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    タカネ

    @takaneyuki2021

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    タカネ

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    吾が手のおまけペーパー再録。
    ໒꒱·゚と.°ʚ ɞ°.と🐥💙

    #迅嵐
    swiftashi

    morning of biz trip『じん!今日もお仕事お疲れさま!』
    「ありがとう。あらしやまは今日も元気に過ごした?」
    『元気だぞ!』
    『じゅんさん、通信時間に限りがありますからね、早く本題を』
    『わかった』
    タブレットの向こうであらしやまとうさみが何やらこそこそやり取りしているのに、じんは首を傾げた。
    じんが出張中の定時連絡と称して、特別に許可をもらって一日一回、天国と地上を繋いでの映像通話なので、確かに貴重な時間ではあるが。
    ──うん、羽っ毛はぴんぴんしてるし顔色もつやつやだし、今日もおれのてんしは元気いっぱいでかわいい。……それは良いのだが。
    「あらしやま?なにかあったの?」
    『はい!ここで問題です!』
    突然、スケッチブックを構えたあらしやまに画面がかたかた揺れてピントが合わさる。おそらくうさみがスマホを操作してくれているのだと思う。
    「え、なに?」
    『もんだい!今朝、ハニエルのたまごがふかしました!生まれたのは次のうちどれでしょうか?』
    スケッチブックには極太の文字で大きく選択肢が書かれている。

    ①ちいさいじん
    ②ちいさい俺
    ③ちいさいゆうま

    「……は?生まれた?なに?なんの三択?!」
    『三十秒いないにお答えください。いーち、にー、』
    「待って!それまさかほんとなの?!ハニエルのたまごってなんか生まれたりするものだったの?!」
    じんの疑問をまるっとスルーしたあらしやまは元気良くカウントし始める。
    『あ、ちょっと!ダメですよ!今、電話中ですからね』
    慌てたようなうさみの声がカメラの裏から聞こえて、混乱するじんの前でまたもや画面ががたがた揺れる。
    『じゅうしち、あ、それ触っちゃだめだぞ!』
    「?!!」
    画面の端にカメラに近すぎてなんだかわからない薄茶色と白のかたまりが覗いた。
    『こら、じん!今映ってるんだから』
    身を乗り出したあらしやまがかたまりをひょいとつまんで手の平に乗せた。
    『答えは①ばん!ちいさいじんでした!』
    「……は?」
    ピントがあって形が分かったそれはちいさな天使だった。ちいさなあらしやまの手の平に乗るくらいの、例えるならクリスマスツリーに吊るす天使人形みたいな大きさの──じんだった。
    「な……っ、ど、」
    絶句するじんに画面の端から現れたうさみも困ったように半笑いを浮かべた。
    『えー、今朝ですね、見ての通りのヒヨコのじんさんがハニエルさまのたまごから孵化しまして』
    「ひ、ひよこじゃないだろ……」
    『いえ、天使にしては二等身でして。妖精でもないし、なんだかヒヨコっぽいな、と』
    『あのな、おしゃべりはしないんだけど、にこにこしてくれてかわいいぞ!ちゃんとじんだし』
    「いや、おれじゃないよ……」
    『ほら!』
    あらしやまがカメラの前に近付けた手の上で、急に揺らされたからか、親指にしがみついたちいさなそれが羽を開いてバランスを取っている。白いワンピースに白い羽、頭には光る金の輪っか。まさしく天使人形の姿をしている。
    「うえ~……」
    かわいいのかもしれない。自分の顔をしてさえいなければ。
    混乱の極みで呻き声を上げたじんはフル回転で考える。なんか物真似をする妖精とかなんとか、いなかったっけ?ピクシーだかブラウニーだかモーフだか、イタズラするやつ……とにかく小さい天使のおれだなんてありえない!!
    「ど、どういうことなのか、はにえるに訊いてみてよ……」
    震え声で言うじんに、あらしやまと替わって画面に現れたうさみは困った顔をする。
    『そうしたいのはやまやまなんですが、さすがのわたくしも大天使さまには伝がないと申しますか……』
    「とにかく、そんな正体不明のものあらしやまのそばに置いておかないでよ!危ないだろ!」
    『えー、まあでも、じゅんさんは喜んでるんですよね。課長の出張、長引いてますしとっても淋しがってるので……』
    「おれだって淋しいよ!ちがう!そうじゃなくて!」
    『はいはい、一応、手は打ちましたよ!天使庁の幻獣保護の専門家に相談してみようかと』
    「幻獣保護課?」
    『の、からすま主任です』
    「え?!ちょっと待って!あのきょうすけ?触るもの皆惚れさせる天使庁一のイケメン天使のあのきょうすけ?」
    『……ご存じの、そのからすまきょうすけ主任ですね』
    「待って待ってだめだめ!あらしやまを会わせたりしないで!あらしやまはあれですごいメンクイなんだから!」
    『あらあら。おっしゃいますこと』
    画面の妖精は非常に生ぬるい微笑みを浮かべて言った。
    「とにかく待って……おれもう帰る!明日帰るから──!」
    『ダメですよ!出張追加十日間です』
    「そんなばかな、」
    『ええ、だいじょうぶです。ほら、じゅんさんならあっちのじんさんと仲良く遊んでますよ──』
    あははは、と楽しそうな笑い声がして、あらしやまは手の平に乗せたちいさなじんを顔の前に引き寄せた。なんだか緑色の瞳をうっとりさせて正体不明のちいさな生き物を眺めている。だからメンクイなんだって……。
    『うふふ、じんはちっさくてもカッコいいな……いいよ、きすしてくれ。ん~……』
    ちいさな天使が背伸びして目を閉じたあらしやまの唇に触れようとしていて──

    「──だー!!だめだめだめ……っ、?」
    ぴぴぴ、ぴぴぴと鳴っている電子音がやけに遠くに聞こえた。
    「……ぜったい、だめ……おれでも、それはだめだ、あ~……」
    ゆめか──!
    じんはベッドの上で大の字まましばらく動けなかった。
    ……ものすごい、悪夢だった。
    ようやく手を伸ばしてスマホのアラームを止めて日付を確認する。
    久しぶりに地上に出張に来たとはいえ、まだ二日目である。己の潜在意識だか深層心理だか知らないが、そんなようなものが夢に現れたのか、と思うと大ダメージである。
    そりゃ淋しいけど!それにしたって!
    ちなみに今回の仕事は幻獣保護案件である。件のイケメン主任は隣の部屋に泊まっている。
    後輩に顔を合わせるのが気まずくなってしまう、とじんはベッドの上で丸まって、うーうーと唸り声を上げた。
    信じられない。おれはいったいなにを心配してるのか。己がそんなにしっと深いとか認めたくない。ああ、神さま聖母天使くるまさま、お助けを。
    「……帰る。もう、ぜったい、今日中に終らせる」
    じんは寝起きのかすれた声で呪いのごとく呟くと、ちょっと涙目になった。
    ──本当になんか生まれたりしないか心配になってきたし!大天使のたまごなんて、やっぱりろくなもんじゃない!


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