段、鍾離の表情の変化を見たくて、触れたくてしているこの行為が、
「…ぁ、」
そう小さく声が漏れた。反応している。そこで急に繋がった。
『身体の記憶は残ってる。』
それは、普段鍾離がタルタリヤに口付けをされた時点で感じている身体の反応。…それを普段は何事もないかのように隠しているのだ。
「はは…マジか」
急に、一気に。どうしても。抱きたくなった。しかし今の状態ではどうしようもなくて。
「公子殿…どうしたものか…自分に触れたいと思うなど…す、すまない…」
そうすまなそうにしゃがみながら差し出した手が頬に触れた瞬間、バチリと音が鳴った。反射的に目を瞑り、次に開けた時
「せんせ…」
目の前にはへたりこんでいる愛おしい姿。
「戻った…のか…」
もうそんなことはどうでもよくて
「こ、公子殿…」
「ちょっとさぁ…散々俺の事煽ってくれちゃってどうすんの」
鍾離の身体の上に股がりながらシャツを脱いでいく。
そしてそのまま押し倒すように洗面台の戸棚に押し付けるようにして
「んっ…こ、うしどのっ」
貪るように、
「責任、とってよね…」
長い朝が幕を開けた。