ピロートーク2「しょ、りさまは……我の、どこを……好いてらっしゃるのでしょうか」
熱に浮かされて、うっかり出てしまった言葉だった。一度出た音は戻らない。その一瞬、鍾離様は石珀色の瞳を目いっぱい覗かせて、それから、少しだけ寂しそうな顔をしながら我に口付けを落とした。
ああ、言ってしまった。
今し方、愛していると囁いてくださったのに。鍾離様が我を好いてくださっていることは、よくわかっているつもりだった。言葉をたくさんくれる。行動でも示してくださる。疑いようのないはずなのに、口からまろび出てしまった心の奥底の不安に思っている本心が、鍾離様に届いてしまった。
それから訳も分からなくなるくらい鍾離様に愛されてしまって、頭では何も考えられなくなった頃、いつの間にか眠ってしまっていた。
鍾離様の隣は、いつも心地がいい。温かくて、ここにずっと揺蕩っていたい。
実は、鍾離様が寝ている我に色々していること、知っております。
伝えてしまうと鍾離様が止めてしまうかもしれないので、言わないだけです。
知ってて黙っている浅ましい考えを持つ我を、どうかお許しください。
鍾離様からすれば、まだまだ若輩者なのは事実だが、我も二千年は生きている身故、眠っていても、気配は感じているものだ。元々眠りが浅く、身体は動かせないものの、意識が薄らとしている時がある。始めは着替えさせられていたり、布団を掛けてくださったり、情事の後にお手を煩わせていたことに申し訳なさを覚えていた。しかし、それを言う気力も残っておらず、されるがままになっていた。
その内に、何か温かいものが唇に触れている時があった。唇だけではない。頬や額など色々なところに触れるそれは、鍾離様の唇だろう。髪もよく撫でていらっしゃる。髪の手入れなど一切していないが、そんなに触り心地が良いのであれば、起きている間に触って下さっても構わないというのに。
この愛を疑ってしまう方がどうかしている。時折このまま溺れてしまうのが怖いほどに、鍾離様は全力で我を愛してくださっているのだ。
それなのに、たまに鍾離様は情で我に付き合ってくださっているだけではないのか。と思う時がある。
このような関係になったのは岩王帝君でなくなってからなのだが、かと言って途端に我と恋仲になってはあまりに示しがつかないというものだろう。我はそのような関係でなくても良かった。名前を付けずとも、ただお傍にいられれば、それだけで良かったのだ。
元より好意を持っていたのはお見通しだったようで、その気持ちを掬ってくださったことに罪悪感を覚えながらも甘えてしまった。もう戻れないところまで来ている。何をすれば、鍾離様の気持ちを繋ぎ止め続けられるのかがわからない。否、いつでも不要と捨てて下されば良いのだ。
しかし、この気持ちを口に出せば、優しい鍾離様はきっとそのままで良いなどと言うのだろう。
元より不器用で殺戮しか能がない我が、やれ恋だとか愛などに現を抜かすこと自体が間違っているというのに、この気持ちを抑えることがもう出来ないのだ。
鍾離様、疑って申し訳ありません。
何も言わなくて良いのです。知っています。これ以上愛を伝えられたら、我はどうにかなってしまいそうです。
……お慕い申しております。鍾離様。