清秋の候(オスカー×アキラ)*
「真っ赤だな、燃えてるみたいだ」
呟く声が弾んでいるようで思わず振り返った。そんな思いで見上げていたのか、と。目に見えて分かる季節の変化に何かを感じてわざわざ声に出す、予想外だと思ってしまうということはつまり、いつの間にか侮っていたのかもしれない。オスカーは気付かされる、そして同時に思い至る。
アキラは間違いなく恵まれた家庭で育てられた子供なのだ。親に手を引かれ或いは抱かれて慈しまれた記憶、四季の移り変わりを眺める余裕、木の葉の色を見て連想する感性。そのどれも、当たり然のように手に入るものではない。
――眩しい。
わざわざ異能を手に入れて異形のもの共と戦う必要のない存在。守られるまま生きていったとしても何の問題もなかったであろう人生。間違いなく愛されていた、命。
きっと何処かで、あたたかく燃える炎を見たのだろう。たとえば暖炉の傍で、または焚火を囲んで。或いは真っ赤な夕陽を燃える炎のようだと語った誰かとの帰り道か。
心に思い出を通して世界を見る、横顔は。
「眩しいな」
目を眇めた先で、新緑の眸がまたたいた。
〈了〉