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    高専+離反後

    #五夏
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    雨(ワンライ) ぽろんぽろん。ぽつぽつ。ぴちゃんぴちゃん。
     雨粒が傘に当たって跳ねる音がする。それから地面に落ちる音、踏み出した靴に跳ね返る音。
     雨の日は案外賑やかだ。雑踏の音は遠くなって、雨の音が鼓膜によく響く。

     任務の帰りだった。五条とふたりで行くことになった任務は、驚くほど弱い呪霊だった。わざわざ自分たちが行くほどではないのではないか、と驕ってしまうほどの。
     しかし呪霊は弱い代わりに速かった。逃げ足が早く、しかも縦横無尽にあちこちに逃げ回る。躍起になって追いかけても無理だと悟り、二手に分かれて逃げ道を塞いだ。
     追いついてしまえば呆気ないもので、追いかけっこに苛立っていた五条があっという間に祓ってしまった。機会があれば取り込みたかったのにと文句を言えば、五条は早い者勝ちだと舌を出した。顬がひくりと脈打つ。
     運の悪さはどうやら重なるもので、思いがけず遠くまで来てしまった道を戻っている途中に、ぽつりと一滴水が落ちてきて顔面に当たった。思わず空を見上げれば厚く暗い雲からさらにもう一滴。次第にそれらは頻度を増し、本格的な雨になっていった。
     思わず舌打ちが漏れる。雨予報は出ていたし雨雲が近づいているのはわかっていたから、降る前に任務を終わらせたかったのに。
     夏油はコンビニでビニール傘を仕方なく買い、雨の道に戻る。それを外で待っていた五条は、雨の中でも何食わぬ顔をしていた。傘をささずとも、雨が五条を避けるように落ちていく。
    「雨降ると大変だな」
     それが嫌味で言われたことくらい、夏油にだって容易にわかる。出鱈目な術式のせいで、五条には一滴も水が落ちてこない。普段だったらそうだねと同意出来たかもしれないが、いまの夏油はそれが出来そうになかった。なんせ、誰にもぶつけようのない鬱憤が溜まっている。だったら目の前にいる五条にぶつけてもよかろう。
    「そうでもないよ」
    「ふうん?」
     夏油が強がっているのだと思ったのだろう。五条はニヤニヤと意地の悪い顔をしていた。それが余計に腹立だしい。
    「悟は知らないだろうけどね。雨の音は案外賑やかで綺麗なんだ」
    「……ふーん」
    「傘のなかだけ世界が分断されたような感覚も独特だろうね」
    「へぇ」
     興味のなさそうな声から、感慨深気な声に変わる。もう少し。
    「それに、こんなこともできる」
     そっと近付くと、五条がこちらを横目に見る。傘を少し斜めに傾けて視界を隠すと、夏油はそのまま五条の唇を奪った。一瞬触れるだけですぐ離したそれは、どうやら五条には予想外だったらしく、離れていく夏油を目を丸くして見ていた。ぽかんとした顔は可愛いと言えなくもない。
    「えっ!はっ?傑!?」
     なんだい、と笑ってやると、五条は悔しそうな顔をしていたので、夏油の溜飲はずいぶん下がった。くくっと笑い声が漏れ、ぴちゃんと雨の落ちる音がする。
     足が止まった五条を置いて、夏油は歩き出した。やがて五条が走って追いついてくる。雨だまりに足音が跳ねて賑やかな音がした。
    「傑!ずるい!ずるいぞ!」
    「なにが?」
     地団駄を踏んでいる五条は子供かと言いたくなる姿をしていた。だから余計に笑いたくなって、夏油は追い討ちをかけることにした。口角が知らずに持ち上がる。
    「悟。雨だと他にもいいことがあるよ」
    「なに!」
     横に並んだ五条の手に自分のそれを絡ませる。外での接触をあまり好んでこなかった夏油だからこそ、効果があると確信があった。
    「雨を理由に誘える」
     夏油の視線の先にはネオンが光る安っぽいホテル。夏油の誘いを正しく受け取った五条は、照れを隠すように繋がった手にぎゅうと力を込める。少し痛いくらいのそれに、今度こそ勝ちを確信して夏油は笑った。
    「なに!なんなの傑!」
    「なにを怒っているのかわからないな」
    「補助監督待ってんじゃんどうすんの」
    「そんなもの、連絡すればいいだろう。明日帰るって」
    「傑悪いヤツだな!」
    「じゃあこのまま帰る?」
    「帰らない!」
     結局帰らないんじゃないかと夏油が笑えば、繋いだ手を五条に引っ張られる。早く行こうと行動で誘ってくる五条に、夏油も足を踏み出した。
    「悟。雨も悪くないだろう?」
     その答えは、ふたつ重なるぱしゃんという足音が物語っていた。



     ぽろんぽろん。ぽつぽつ。ぴちゃんぴちゃん。
     雨の音は案外賑やかだ。部屋のなかにいても、否、いるからこそ雨音が届く。
     そして訪問者の足音も、いつもよりずっと響く。
    「おや珍しい」
     そこにいたのはズブ濡れになった五条だった。身を隠しているはずの夏油の居場所を、どうやって探し当てたのか、何故雨に濡れているのか、なんて不粋なことは聞くまい。
    「どうしたんだい」
     黙ったままの五条を促すように、やさしく問いかける。五条はおそろしいほどに静かに、そこに立っていた。
    「……雨宿りさせてよ傑」
    「いいよおいで」
     面食らったその言葉に、けれど夏油はなんでもない顔をして五条を部屋の中に入れた。袈裟を翻す衣擦れの音が、ふたりの間を通り抜けて消えていった。
     しとしとと、雨が降っている。まだ止む気配はなかった。
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    ask_hpmi

    DONE夏のある日
    水着(ワンライ)「あっちい~」
    「言うな悟、余計暑くなる……」
     湿度を含んだ空気が、じっとりと肌にまとわりついて気持ちが悪い。なにもしなくても外にいるだけで汗が吹き出し、こめかみのあたりからつうっと汗が流れ落ちた。ジィジィと蝉が鳴く音があちこちから響き、視界がゆらりと揺らめくほど高温が立ちこめている。
     白と青のコントラストが強く、高く積み上がった雲の影が濃い。ぎらぎらとした日差しが容赦なくふたりを焼いていて、まごうことなく夏真っ盛りである。
     呪術高専は緑豊かな場所にある。はっきり言えば田舎で、コンクリートの照り返しはない代わりに日陰になるような建物もなく、太陽が直接ふたりに降り注ぐ。
     あまりの暑さにコンビニにアイス買いに行こうと言い出したのは悟で、いいねとそれに乗ったのは傑だ。暑い暑いと繰り返しながらなんとかコンビニまでたどり着き、それぞれアイスを買う。安いと悟が驚いていたソーダアイスは、この暑さでは格別の美味さだった。氷のしゃりしゃりとした感触はそれだけで清涼感があるし、ソーダ味のさっぱりとした甘さがいまはありがたい。値段のわりには大きくて食べ応えがあるし、茹だるような暑さにはぴったりだった。
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