25私が本家を出る前日、正さんは悟に全てを打ち明けたそうです。悟は「あ、そう」とだけ言ったということでした。
当日、悟になんと声をかけたらいいか分かりませんでした。悟は縁側で乳母と一緒に光をあやしていました。その後ろ姿を見て、悟とあなたの幼い頃を思い出しました。
私は悟と言葉を交わすことなく家を出ました。悟は私が後ろで見ている事に気付いていたようですが、振り返る事はありませんでした。
私は今、九州にいます。
正さんが用意してくれたのがそこの分譲マンションの一室でした。家具も家電も用意され、費用も全額支払われていました。テーブルには印鑑とカードと通帳がおいてあり、この先私が働かずとも死ぬまで大丈夫、と思われるくらいの金額が記帳されていました。私に社会経験がなかったので、せめてもの情け、長年五条家に仕えた謝礼というところでしょうか。私はありがたく受け取り、静かに暮らしています。
あの部屋で、私は1人で生き、一人で死んでいくことでしょう。これが我が子に人を殺めさせた、我が子同然の女性の身体に一生消えない傷を付けた私への罰だと思っています。
あの日の事件で、悟にはウィークポイントとなる人間がいると呪術界に知れ渡りました。その為あなたがいる場所を誰にも知られたくありませんでした。まだ、あなたは安全ではないと思っています。正さんはあなたがここにいる事を知っていますし、あなたが望むなら札幌に家を用意すると言っていました。ただし、あなたには気付かれないように護衛を置くそうです。
今見たところ、バリアがきちんと機能しているようで少し安心しました。
多分、私はもうそのバリアに弾かれてしまうのでしょうね。
最後に_____
これはあなたの為にと昔から少しずつ貯めてきたお金が入っている通帳とあなたの名前の印鑑です。悟と結婚する時に渡したかったけど、私はもうあなたたちの前に現れることはないと思うので渡しておきます。
とっておいてください。使い方はなんでもいいです。好きなことに使ってもいいし、寄付してもいいです。それは昔からあなたのものです。
話を聞いてくれてありがとう。
謝っても許されない事をしたと思っているので謝る事はしません。
私は六眼を持つ男の子を産み、その子供が最強の呪術師になると言われて自尊心をくすぐられ、誤った判断をしました。
何故正さんがあんなに怒ったのか、一人になった今はきちんと理解しているつもりです。
光の事は心残りですが、それも私が受ける罰として受け入れています。
悟も、あなたの事も、本当に愛していました。
もちろん今でも愛しています。
二人に明るい未来が訪れる事を祈っています。
そう言うと彼女は立ち上がった。
私は一言もしゃべらず彼女の話を聞いていたが、突然の告白をどう受け取っていいのか分からなかった。
ゆっくり一例をすると、彼女はドアに向かった。
「待ってください_____」
私が声をかけると、彼女は振り返った。
「教えて欲しいことがあります」