[12/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 打ち粉をした丸い型で生地を抜く。常温に戻らないよう、手早く抜いたそれらを天板に並べたら、卵液を塗って真っ直ぐにオーブンへ。
じりじり。隣同士で膨れるタイミングを見計らっている、これからスコーンになっていく予定の生地達。オーブンの窓越しに様子を見ながら、アリスはぼんやりと考え事をしていた。
会いたくて、会えなくて降り積もる。
エースのそれは、誰に向けられているものなのだろう。
催しの夜の、なんとなくいつもと違う様子だったエースを思い出す。思えば彼には時折そういう節があった。面と向かって話しているにも関わらず、アリスではない誰かを見ているような、心ここに在らずといった様子の、質量のない違和感。
元気が無い、というよりは、いつもが必要以上に空元気で、それを纏うのをやめて素が出たという表現の方がしっくりくる。
「……会いたいその『誰か』に対してはきっと、素を出せるんだわ」
腑に落ちると同時に。心の片隅で小さな、ざわめきが聞こえた気がした。