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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    攻男主。しょーーりせんせい。先生が心乱される話。たるたるがでばる。

    #gnsn夢
    #攻め主
    invader
    #男主
    maleLead

    その微笑を目にしたときに、呼吸の仕方を忘れたようだった。血が沸きたつように熱を感じ、震えた肺から漏れそうになった息はあまりにも己の心の内をさらけ出すようで、そのような初心な反応など、ここしばらくか、ずいぶんと記憶をさかのぼっても覚えがない。長い刻を生きて、心乱されるものなど、璃月の先を憂える以外にもはやないと思っていた。
    新月夜に似た黒髪に、紫水晶よりも澄んだ瞳からは好意的な反応が感じられる。
    「旅人。初めて会うが、彼は?」
    知り合いとなった旅人に問いかけると、空は、ああ、とその青年を振り返る。微笑んでいる青年は自分から口を開く様子はない。
    「えーっと、」
    なぜか言葉を探す空に対し、パイモンが口を開いた。
    「シキはオイラたちの保護者なんだ。なっ!」
    何か特別な理由があったのか、保護者の響きに自慢げな響きを添えて、くるりと青年の周囲を回ったパイモンに、青年は礼儀正しく胸に手を当てると一礼をする。慇懃さもよく似合う。
    「初めてお目にかかります。鍾離先生。お噂はかねがね聞いております。空とパイモンともに旅をしているシキと申します。二人がお世話になったと聞きました」
    保護者の形容に相応しい台詞に、いや、と返事をしながら俺は青年が顔を上げて目を合わせてきたのを受け止める。
    「世話になったのは俺のほうだ」
    「そうだぞ!鍾離、モラはちゃんと持ち歩くものなんだからな!」
    腰に手を当てるパイモンに空が苦笑する。
    「俺たちも貯めた分をシキに預けてるから、持ち歩くに関しては似たようなものだけどね」
    保護者らしいことも実際にしているらしい。シキが口を開くと、再び耳障りの良いやわらかい声がする。
    「パイモンちゃんはともかく、空くんは旅慣れしてるから、節約が上手で助かるよ。不測の事態はあるからね」
    「あっ、オイラが浪費家みたいに~~!」
    「欲望に素直なところがパイモンちゃんのいいところだよ」
    なじんだ三人の雰囲気に、入りこめない距離を感じ取る。普段ならそんなこと考えもしない。人とは線引かれているのが自分であり、それが真理であることのほうが長かった。
    「君がこの地で困ることなんてないだろうけど、困ったら、なんでも力になるよ。雑用でもね」
    微笑が優しい。旅人に向けているものと温度差を感じない。それを素直に受け取るのならば、親しみを誰にでも向けられる青年ということになる。盤石な精神性を感じた。それだけじゃない、何かの深い気配も。
    「よろしくね。鍾離先生」
    先生の敬称を、初めて取り払わせたいと思った。
    「ああ。よろしく頼む。シキ」
    名を呼ぶ際のほんのわずかな逡巡を気取られただろうか。
    シキは相変わらず微笑んでいた。



    冒険者として任務も請け負っている空と行動を共にしているのなら、シキとも遭遇することなどそうないだろう。それを残念に思い、そしてこうしてできた頼りない縁と火のつけられた灯篭は、あっさりと風に吹かれて消えるのかもしれない。今回の件に絡むのは己の願いだが、彼に絡むのは欲の部分だ。己の私欲のために動いたこと経験も、こう遠い過去のことになれば、初めてといっても過言ではないかもしれない。
    そんなことを考えながら璃月の街並みを眺め、栄える証のにぎやかな通りを通れば、行く手には、今考えていたその人の姿がある。思わず足を踏み出して、そして止めた。そんな欲のままに足を進めてどうする?と己に問いかける。今を逃せば次にいつ話せるかなどわからない。シキのことを何一つ知らないまま、この機を逃すのかと自分に問いかける。迷うのは理性とは真逆の感情にしたがっていいものかわからないからだ。冷静さを失えば、多くの利を逃がす。今、自分は冷静さを『保っている』だけの状態だ。なぜなら心が沸き立っている。血が熱く、めまいすらするような感情が心を支配しようと根を張りつつある。
    「鍾離先生?」
    ふいに呼びかけられたその声に、鍾離ははっと振り向いた。すると意外そうな面持ちで鍾離を眺めているタルタリヤの姿がある。
    「どうしたの?ぼんやり突っ立っちゃって。何か面白いものでも見つけた?」
    タルタリヤの視線が自分の視線の先を探すのに、鍾離は、目を細め、興味を引きはがそうと口を開きかける。
    「あれ、シキ?」
    タルタリヤが先にその名を呼んだのに目を見張り、シキを振り向いた鍾離は、今のタルタリヤの声にシキも気づいたようで自分たちを振り返っていた。目と目が合う。
    「タルタリヤくんと、鍾離先生?」
    「そのタルタリヤくんっていうの、やめない?タルタリヤで良いのに。「公子」って呼んでくれてもいいよ」
    面白がりつつも、不服さをしっかりアピールするタルタリヤの声に、シキは微笑む。
    「例外はなく、俺は誰にでも敬称をつけるから、許してほしいな。タルタリヤちゃんよりは気に入ってくれると思うけど」
    例外はない。確かに、挨拶の時は呼び捨てていたが、空のことも空くんと読んでいたように思う。
    「はあ、さすがにそれは『くん』で良いよ。でも、シキ、鍾離先生と知り合いだったんだね」
    「それは、」
    「そうだよ」
    昨日会ったばかりだと、そう口にしかけた鍾離に、まるでなじみであったかのようにシキはそんなことをいう。
    「へぇ?さっき鍾離先生が君に声をかけられずにぼんやりしていたのを見たけど、どんな知り合い?」
    「!」
    そんな風に問うたタルタリヤに、目を細めて撤回させようとした鍾離に、シキは首をかしげるように鍾離を見てから、片目をつぶって見せる。
    「内緒」
    鍾離の内心を察したようにかばい、同時に心を揺さぶるシキの態度に、鍾離は強引に口を開くことはせずにただ口を結んだ。下手な口出しは内心を露呈させる。このような状況では黙る方が賢明だと鍾離は知っていた。その鍾離を横目で見ながら、タルタリヤはいう。
    「その返事はずるいよ、シキ。俺はちゃんと我慢してるのに、また意味深に知り合い増やしちゃって。鍾離先生、彼は俺が先に目を付けたんだからね」
    タルタリヤは台詞の途中から鍾離に顔を向けた。我慢など意味深なことを言っているのはタルタリヤのほうだ。鍾離はそれよりもまず気になることを問いかける。
    「目を付けた、とは?」
    鍾離の率直な質問にタルタリヤは笑う。
    「教えても良いけど、俺だって咲かない花に水はあげない。というわけでシキ、この後時間あるかな」
    「この後は鍾離先生と食事に行く予定だから、時間はないかな」
    しれっとばかりに言ったシキに、鍾離はいっそ感心した。
    予定であって約束とは言ってない。嘘はついていないが、タルタリヤはシキの返事を素直に受け取ったようだった。
    「それは残念。さすがに無遠慮に割り込むことはできないな。強引さが必要なのは今じゃないことは読めるからね」
    残念という割には声は相変わらず楽しそうだ。
    「じゃあね。シキ、旅人たちに付き添わないなら、北国銀行にも顔を出してよ。君の話には興味があるからね」
    そういうと、返事も聞かずに身をひるがえして去っていくタルタリヤの背を見送って、シキは鍾離へと向き直る。
    「俺の中では、この後鍾離先生と食事に行く『予定』なんだけど、鍾離先生はどうかな」
    いたずらが成功したような顔で尋ねられて、鍾離は口を開いた。
    「奇遇にも俺もその予定だ。いいところを知っている。……シキ、お前に気遣いをされたのは分かった。だから奢らせてくれないか」
    するとシキはくすくすと笑う。
    「気遣いなんかしてないよ。鍾離先生がなんだか困った様子だったのに気づいただけだから」
    「よくわかるな。俺は内心が読み難いとよく言われる」
    「わかるよ」
    優しい声に、鍾離は息を止める。
    「どこに案内してくれるの?鍾離先生」
    まるで他意はないかのようにさらりと続けられて、鍾離は気を取り直しながら返事をする。
    「琉璃亭だ。行ったことは?」
    「話なら聞いたよ。空くん達がそこで鍾離先生と出会ったって言ってたからね」
    優しい声の理由を聞きたい衝動にかられながらも、シキという男の特別なしぐさじゃない可能性を考えてそれも踏み出せない。誰にでも優しい可能性はある。
    「難儀だな……」
    「ん?」
    聞こえないようにつぶやいた鍾離の声にシキは首をかしげる。
    「何でもない。行こう」
    先だって歩き出した鍾離の横につけたシキは機嫌がよさそうだ。
    上機嫌な人間のそばにいるのは、こちらまで気が晴れるなと思いながら、鍾離は琉璃亭へと向かった。
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