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    utusetu4545

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    #ウツセツ

    気づいて!愛弟子!「愛弟子がまったく俺に気づいてくれないんです」
    げんなりとしたウツシ教官が、茶屋の席で突っ伏していた。相談事があると言われ何事かと思ったら、エルガドに己が来ていることに愛弟子に気づいて貰えず、どうしたらいいかと悩んでいたそうだ。
    「里を離れた愛弟子が寂しくないかと気になって急いでやってきてから数日が経ちます!驚かせてみようと思って物陰から隠れてみていたけれど!一向に!俺に気づいてくれる気配が!ありません!!」
    「そんなに悩むぐらいなら、いっそ目の前に出てきてはどうじゃ?猛き炎殿も探しておったようじゃからの。きっと喜ぶわい」
    ぐずぐずとしたウツシ教官を横目に、相談を受けた竜人族の博士パサパトは茶をすすりながらのんびりとした口調で答えた。
    里からヒノエ、ミノト姉妹とウツシ教官が初めてやってきた時のこと。里から船が出たと知らせを受けた猛き炎殿はそれはそれは彼らの到着を心待ちにしていた。しかし、彼らの到着とちょうどクエストと重なってしまい、会えずじまいだったのである。
    姉妹はギルドの仕事もあり早々に里に帰り、時折エルガドに来てはモンスターの調査結果を共有しているようだが、ウツシ教官の来訪頻度はその比ではない。たまにしか帰ってこないバハリよりもむしろ馴染んでいる感すらある。
    「しかし何故お主から会いに行かぬのじゃ?驚かせてやるつもりなんじゃろ?」
    パサパトが問うとウツシ教官はバツの悪そうな顔をした。
    「いやあ、前に新しい操蟲術を教えようとエルガドに来たことがあるんですが、愛弟子は俺の気配に気づかなかったみたいで。気配察知の訓練の一環と思って、今回は愛弟子が気づくまで名乗り出ないようにしようと思ったんですが…」
    「なるほどのお」
    「愛弟子がもう少し拠点を探してくれたり観察してくれるようなことがあれば、きっと気付いてくれると思うんですけど…」
    「ほうほう…」
    豊かな顎髭を撫でていた老竜人はそういえばと、とあることを思い出した。
    「わしの友人にフクズクの生態に興味のあるやつがおっての」
    「はい…?」
    「今度拠点の中のフクズクたちの写真でも撮って送ってやろうかと思っているのじゃよ」
    「は…」
    愛弟子の話をしていたのに、突然なんの話しをしているんだ、という顔をされているが、構わず続けた。
    「ただ、この老体で拠点を動き回るのも辛くての。良ければ猛き炎殿に頼もうかと思っておるんじゃが」
    言いつつウインクしてやると、意図を汲んだウツシ教官の目に光が宿った。
    「なるほど!それはいいお考えですね!!俺も早速準備を始めなきゃ!!!」
    今までの湿っぽさはどこへやら。水を得た魚のように元気を取り戻したウツシ教官は素早く茶屋から姿を消した。


    「パサパトさん。こちら、フクズクの写真です。3枚撮ってきました」
    「おお、ご苦労じゃったの」
    クエストから戻った猛き炎殿に頼んでみたら快諾され、あっという間に拠点内のフクズクの写真を撮ってきた。
    「手間をかけさせてすまなんだ、おかげで友に送ってやれるわい」
    「いいえ、そんな。お気になさらず」
    「ところで、拠点の色んなところを見ることになったじゃろう?新しい発見は、あったかな?」
    猛き炎殿は、はい!と爽やかに返事をした。
    「自分のフクズクと白い小さなフクズクの子供はすぐ見つけられたんですが、白フクズクの成鳥だけ探すのに手間取りましたが、なんとか。まさかあんな所にいただなんて盲点でした」
    見てるつもりでも、見落としているものがあったんだなって感じました。もっと観察しないと。と続けた。優等生の回答であるが、後方でじっと見つめている己の師にはまだ気づいていないらしい。
    「ほうほう、そうかね。ところで、いつもと違う様子はなかったかの?」
    「え?この拠点の中で、ですか?」
    「うむ」
    ええっと…と考え込むあたり、本当に気づいていないようだ。
    ウツシ教官は気づかせるように準備していたのではなかったのか。ちらりと教官の様子を見るとショックを受けているようで顔を覆っていた。
    「特に何も…いつもと変わりなかったかと思うのですが、なにかお心当たりが?」
    「いや、なんでもないんじゃよ。それならええんじゃ」
    そうですか、それじゃ。また何かありましたらお気軽にどうぞ。と言って猛き炎殿は去っていった。
    奥からウツシ教官がよろよろと出てきた。
    「愛弟子………どうして………」
    ウツシ教官はがっくりと項垂れてしまった。
    「準備をしていたのではなかったのかの?」
    「しましたよ!写真撮ってる間一生懸命応援したり!最後のフクズクがどうしても見つけられなさそうだったので、鳴き声のモノマネをして誘導したり!それなのにっ!どうして気付かないんだ!愛弟子よ!!」
    いつも俺はクエストに行く君の背を上から見守っているというのに!などと吼えている。
    「あそこまで鈍感とは思わなかったな…。いつもと変わりないなんて!そんなことないのに!確かに最近はほぼ毎日愛弟子の様子を見ているし、拠点でも自室でも見守っているけれど!あそこまで目立つほど動いたこと無かったのになあ!」
    「自室?」
    「そう!自室!あの子がきちんと睡眠が取れているか、不慣れな環境で眠れていないか気になって見守っているんです!そんなことないみたいで安心したけれど!」
    「お前さん、あの子の自室に入り込んでおるのかね?」
    「え?ええ」
    それが何か?ときょとんとした顔をむけるウツシ教官にパサパトは暫し言葉を失った。カムラの里にはプライバシーというものがないのだろうか。
    「仕方ない、もしかしたら気づいてくれるかもしれないし、せっかくだからもう少し様子を見ます!ご協力ありがとうございました!」
    それじゃ!と爽やかに手を振ってウツシ教官は姿を消した。
    あの師に育てられ、よくまあ真っ直ぐ真っ当な子に育ったもんじゃ、とパサパトはしみじみ思った。
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