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    pieesuke_kun

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    pieesuke_kun

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    セリフが多いので横文字の方が見やすいかなと思って、試しにポイピクを使ってみています。
    モクおじのセリフ回しがどうにも難しくて、練習のためにセリフ多めのやつを書きました。

    #モクチェズ
    moctez

    モクマとモブと謎の美女 美しい女が花のように佇んでいた。
    彼女は今宵のレセプションの主役ではないが、その美しさは周囲の目を引いて、常に人だかりの中心になっている。その人だかりの中には主催者である警備会社の社長までいたので、モクマはなんだか複雑な気持ちになりながら遠目でそれを見ていた。
     モクマは今、潜入中である。目的はとあるセキュリティの弱点を探ること。そのセキュリティの大元である警備会社のレセプションに“お呼ばれ”したので、これ幸いとパーティに赴いている。無論、チェズレイと二人で。
     そのチェズレイは随分と忙しそうにしているので、パーティが終盤に差し掛かって暇を持て余したモクマは、ひとり隅の方で酒を飲み続けている、タキシードの似合わないどうにも場違いな男に声をかけた。

    「やぁ、暇してるみたいだね」
    「そうなんだよ。こんな退屈なパーティ、暇で暇で仕方ねぇや。そういうアンタもアレかい、立場上出席しなきゃならんかったクチかい?」
    「似たようなもんだ。せっかくだし一杯、どう?」
    「乗った。似た者同士気軽にやろうぜ」

     乾杯、と差し出されたグラスを持つ爪の先が油で黒く汚れていた。綺麗に洗う暇が無かったのか、つい先程まで作業をしていたのかは分からなかったが、なんにせよ準備する間もなく、急にこのパーティーへと引きずり出されたのだろうことが伺いしれる。
     モクマが乾杯、と返すと、男はそのままグラスを口に運ぶ。気持ちのいい飲みっぷりだった。男はアルコールが全身に染みるのを味わってから、ため息とともに愚痴を漏らす。

    「窮屈なもんだ。このタキシードも、パーティの空気も。早くラボに戻りたくてしかたない」
    「ラボ?お前さん、ラボの務めなの?」
    「あぁ、そうさ。こんなんでも一応責任者でね。形だけでもこのレセプションに出席しないとならなくなっちまったのさ」

     意外なことに、男はなかなかの重役だったらしい。ラボとはこのレセプションを主催している警備会社のセキュリティシステム開発を行っている施設の俗称のようなもので、その責任者といえば、もう少しふんぞり返っていてもいいものだ。しかし男がその立場を疎ましく思っているせいか、威厳のようなものは全くなかった。

    「難儀だねぇ。でもまぁ、しょうがないさ。なんせその開発成果を応用した技術が今度開店するお店に使われてるワケでしょ?」
    「そうなんだよ。まぁ応用っていっても簡単な話だけどな。ただ熱を加えると──……おっと」
    「今のは聞かなかったことにした方が良いヤツ?」
    「そうしてくれ」

     男はバツが悪そうにそっぽを向いて、ぼんやりと人だかりの中心を見つめる。そこにはやはりというか、花のような美女がいた。
    美女はこちらの視線に気がつくと、左手を口に当ててクスリと笑い、また人だかりの対処に戻ってしまう。
    男は名残惜しそうに美女の左手を見つめて、それからまたため息をついた。今度は深い落胆が滲んだため息だった。

    「あの人、本当に綺麗だな」
    「そうだねぇ」
    「どこの誰なんだろうなぁ、あんな高嶺の花を射止めた男は」
    「えっ、なんで相手がいるってわかるの!?」
    「左手の薬指」

    女の薬指に目を見やると、キラリと銀に光る指輪がしてあった。

    「あ〜……」
    「なんつー声出してんだ。あんな美人、俺らなんざハナから相手にしないさ」
    「違う違う。あの子ね、おじさんの……コレなのよ」

    モクマは急に声を潜めて、名言こそしなかったものの、小指だけであの美人が自分の恋人であると告げた。
    男は数秒呆気に取られて、口をあんぐりと開けたまま硬直していたが、直ぐに冗談だと思って、気品に満ちたパーティ会場には到底似つかわしくない大笑いをする。
    周囲の視線が一斉にこちらに集まって、件の美女がモクマを睨んだ。目立つな、と暗に言っている。

    「ハッハッハ!そりゃあ、冗談かい」
    「嘘みたいだけど、ホントなのよ。これが」
    「アンタ、指輪はしてないじゃないか」
    「こういう場の時はね、お互い外しとこうって約束だったの……」
    「そりゃまた、なんで」
    「意外でしょ?一見、不釣り合いに見える。そのせいで変な詮索されるのもめんどくさくってね」

     男はモクマを庇おうと一瞬言葉を探して、すぐに諦めた。

    「あぁ、まぁ……。確かにな」
    「だからお互い指輪は外しとこうねって言ってたんだけど……なんで付けてきてるんだろう」
    「オレに聞かんでくれ。まぁ……、あの美人さんだけが付けてんならいい虫除けにはなるんじゃないか」
    「あぁ、確かに!なるほどねぇ。そういう意味だったかぁ」
    「なんだ、他の意味を考えてたのか」
    「えへへ、自惚れだよ。あの子、滅多に指輪なんかしないからさ」
    「かァーっ、ヤんなるな。他人の惚気なんざ酒が不味くなっちまう」

     そういいながら男は笑って、グラスに残ったシャンパンを一気に飲み干す。

    「おっ、やるねぇ!男前っ」
    「何が男前だ、ほんのちょびっとしか残ってなかったぞ」
    「酒はちょびっとでも、今のは俺の惚気のぶんもかさましされてたでしょ。それを飲み干すのはじゅうぶん男前だ」
    「ハッハッハ、おだてんのが上手いな、アンタ」

    もう一度男が笑って、つられてモクマも笑った。なかなか格式高いパーティだったが、二人が会話するこのテーブルだけは、まるで居酒屋のようだった。
     そうして他愛もない話を続けていると、いつの間にやらパーティが終わろうとしていた。ただの退屈しのぎとしてはかなり上質な時間を過ごせたと、二人は握手をして別れの挨拶をする。

    「声をかけてくれてありがとう、楽しかった。引きずられてでもパーティには来るもんだな。そら、受け取れ」

     男は裏に何かを書いてから、名刺を差し出した。

    「えっ!メールアドレス……!?そんな、困るよ……俺にはあの子が……」
    「ハハ!冗談キツイぞ。困ったことがあったら連絡してこいって意味だよ。まぁ、ソイツは私用だから、また飲みにでもいこうやって意味もある」
    「ありがたいね、でも俺、各地をフラフラしてるからなかなか付き合えないよ」
    「そりゃあ残念。まぁ暇つぶしに付き合ってくれた礼みたいなもんだ。ラボの責任者のメールアドレス!人脈として取っとくのもアリだろ?」
    「ははっ、確かに!じゃあ俺からも一ついい事教えちゃおうかな」
    「おおっ、なんだ?」
    「あの子はね、」
    「あの美人は……?」
    「すっぴんもめちゃくちゃかわいいよ」

    やけに深刻そうな顔から発されたのが、なんともお熱い話だったので、男は今度こそ堪えきれずに声を上げて笑った。
    咎める衆目は、既になかった。

    「ハッハッハ!ただの惚気か!犬も食わねぇや!」
    「ごめんごめん!じゃあコレ、惚気けちゃったお詫びね」

     モクマは人だかりの対処を終え、誰かを待ちぼうけている美女を呼んだ。美女は若干面倒そうな顔をしたが、直ぐにモクマの方へやって来た。

    「モクマさん。どうかしましたか」
    「この人にアレ渡してもらってい〜い?」
    「ご自分で渡せばよろしいのでは」
    「お前さんに預けたまま、忘れちゃってて……」

     美女はモクマをじとっと見つめた後、男に向き直って、やはり美しく笑った。

    「私の……亭主、がお世話になりました」
    「えッ、あぁ。いや、オレも……ずいぶん楽しませてもらったよ」

     男はなんというか、先程まで遠巻きに見つめていた絶世の美女が目の前に現れたのに、鈴がきらきら鳴るような美しい声色で「亭主」とどこかぎこちなく呼ぶものだから、恋をした矢先に失恋したような、なんとも言えない気持ちになって、調子を崩しそうになる。

    「こちらをどうぞ」

     美女のすらっとした綺麗な手から、何やら紙が渡される。名刺ではないようだが、そこにはどこかへのメールアドレスが書かれてあった。男はそのメールアドレスを見て、私用のメールアドレスでは無いことに気が付き、それを不思議に思った。話の流れからして、ここで出てくるのはモクマの私用のメールアドレスだと思っていたからだ。

    「これは?」
    「私どもの会社のメールアドレスです」
    「……なんでまた」
    「困った時にご連絡頂こうと思いまして」
    「困る予定はないが」
    「わかりませんよ、セキュリティシステムが突破された時など、責任を取らされるのはあなたでしょう」

     美女が大真面目に不安なことを言うので、男はなんだかそれが本当に起こりそうな事のような気がしてきて、身震いをした。

    「やめてくれ、縁起でもない」
    「まぁまぁ。チェっ……お前さんもその辺で。ごめんね、この子物事を深く考え過ぎるところがあって……」
    「いや、気にしないでくれ。なんにせよ、それはありがたくもらっておくことにするさ」
    「それがいいでしょう。今はただ、何の変哲もない人脈としてお考え下さい」

    そうして別れたその数週間後、本当にセキュリティシステムが破られて責任を取らされるはめになった男が彼らに助けてもらったのは、また別の話。
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235