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    #五夏
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    ハグ(ワンライ)「すぐる」
     そう言って倒れ込んできた悟のことを、傑はしっかりと抱き留め、そのまま彼の背に腕を回した。例えば悟が負傷して倒れてきただとか、体調が悪いだとか、なにかしらの問題があって傑に助けを求めて倒れてきたのであれば、こうも悠長にしていられないが、そうではないとわかっているので傑も特段慌てたりしない。そもそも、出鱈目な術式を持っている彼が負傷するようなことはほぼ有り得ないが。
     自身と大差ない、広い背中を包むように腕を回し、やさしく撫でてやる。まるで赤子をあやすようにぽんぽんと優しいリズムを刻んでやれば、ほう、と悟は息を漏らした。
    「うう……落ち着く……」
    「それはよかった」
     傑の体温を全身で享受しようと、覆い被さるように抱き締められる。細身に見えてそこそこ鍛えている悟にぎゅうぎゅうと抱き締められると苦しいくらいなのだが、その息苦しさが傑は嫌ではなかった。抱き締める傑の腕の強さも増して、お互いがお互いの体温に身を委ねる。瞼を伏せた傑も、このやさしい温かさを甘受していた。

     きっかけは大したことではない。
     距離感が近い悟と、その距離感を見誤った傑がぶつかったからだ。すごい勢いで突進してきた悟をうまく避けることが出来ず、傑は彼の大きな身体を抱き留めた。
     なにをやっているんだ、ごめんごめん、気を付けてくれよ。きっとそんなふうに言って離れてしまえば、日常に紛れてさらりと消えてしまうような、何気ない出来事だったに違いない。
     それなのに意外とそれがしっくり来てしまったのだから、傑は驚く他なかった。さらりとした肌の感覚、首をくすぐる柔らかな髪の毛、自分の指先に触れる大きな肩甲骨、石鹸とシャンプーが混じったような爽やかなにおい、そして、とくとくと静かに刻み続ける鼓動の音。
     傑と体格があまり変わらないので、強く抱き締めても壊れやしないという安心感がある。傑が指先に少し力を込めれば、悟の腕にも同じように抱き締められた。自分の背に添えられた大きく温かい掌を感じながら深く息を吸い込み、ゆっくりそれを吐き出す。ゆるゆると力を抜いて悟の腕に体重を預けると、全身にこびりついていた疲れがすうっと消えていくような感覚がした。
     これは、気持ちいい、かもしれない。
     腕の中の悟も力を抜いており、互いに体を預け、預けられている状況だ。強く抱き締めようが、すべての体重を預けようが、悟ならば大丈夫だといういままで感じたことのない安心感に、傑はほぅ、と溜息にも似た感嘆の声を零した。
    「気持ちいい」
    「……そう、だね」
    「また、こうしてもいい?」
    「……いいよ」



     そうやって始まったこの行為は、いつの間にかすっかりふたりの日常に組み込まれてしまった。互いに手を伸ばすこともあれば、疲れが溜まったどちらかの疲労回復に努めることもある。
     とはいっても、傑が言い出すよりも悟が呼び出すほうが格段に多かった。もともと距離感が近い彼は、傑の名を呼びながら近づいてきては抱き締めたがったし、抱き締められたがった。
     仕方がないという体を崩さない傑だったが、それを拒否するどころか甘んじて受け入れているのだから、実は悟と大差ないのかもしれない。互いに忙しくてあまり会えないと、次はいつ悟に会えるだろうかと頭の片隅で考えている。任務に忙殺されていても、わずかな時間でも悟に会いさえすれば得られる穏やかな時間と途方もない安心感は、いつの間にか傑に必要なものになってしまった。悟の腕のなかでしか得られないものがあることを知ってしまったから。
    「久しぶりだね。忙しかった?」
    「そう聞いてよ傑!昨日の任務がさ!」
     任務を言い渡された場所があまりにも遠くて疲れただの、あのくらいの呪霊なら俺じゃなくてもだの、ぶつくさ悟が零すあいだ、傑は相槌を打ったり同情したりしながら、やがて体の力を抜いた。傑が体重を預けたのがわかったのか、悟がしっかりと抱き締め直す。
     悟がべらべらと愚痴を言うあいだ耳を傾けていただけの傑だが、傑は案外この時間が好きだった。やわらかく甘い声がすぐ近くで鼓膜を震わせるのは、非常に心地が良い。
     瞼を閉じると、自分の中に燻っていたストレスがとろりと溶け出していく感覚がした。思わず抱き締める腕を強くすれば、傑を抱き締める悟の腕にも力が篭った気がする。お互いの体温が混ざり合う気持ちよさに、傑は思わずうっとりとした。
     しっかりとした体躯が、傑の体を優しく包み込む。すっかり傑を抱き締めるための力加減を覚えた悟の腕の中の心地良さったらない。悟のことを甘やかしているつもりだったが、実は甘やかされているのかもしれない。
     癖になったらまずいな、と思う。けれど、もう手遅れなのかもしれないな、とも思う。だって、いつの間にかこうやって抱き合うことが傑の日常に組み込まれていて、この体温がなければ、どうしたらいいのかわからない。いったいいつからこんなに絆されてしまったのだろう、と考えてみたが、もしかしたら最初からだったのかもしれない。こんなこと、悟以外のだれかとしたいと思わない。
     やがて悟がゆっくり離れていく。それがどうしようもなく寂しい。さきほどまで温かった身体が、急激に冷えていく感覚がする。傑は思わず手を伸ばし、離れていく悟を引き留めた。これ以上は駄目だとわかっている。それなのに、つい手を伸ばしてしまった。
    「……すぐる?」
    「もうすこし」
     戸惑っていた様子の悟がぐっと息を詰めて、やがてもう一度背に腕が回される。まるで誂えたようにしっくりと腕のなかに馴染む感覚がして傑のなかを甘く満たした。もう少しだけこの温かさを甘受していたいと、傑はゆっくり瞼を下ろした。
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    ask_hpmi

    DONE夏のある日
    水着(ワンライ)「あっちい~」
    「言うな悟、余計暑くなる……」
     湿度を含んだ空気が、じっとりと肌にまとわりついて気持ちが悪い。なにもしなくても外にいるだけで汗が吹き出し、こめかみのあたりからつうっと汗が流れ落ちた。ジィジィと蝉が鳴く音があちこちから響き、視界がゆらりと揺らめくほど高温が立ちこめている。
     白と青のコントラストが強く、高く積み上がった雲の影が濃い。ぎらぎらとした日差しが容赦なくふたりを焼いていて、まごうことなく夏真っ盛りである。
     呪術高専は緑豊かな場所にある。はっきり言えば田舎で、コンクリートの照り返しはない代わりに日陰になるような建物もなく、太陽が直接ふたりに降り注ぐ。
     あまりの暑さにコンビニにアイス買いに行こうと言い出したのは悟で、いいねとそれに乗ったのは傑だ。暑い暑いと繰り返しながらなんとかコンビニまでたどり着き、それぞれアイスを買う。安いと悟が驚いていたソーダアイスは、この暑さでは格別の美味さだった。氷のしゃりしゃりとした感触はそれだけで清涼感があるし、ソーダ味のさっぱりとした甘さがいまはありがたい。値段のわりには大きくて食べ応えがあるし、茹だるような暑さにはぴったりだった。
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