「やぁお嬢さん、随分酷い顔をしているようだが優しいオニイサンが話を聞いてやろうか?」
草臥れてソファに突っ伏していたタイミングを見計らったように来訪を知らせるチャイムが部屋に響く。
こんな深夜にお邪魔しようとする輩なんぞ、彼くらいだろう。
疲れた身体に鞭を打ち入口の鍵を捻れば、体格はいい大人なのに悪戯っぽい笑みを浮かべたゾルタンがそこに居た。
「来る時は一言くらい連絡ほしいかな」
「なンだよ、俺様がサプライズで遊びに来るのは不服かァ?」
多少抗議した所でさして気にもせずさっさと室内へ上がる彼を止める術もなく、やれやれと戸締りをして家主より先にリビングへ向かう客人の背中を追う。
勝手知ったると言わんばかりに、鼻歌混じりに持ち込んできたアルコールや軽食をテーブルに広げていく彼。
あっという間に準備を整えるとぼふんと勢いよくソファに腰掛け、隣に座れと手招きする。
空いたスペースに身を置けば、ゾルタンが手を伸ばし抱き寄せてくる。
身を任せ肩口に顔を埋めていると「ヨシヨシ、お仕事頑張ってるイイ子ちゃんは褒めないとな?」なんて呟きゆるゆると頭を撫でてくれる。
ゆっくり彼の背中に手を回すと不意に撫で回していた手が止まる。
名残惜しくて顔を上げれば普段のニヤけた笑みではあるのだけれど、どこか穏やかな瞳と目が合う。
「お疲れの所悪いが、少しだけ俺に付き合ってくれ。イイだろ?」
こちらの反応なんてお構いなんてないのだろう。
彼のオッドアイが視界いっぱいに広がり、次いで唇に柔らかな感触。
こうしてもらうために今日頑張って来たと思えば悪くないや。
静か、というには少し煩い週末の夜は更けてゆく。