No offense.(HeriosR/オスカー×アキラ)*
ちょっと油断していた。
脇腹を擦られたり、肩甲骨をなぞられたり、背骨のでこぼこしたところを撫でられたり。なんだかマッサージされているみたいに気持ちよくて、純粋に安心しきっていた。初めのうちは本当にそういうつもりで、自分からも触り返したり頬と頬をくっ付けたりしていたのに、すっかり忘れてされるがままになっていた。眠くなっていた訳ではない。と、思う。多分。
(はっ……ずかし、なんだ今の)
気を抜いていたからといって、いくらなんでも大袈裟過ぎたと咄嗟に手で口を抑える。ただ、ほんのちょっとだけ腹筋から胸の辺りを撫で上げられただけなのに。
こんな反応をしてしまったせいか、オスカーも手を引っ込めてしまった。申し訳なさそうな表情をしているのが更に居た堪れなくて、顔ごと背けて目を逸らす。呆れている訳ではなさそうで、というよりは、寧ろ心配されているんだと分かる。自分がした事は不快に感じさせてしまうような事だったのではなかったかと考えている。言われなくても分かってしまう。
オスカーがそっと手首を掴んでくる。外そうとしているんだろうと分かるが、まだ恥ずかしさの方が強くて、このまま素直に外されてやる訳にはいかないと力を込める。二、三度抵抗したところでオスカーが手を離した。
「アキラ」
「やだ」
沈黙。
口を抑えたまま喋ったからきちんと伝わったかどうかは分からないが、態度で察してくれ、と思う。とりあえず暫くこのまま放っといてほしい。
視界に入れないようにしているのに、困っていますと言わんばかりの空気だけは伝わってくる。俺だって困っている。
だって、あんな声を出したらまるで待ちかねていたみたいじゃないか、物足りなく感じていたと思われて仕方ないじゃないか。
「手をどかしてくれ、アキラ」
ずるいヤツだ。
オスカーは真面目だとか、誠実だとか、律儀だとか、そういう部類の大人だとも思う。たまに予想外の反応が返ってくることがあっても、いい加減に適当なあしらわれ方をした覚えがない。こういう関係、になってからはより一層気を遣われているなと感じることもある。必要以上にこちらの様子を窺っているような気もする。きっとここで本気で嫌がったらあっさりやめるんだろう、俺に無理強いをさせたくないから、嫌がることをしたくないから。
アキラ。呼びかける声が優しい。だから、そういうところだ。
「このままだと、お前にキスが出来ない」
なんだそれ。
そういう困ったような顔を見せるのはずるい。本当に。分かってやっているんだろうか。
オスカーの左手がもう一度伸びてくる。右手首、というより腕を掴まれて、オスカーの指の輪がぐるりと腕を一周していて、なんか前にもこんなことがあったな、と思い出す。その親指が擦るように腕の内側を撫でてきてくすぐったい。機嫌が直るのを待っている、と言いたげに促しているような。
「お前、本当、そういうズルいこと平気でする。……」
これ以上意地を張っていても何もいいことはない。そっと手を外したら、ああよかったと言わんばかりのホッとしたような笑顔になった。そんな顔を見せられたら、なんだか俺一人で意地張って馬鹿みたいじゃないかという気分になってくる。
いつになったら放してくれるんだろうかと思っていた右手はそのまま強制的に恋人繋ぎにされていた。だからそういう、普段そんなことしない癖にこういう時だけそんな、こっちが照れるようなことしやがって!
他にも色々言いたいことがあるのに、このまま数秒後に忘れる予感だけは確かだった。
〈了〉