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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文「恋とは、どのような」
    自信満々に告白しにいったら魈くんに振られる話です。

    #鍾魈
    Zhongxiao

    恋とは、どのような 俺には、絶対的自信があった。
     封印した魔神は数しれず、どれだけの民を救ったかもわからない。魔神でありながら民の信用を得、契約を以て契約の通りに責務をこなす。傲慢だと言われても、俺の所業は書物に多く残されており、そのほとんどが事実だ。今思い返すと、若かりし頃の勇ましい記録も残っており、燃やしてしまいたいと思ったこともあるが、まぁいいだろう。
     それはさておき。俺は最近気づいてしまったのだ。魈のことを好いているのだと。
     神であった頃も気には掛けていたものの、それ以上の気持ちはなかったように思う。凡人としてゆったり生活していると、なぜだかよく足が望舒旅館へ向くようになったのだ。魈がいない時もあるが、見つけると自分の心が嬉しく思っているのを感じる。何か話がしたくて、要点もない話をして引き止めてしまうこともあった。魈は困惑の表情をしていたものの、決して嫌な顔はしていなかった。そればかりか、俺が声を掛けるといつも少し慌てだして、俺が訪れた真意をいつも探ろうと必死になっている。可愛らしいことこの上ない。魈は中々俺に近寄っては来ないが、俺から行くと少しだけ嬉しそうな顔をする。俺にはわかる。魈も俺のことを好いているのだと。思い返せば思い当たる節がいくつもあった。間違いないと思っていた。
     俺はもう神ではない。誰と恋に落ちようが、誰を好きでいようが、誰も咎める者はいない。だから、今なら魈へ気持ちを伝えたら、魈も応えてくれるだろうという確信があった。
     だから、ついに言ってやったのだ。

    「すみません。鍾離様の仰ったことが……今一理解できなかったのですが……」
    「そうか。ではもう一度言おう。俺はお前のことを好いている。だから俺と恋仲になってくれ」
    「恋仲……? ですか……? 誰と、誰が……?」
    「俺と魈に決まっているだろう」
    「我が……鍾離様と……? なぜでしょうか……?」
    「? お前は俺のことを好いているだろう……?」
    「確かに。我は鍾離様のことを慕っております」
    「俺もお前のことを好いている」
     三回目、一日のうちに三回も魈のことを好きだと言っているのに、魈は首を傾げている。正直ここまで話が通じないとは予想していなかった。今頃は『鍾離様』と甘く俺の名前を呼び、顔を赤らめた魈が腕の中にいるはずであったのに。
    「お言葉ですが……鍾離様は我と恋仲になって、何がしたいのでしょうか?」
    「これからも共に居たいと思っている」
    「? 今も、共におります」
    「一緒に璃月港へ行きゆっくり景色を見ながら散歩がしたい」
    「呼んでくだされば、いつでも馳せ参じますが……」
    「俺は、お前の特別になりたいんだ」
    「今でも、鍾離様は我にとって特別なお方です」
    「そうじゃない!」
     つい大声を出してしまった。ここ百年あまりで一番大きな声だった。魈の肩が飛び上がり、目を見開いて驚いている。
    「……すまない。つい声を荒げてしまった」
    「お、お言葉ですが……」
    「なんだ」
     魈の顔がみるみる真っ青になって、拳を握り締めている。俺へ意見するのが怖いのだろう。
    「我には、恋……というものが理解できかねます……その、鍾離様のことは慕っておりますが、そのような対象としては見ておりませんでした故、その気持ちにお応えすることができず……」
     魈が眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうな表情をしながら一生懸命俺に伝えている。
    「そうか……」
    「申し訳ありません……」
    「いい。謝るな。俺が悪かった」
    「いえ、我が悪いのです……」
    「そう何度も謝るな。俺が惨めになるだろう」
    「申し訳ありません……」
     それ以上魈は何も言わず、ずっと俯いている。俺も断られることを想定していなかった為、この後どうすれば良いのかわからなかった。
     今日は一先ず戻ると告げ、その場を足早に去る。
     望舒旅館の露店では、一日の仕事終わりに集まる恋人達で賑わっていた。近しい距離で他愛ない話をし、互いを労い、帰路についていく。
     俺はただ、お前とそうなりたかっただけだった。
     一人夕焼けに照らされ、望舒旅館を背に風に舞うイチョウの葉に見送られながら、足取り重く、璃月港へと帰った。

    「鍾離さん、最近元気ないね」
    「そうだろうか? いつもと変わらないつもりであったが」
    「仕事はちゃんとしてくれてるからいいけどさ~? なんか落ち込むことでもあったの?」
    「そうだな。そんなところだ」
    「鍾離さんにもそういうことあるんだ」
     往生堂で書類に目を通していたところ、堂主が話し掛けてきた。それ自体は日常的によく起こることなのだが、俺の些細な変化に気づかれてしまっていたのは意外であった。
    「ぱーっと休んじゃってもいいんだよ。客卿でも、うちは長期休暇取っても大丈夫だからね」
    「気遣いに感謝する。しかし、仕事でもしていないと余計なことを考えてしまいそうでな。はは」
    「なるほどねぇ。あっ失恋しちゃったとか」
    「ゔっ」
     自分からすれば年端もいかない少女に見事図星を指されてしまい、途端に胸が痛み喉が締まる思いがした。
    「えっ本当 鍾離さんを振るとは中々やるね、その子」
    「いや、失恋したと決まった訳では……」
    「ん? 告白した訳じゃないの? 別の好きな子がいることがわかっちゃったとか それならまだ可能性あると思うんだけどね~?」
    「……そもそも、恋というのがどういうものか知らなかったそうだ」
    「なるほどね。じゃあ鍾離さんのすることはただ一つ!」
    「ふむ?」
    「きっぱり断られるまでアタックし続けること!」
    「なるほど……」
     きっぱり断られてしまったら、俺は傷心のあまり、理性を失くした魔神に成り果ててしまうかもしれない。あれだけ暇があれば足が向いていた望舒旅館にも、ここ数日はすっかり足が遠のいてしまった。魈の気配を探ることもしていない。完全にただの凡人として、往生堂の仕事を手伝って、帰りに三杯酔にて侘しく茶を飲みながら講談を聞いて帰路につく生活をしていた。講談だって、その実半分は上の空で話を聞いていて、内容なぞ頭に入っていなかった。
    「堂主、一つ質問なのだが」
    「なになに?」
    「好いている相手にアタックとやらは、どのようにするのが適切なんだ?」
    「そうこなくっちゃ♪」
     ウキウキと笑顔が咲き乱れる堂主は、可憐な少女のようで可愛らしい。とても自信満々に話す堂主にいくつかのアドバイスをもらったので、早速実践に移すことにした。

    「! ……鍾離様。いかがされましたか……?」
    「ああ、魈。久しいな。薬を持ってきたんだ」
    「あ、ありがとうございます」
     望舒旅館へ行くと、魈は居た。気まずさを隠せないようで、さっきから目線をウロウロさせたままで、俺と目を合わせなかった。正直なところ、俺だって気まずい。つい先日魈のことを好いていると伝えてしまったばかりだ。俺の気持ちを知られているのに、呑気に世間話なぞできそうもなかった。
     懐から薬を出して、魈の手のひらに乗せる。しばしの無言。何も話題が思いつかない。
    「ご用はそれだけでしょうか。では我はこれにて失礼しようと思います」
    「……今日は、綺麗な清心を見つけたんだ。いくつか摘んできたのでお前にも分けてやろうと持ってきた。良ければ受け取って欲しい」
    「我にそのような……お気遣いありがとうございます。しかし……」
    「受け取るのは嫌、か」
    「そのようなことは断じて! ……謹んでいただきます」
     清心の花は璃月の様々なところに咲いているが、基本的に高所にしか咲いていないうえに、群生しているわけでもない花の為、凡人が摘み取ることは難しい。俺はそれを魈への手土産にしようと無心で集めていたところ、束になるほど集めてしまった。そこで包み紙を用いてリボンで結わえることにした。清心の花束を魈へと差し出すと、ふわりと辺りに花の香りが漂った。
    「このようにたくさん……しかし、受け取ったとして我にはこれをどうすれば良いのかわかりません……」
    「部屋に飾ればいい」
    「しかし、我は毎日あの部屋に帰っている訳でもなく……三日と経たず枯らしてしまうでしょう」
    「では、一本だけ押し花にするのはどうだ。お前の部屋にも本くらいあっただろう」
    「ではそのように……。ありがとうございます。大事にします」
    「押し付けでは意味がない。お前が大事にしたいと思ってくれたなら、そうすればいい」
    「いえ、鍾離様にいただいた物は、我にとってどれも大事なものでございます」
     魈が花を見つめ、一瞬だけ柔和な表情をした。決して俺のことを嫌いではないのだろう。
    「お前は俺に望むことはないのか?」
    「は……? ええと」
    「俺に足りない所があれば善処しようと思ったまでだ」
    「鍾離様に不足しているところなど、ある訳がありません」
    「そうか。難しいな。ではどうすれば俺のことをそういう対処として見てもらえる?」
    「それは……わかりません……。ただ……」
    「ただ?」
    「鍾離様がこうして我に会いに来てくださるのを、嬉しく思っているのは事実です」
    「そうか。ではまた会いに来る」
    「はい。お気をつけて」
     用件は済んだので、望舒旅館を後にした。一度だけ振り返ると露台には花を抱きかかえ、僅かに微笑む魈の姿があった。
     その姿を見て、やはり魈のことをどうしようもなく好いてしまっていて、その笑みを俺に向けて欲しい。と思わずにはいられないのだった。
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