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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    鍾魈小話

    #鍾魈
    Zhongxiao

    11.11「今日は面白いものを手に入れたんだ」
    「面白いもの……ですか……?」
     鍾離の邸宅にて名を呼ばれ、数秒とかからずに馳せ参じた。ひとまず鍾離に大事がないことが確認できて、ほっと息を吐く。
     鍾離の手には見た事もない小さな箱が握られている。赤一色で塗られた箱の中心には棒のような絵が書かれていた。魈は、鍾離の言う『面白いもの』とやらをしばし凝視してみたが、突然何かが飛び出してきたりするような気配は感じなかった。
    「これは異国の菓子で、旅人がくれたものだ」
    「菓子……」
    「甘味が強いもののようなので、お前にも食べられるだろう。今日はこれを共に食べたくて呼び出したのだが、どうだろうか」
     鍾離がただ甘味を魈と食べたい、と呼び出されたことに対しては、素直に嬉しいとは思う。しかし、そのような用向きならばいつも鍾離が望舒旅館へと足を運んでいるような気がしたので、些か不思議に思った。
    「……はい。承知しました」
    「なに、ただの菓子だ。そうかしこまらずとも良い。早速だがいただこう」
     椅子に座るよう促されたので、座して鍾離が箱を開けるのをじっと見ていた。箱の中には更に小包が入っていて、それを開けると棒状のものが数本出てきた。
    「それが、今日の菓子でしょうか」
    「そうだ。力を入れるとすぐに折れてしまいそうだな」
    「その、茶色の部分はなんですか」
    「これはチョコレートという、異国の菓子だ」
    「ちょこれーと……?」
    「凡人の間では人気の菓子らしい。この部分が一等甘いそうだ」
    「さようでございましたか」
    「では……ん」
    「はっ!?」
     思わずガタッと音を立てて椅子から立ち上がってしまった。説明もそこそこに、鍾離がその菓子を口に含んだと思ったら、反対側の先端を、まるで食べろと言わんばかりに魈の唇に向けたのだ。
     この菓子の食べ方や作法を先に聞かなかったのは自分の不徳の致すところではあるが、同じ棒を双方から食すという素っ頓狂な食べ物なんて聞いたことがない。
     棒と鍾離の口元を、目を白黒させながら交互に見ていたが、一方の鍾離は何とも平静な態度で、指先は棒の先端を差している。
     なんて恐ろしい食べ物だ。凡人はこのような不埒な食べ物を好んで食しているのか? 理解できん。
     そう思ったが、目の前の凡人として生きている自分の神が、それに倣おうとしている。拒否することは許されない。ここは、鍾離に付き合わなければいけないと悟った。
     意を決したものの、棒に齧り付くには鍾離の顔に近づかなければならないと気がついてしまった。心臓がドキリと跳ねる。最早血の気すら引いてきた。呼吸も浅く思考が覚束ない。それでもそっと、棒を口に含んだ。
     口内の温度で溶けていくチョコレートの味は、確かに甘い。
    「ひっ!?」
     味は悪くないと思ったところで、向かいからガリっとした音と、もう一口分魈に近づいた鍾離の顔があった。驚きに目を見張り、変な声が出てしまった。
     どういうことだ!? これは、お互い一口ずつ齧りあって食べるものなのか!?
     もうわからない。だって、鍾離は何も言わないのだから。いや、鍾離のせいではない。無知な己が悪いのだ。
     見よう見まねで鍾離の真似をして、少し齧り取り、一口進める。もう無理だ。だって、鍾離の顔がこんなにも近い。心の準備も出来ないままに、また一口分鍾離が近づいている。鼻で息をしようものなら鍾離に届いてしまいそうなので、息をするのも止めた。もうあまり菓子の部分は残っていない。いや、待て。このまま最後まで食べたら、どうなる? それは……耐えられる気がしない。
    「んんっ!? ……はっ……ぁ」
    「魈っ! 大丈夫か……?」
     いよいよ頭の中が真っ白になったところで、最後の一口を鍾離が食べ、ちゅ。と魈の唇に口付けをした。たったそれだけのことで腰が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。しかし、咄嗟に鍾離に抱き寄せられてしまったので、されるがまま鍾離の胸に体重を預け、ぎゅっと外套を握った。
    「この菓子は……もう、二度とご容赦ください……」
    「はは。お前にはまだ早かったか。すまない。普段は一本ずつ食べるそうなのだが、今日だけは好いている者と両端から食べ合う菓子になるものだと旅人から聞いてな」
    「……」
     旅人。頼むから、鍾離様に変わったことを教える時には、我にも同じことを予め教えておいて貰えないか? 心臓が持たぬ。
     次に会ったらそう伝えよう。絶対伝えよう。なんなら今すぐにでも伝えに行きたい。と鍾離の腕の中で思う魈なのであった。
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