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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文
    先生ガチャを頑張る旅人と呼ばれた魈

    #鍾魈
    Zhongxiao

    レベル1「魈~~! お願い~~!」
    「なんだ」
     望舒旅館の露台にて、堂主にでも呼ばれたのかと思うほどの声量で旅人に名を呼ばれた。屋根の上に姿を現した魈は、何事かと腕を組んで、旅人とパイモンを見下ろした。
    「魈がいれば……きっと鍾離先生来てくれると思うんだよ……だから力を貸して欲しくて……」
    「? 何の話だ」
     魈は旅人がいる所に降り立った。鍾離ならばわざわざ魈がいなくとも旅人に力を貸すだろう。だから、余計にわけがわからず、魈は眉をひそめた。
     旅人の話によるとこうだ。今は鍾離と共に旅に出られるチャンスなのだと。先程から星に祈っているものの青色か紫色に空が光るだけなのだと。あと数回しか空に祈ることが出来ないので、神頼みならぬ仙人頼みでもしたい。とのことだった。
    「そのようなことを仙人に頼んでも良い結果にはならぬだろう。ましてや我は幸運を呼ぶ存在でもない」
    「いいの。魈は何もしなくてもいいからそこに立っててくれるだけでいいの! ね! 俺が星に祈る所を見ててくれるだけでいいから! お願い」
    「……立っているだけでいいのだな……」
     何やら必死に旅人が頼み込んでくるので、その場を去ることが出来なくなってしまった。旅人は力強く頷くと、これでもいうかと言うほど強い力で手を合わせゴシゴシと擦っている。そうすると、何やら空が一瞬光り、眩しくて目もくらむような星が一つ、露台に向かって降り注いできた。
    「きた! 来たよ魈! ありがとう!」
    「?」
     よくわからないが礼を言われ、魈は光の方を見た。
    「新しい「契約」か? ……分かった、休暇中だが、付き合ってもいいぞ」
    「し、鍾離様……!?」
     魈は驚いた。なんと光の中から鍾離が出てきたのである。
    「む。魈か。久しいな。お前も旅人と共に次の旅へ行くのか?」
    「え、いえ、そうでは……ありませんが……」
     どういうことだ? と魈は思ったが、こうすることで、鍾離に長期間旅の同行をお願いできるとのことだった。
    「鍾離先生待ってたよ~! 早速だけど石珀を取りに行きたいんだ」
    「ふむ。いいだろう。お前はどうする?」
    「我は……」
     旅人が目を輝かせている所を邪魔するのも悪い気もするが、新米の長槍を持っている鍾離に違和感を覚える。
    「鍾離様、破天の槍はどうされたのでしょうか?」
    「ああ、俺にもわからないが、今はこの武器しか持っていない」
    「破天の槍も先生の為に用意したかったんだけど……もう石がなくて……黒纓槍なら渡せるんだけど……」
    「そのような品など鍾離様に渡せぬ。我の和璞鳶を渡せば良かろう」
    「問題ない。受け取ろう」
    「鍾離様!?」
     それはもう武神である鍾離のことだ。武器は何でも鍾離が扱えば最高の武器になるのであろう。しかし、それは魈の矜恃が許さない。と思ったが、あっさりと鍾離はそれを受け入れ黒纓槍を手に持っていた。
     石珀がある場所を目指し少し探索をしていると、スライムが現れた。旅人は鍾離のレベルやスキルをあげる為にそいつの素材が必要だと言っていた。
    「旅人、指示してくれ。俺は前衛でも後衛でも構わないぞ」
    「鍾離様、前には我が出ます」
    「じゃあ、鍾離先生は後ろでお願いするね」
    「ああ、任せておけ」
     鍾離は旅人の後ろへ下がり、岩柱を生成した。途端に魈の身体が玉璋シールドに包まれる。鍾離にシールドを張ってもらうのは久方振りで、魈は思わず胸が踊るような気持ちになった。槍を持つ手にも自然と力が入り、スライム目掛けて風輪両立を幾度と繰り出す。瞬時にスライムは溶けていなくなり、代わりにスライムの液体が落ちていた。鍾離のシールドがあれば何も怖くない。一人で敵を片付けるのも造作もないことだと、旅人や鍾離に目もくれずに目の前のスライムを一掃することに注力していた。
    「っ!」
    「魈!?」
     突然氷スライムが魈目掛けてふぅと息を吹きかけた。威力はそれ程でもない。しかし、鍾離の張ったシールドは二秒と持たずに砕け散り、魈の腕に裂傷ができていたのだ。少し驚いたが、それで怯む魈ではない。すぐに槍を構え、目の前のスライムに槍を突き立てた。
    「魈、大丈夫……?」
    「問題ない」
     旅人が心配そうに声を掛けてくれたが、この程度かすり傷だ。戦闘に支障はない。それよりも気になることがあった。鍾離のシールドはこの程度で割れるものではないはずだ。しかし、いとも簡単に破られてしまっていた。
    「……」
     鍾離を見ると、顎に手を当て何かを思案しているようだった。何か思う所があるのだろう。
    「旅人、これがレベル1の実力ということか……?」
    「えっ、あっ」
     旅人はそうだった! と言いながら懐から大英雄の経験が詰まった本を数冊取り出していた。しかし、鍾離は旅人が差し出した本を受け取らなかったのである。
    「その本は他の者へと使ってくれ。俺はまた一から経験を積むのも良いと思っている。なに、時間はたっぷりある。そうだ。魈、久々に手合わせをしてくれないか」
    「しかし、我では……」
     魈のレベルがどれ程なのかは知らないが、召喚された鍾離が本当にレベル1のままであれば、魈の一撃で鍾離を瀕死に負い込んでしまう可能性もある。そんなことをしてしまおうものなら、魈は金輪際鍾離に合わせる顔がなくなってしまう。
    「降魔大聖殿の相手には足元にも及ばないとは思うが、凡人の今の俺がどの程度戦えるのか実力を知りたいんだ」
    「その言い方は……ずるいかと……」
     足元にも及ばぬとはとんだ謙遜だ。と魈は思ったが、鍾離と手合わせをしたくない訳ではない。
    「旅人、少し時間をもらっても良いか」
    「うん、大丈夫だよ」
    「さて、どこからでも来てくれ」
     そう言うと鍾離は魈に向き合い岩柱を立てた。鍾離自身がシールドに包まれる。しかし、先程それはあまりにも脆いものだと知った所だ。魈が槍で一突きすれば即座に壊れ、鍾離へと槍は届くだろう。そのようにして良いものか、少々槍を構えて魈は思案する。
    「来ないのならば、俺から行くぞ」
    「っ!」
     鍾離が足を踏み出し、黒纓槍をふるった。魈は柄でそれを受け止め薙ぎ払う。鍾離の攻撃は多少重さもあり槍の所作に無駄はないが、魈に当たったとて軽傷で済むのだろうなと想像が着く。ならば敢えて魈が傷を負えば、早く勝負を終わりにできるのではないかと思った。
    「はぁッ!」
    「そうこなくてはな!」
     思っていた通り、槍を振りかざし鍾離の脳天目掛けて放った一撃により、シールドは崩れた。鍾離は魈の槍を腕で受け止め、魈の脇腹目掛けて槍を繰り出した。いつもならそれをいなし空中に逃げることは可能だ。しかし、敢えて魈はそれをしなかった。
    「っ」
     僅かな痛みを感じながら、そのまま地面へ着地する。ちらりと目線をやると服が裂けじわりと血が滲んでいる。この程度であれば大事ではない。ほんのかすり傷だ。
    「……魈、今のはわざとだな?」
    「いえ」
     魈は、鍾離の石珀色の目を見ながら首を振った。鍾離の目が訝しむように細められる。負けてはいけないと魈もじっと鍾離の瞳を見つめた。
    「……まぁいい。傷を見せてみろ」
    「大丈夫です」
    「見せてみろ」
    「……っ」
     もう一度強く言われ、魈は鍾離の前に身体を差し出した。傷の具合をじっと見られ、指で触れられ、段々わざと傷を受けた事に対しいたたまれなくなってくる。
    「……旅人。すまないがやはり大英雄の経験をくれないか。あと、石とやらは俺がなんとか調達するべく尽力しよう。よって、破天の槍も持たせてくれないだろうか」
    「えっと……わかった」
    「鍾離様……」
    「なに、仙人様の後ろに立つんだ。凡人ということに胡座をかいている場合ではなく、最低限の強さは必要だと思っただけだ。お前が気にすることではない」
    「はい……」
     旅人から大英雄の経験本を受け止った鍾離は、その後魈へのシールドを一度も欠かすことなく張り続け、石珀も必要数以上に掻き集め、スライムは絶滅させるのかと思う程に殲滅し、依頼があれば国を問わずに旅人について駆けつけ、最終的には破天の槍を手に取られていたのであった。
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