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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文「レベル1」
    魈を召喚したらレベル1でちょっと小さい魈が来た話。

    #鍾魈
    Zhongxiao

    レベル1「三眼五顕仙人、魈。召喚に応じ参上」
    「魈~~!」
    「旅人、世話になる」
     何度星に願ったことか。やっとのことで空が黄金に染まり、目の前には待ち望んでいた護法夜叉・魈が目の前に現れたのだ。
    「鍾離先生に来てもらった甲斐があったよ~!」
    「鍾離様……?」
    「久しいな、魈。旅人に頼まれ銅雀の寺まで赴き祈りの真似事などしてみたのだが、うまくいったようだ。共に旅が出来るのを喜ばしく思うぞ。俺もしばし同行しよう」
    「な……鍾離様に願われてしまえば、来ない訳にはいきません。よろしくお願いします」
     魈は鍾離に深々と頭を下げ、新米の長槍を地面に突き立てていた。
     ……ところで、魈に会うのは久しぶりであったのだが、魈はこんなに幼い顔立ちだったのかと思う程、目の前の仙人のほっぺはまろみを帯びていた。確か、身長もそこまで変わらなかったはずだったと記憶していたが、どう見ても自分よりも小さく、パイモンと同じくらいに見える。
    「先生……魈ってこんなに小さかったっけ?」
    「む? そうだな……」
    「?」
     目の前で首を傾げる魈は、世間のことなど何も知らなさそうな、年端もいかない少年のそれである。もしや、幼い頃の魈を召喚してしまったのだろうかと鍾離に聞いてみたが、鍾離も召喚の理に関してはよくわからないとのことだった。
    「もしかして、魈……あれ、魈?」
     詳しく魈にも話を聞いてみようと目を向ければ、すぐ目の前にいたはずの魈の姿がない。どこに行ったものかと辺りを見渡すと、魈はじっとスイートフラワーを見ていた。
    「な、何してるの、魈……?」
    「旅人……すまない。何故かスイートフラワーが気になり目を向けていたのだが……花弁にテントウムシがとまっていたので、それを眺めてしまっていたのだ」
     まるで子供のような言い訳をする仙人に、どうしたら良いのかわからなかった。名を呼べばすぐに駆けつけ魔を屠ってくれる降魔大聖が、なんというか、今は可愛く見えてしまったのだ。
    「魈はレベル1になったことで、少し幼くなってしまったのかもしれないな」
    「そ、そのようなことが……ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません……すぐにでもレベルをあげて参ります」
    「いや、良いだろう。たまにはのんびり強くなるのも悪くない。そうだろう、旅人?」
    「え、ええ、そう……?」
     このパーティにはアタッカーが不足している。この日の為に大英雄の経験本は三百冊は用意していたし、エンシェントヴィシャップも復活するたびに何度も足繁く通っていた。今すぐにでも魈を前衛にして陣を組みたいと空は思っていたのだが、なぜか鍾離に止められてしまったのだ。
    「前衛には俺が出る。シールドも俺が張るので魈は後衛で援護してくれれば大丈夫だろう。くれぐれも靖妖儺舞は使わないようにしないとな。このパーティにはヒーラーがいない。魈の天賦レベルも1だ。あっという間に体力の底がついてしまう」
    「……色々お役に立てないばかりか、足手まといになってしまい……面目ありません……」
    「構わない」
     鍾離は、いつも後衛でシールドを生成しながら時折星岩を落とし、どちらかといえば影から援護しているような戦い方であった。それが、何故か今は肩を鳴らし嬉しそうに前衛を申し出ているのだ。
    「鍾離先生の腕を疑ってる訳じゃないんだけど、先生が前衛でいいの?」
    「旅人、よもや鍾離様が前衛で不安を感じるとは言うまいな?」
    「言わないけど……」
     腕を組み、ギリリと空を睨みつける魈は、いつもなら殺気だけで人を射殺せそうな眼光を放っているのだが、小さな魈では威力も半減どころではない。むしろ頭を撫でたくなってしまう。
    「俺も久々の前衛だ。旅人が不安に思うのも、もっともかもしれないが、きっちり役目は果たさないとな。はは」
    「鍾離様……」
     空は気持ちを抑えていたが、いつの間にか鍾離が魈の頭を撫でていた。柔らかさを確かめるように、まろいほっぺに指を滑らせている。ふにふに、もちもち。そんな音が聞こえてきそうだ。触り心地が良いのか、鍾離の頬が心做しか緩んでいるかのように見える。
    「旅人、清心が少し足りないのではないか? いくつか咲いている場所を知っているのでこれから向かうのはどうだろうか?」
    「我も清心の場所には心当たりがあります。それならばお役に立てるかと」
    「ならば、早速向かおう」
     空は何も言っていないが、あれよあれよと話が決まり慶雲頂に向かうことになった。鍾離は、魈と旅をすることになり喜びを隠しきれていないようだ。魈も少年になってしまっていたが、鍾離もこの時ばかりは全てを知り尽くした神ではなく、遊びに興じる子供のように、ウキウキとした雰囲気が伺えた。
    「堅如磐石!」
    「うわっ!」
     突然鍾離が柱を立て、各々がシールドに包まれる。何事かと思ったが、辺りに魔物の気配はない。
    「先生、何かいたの……?」
    「いや、何もいない。いつ魔物が現れてもいいように対策をとっただけだ。気にするな」
    「そう……」
     これはレベル1の魈を保護するためだとすぐに気付いた。過保護が過ぎる。
    「あれ、魈……?」
     シールドに包まれたところまでは見ていたが、またもや魈は忽然と姿を消している。辺りには背の高い花畑があり、魈の小ささでは雑草の中に入り込んでしまってはその姿を探すのも容易ではない。しかし、雑草の中に光を帯びている一帯が見え、そこへ駆けていくと無事に魈は見つかった。その点では鍾離のシールドは役に立ったと言えると思う。
    「な、何してるの……?」
    「何か気配を感じたので、見に来たのだ。すると、猫が……」
    「ね、ねこ……」
     岩の上ですやすやと蕩けるように寝そべっている猫を、魈はじっと見つめていた。
    「ごめん、魈……ちょっとお願いがあるんだけど……」
    「なんだ」
    「鍾離先生と手を繋いでてくれない?」
    「な!? 鍾離様と手を繋ぐなど、不敬にも程がある!」
    「俺はいいぞ」
    「鍾離様!?」
     空は、目を離すとすぐどこかへ行ってしまう魈を、今すぐにでもレベルアップしたい気持ちでいっぱいだった。しかし、鍾離が是と言ってくれない。ならば、鍾離に面倒を見てもらうのが一番良いと判断したのだ。
    「魈。気になるものがあれば、俺も連れて行くといい」
    「し、鍾離様……」
     鍾離が手を差し出し、その手を渋々といった様子で魈が取る。今度こそ慶雲頂へ行くために近くのワープポイントまで移動した。早速七天神像付近に生えている清心の花を摘み取り、集めていく。
    「魈。手を離さないよう、しっかり握っていてくれ。ここは高度もあり風が吹いている。万が一飛ばされてしまっては大変だ」
    「鍾離様、心配なさらずとも、この地はよく来ておりますゆえ、地の理は熟知しております。次は向こう側まで飛びましょう。あちらにも清心の花が咲いているはずです」
    「あっ、魈!」
     そう言うと、魈は鍾離の手を離し空へ向かって跳躍した。翼を広げて向かいの丘まで飛び、崖を身軽に登っていく。いつもより身体が軽いお陰か、崖登りのスピードも早かった。慌てて鍾離と共に魈を追いかけ、翼を広げて飛んだ。ぜぇぜぇと息を切らしながら上まで辿り着いた時には、既に魈は清心の花を手に持っていた。
    「旅人、あとどのくらい必要なんだ?」
    「あと二十本くらいかも……」
    「ならば、層岩巨淵の方へ行き、魔物を倒しつつ花を集めるのはどうだ。その方が魈の経験になるだろう」
    「そうだね。そうしようか」
     一同は再び移動をし、段差のある岩を登ったり降りたりしながら、道中の敵を倒し経験値を集めていた。鍾離はシールドを展開しつつ、普段は見せることのない軽快な槍裁きを見せている。型でもあるのかと思うほどの綺麗で力強い戦い方は、思わず空も目を奪われてしまう程優雅であった。
     その横で、シールドに守られながらも、自分の背丈以上にある槍を振り回し、魈も確実に敵を仕留めていた。さすが、小さくなってもその力に変わりはないのだろう。と思ったのだが、魈のダメージは出ていないにも等しい。ちょうど良くとどめを刺せるように、鍾離が調節しているかのように見えた。
     戦闘が終われば、鍾離が駆け寄って魈と手を繋いでいた。それにより魈の注意が鍾離の手に向くため、勝手にその場を離れるということがなくなったのである。むしろ空はこの場にいなくてもいいのではないかと思うのだが、これは、空の旅であるからにして、そういう訳にはいかないのである。
     しばらくすると、魈の身体がキラッと光り、レベル2になったことがわかった。昼からそこら中を駆け回って、やっとレベル2である。
    「やっとレベルがあがりましたが……これでは、鍾離様の足手まといにしかならないのではないでしょうか……」
    「たまに動いておかないと身体が鈍ってしまうからな。気にするな。スライムの素材もできるだけ集めておかなければならないだろう?」
    「はい……」
     またもや鍾離は魈の手を取って歩き出した。その後ろを空はついて歩いていたのだが、途中からどうも魈の足の動きが鈍くなっている気がした。次第に足がもつれ、ついには岩につまづいてしまったのだ。転ぶ! と空は思ったのだが、鍾離が手を繋いでいたお陰で転ぶことはなかった。
    「魈、大丈夫か……? ん……?」
    「どうしたの? 先生」
    「いや……どうやら眠ってしまったようだ」
    「え、えぇ!?」
    「疲れてしまったのかもしれないな」
    「魈も……そんなことあるんだね」
     鍾離はぐでっと力の抜けてしまった魈を横抱きにしてかかえ、全く開く様子のない瞼を眺めている。
    「旅人、今日は望舒旅館までひとまず戻ってはどうだろうか」
    「清心もだいぶ集まったし、そうしようか。四人部屋で大丈夫?」
    「ああ。いいだろう」
     鍾離はじっと眠る魈の様子を見ている。魈はスヤスヤと寝息を立てて鍾離の腕を枕にして眠っていた。
    「先生、育児の才能あるよ。うん」
    「そうだろうか? しかし、貴重な体験だけにしばらくはこうしているのも悪くない」
     はは。と魈に笑いかける鍾離の表情は、実に楽しそうだった。
     その晩、四人部屋を取ったのにも関わらず、魈が寝ながら鍾離の服を握り締めて離さないので、二人は一緒に眠っていた。その時も鍾離は、あと百年くらいはこうしていても良いな。と言い出したので、それだけは勘弁して欲しいと思う、空なのであった。
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