前回のあらすじ。黄金屋の報酬になった。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。報酬マジか。
とりあえず夢から醒めるまでこの状況をエンジョイしたいと思う。推しの凝光様に出会えるまで俺の睡眠と妄想力には頑張って欲しい。
宿屋から出て、近くの屋台でモラミートを奢ってもらった。めちゃくちゃおいしくてびびった。子供のせいか一つ食べきれなかったのでパイモンと半分こにして食べた。
空君は、俺と手を繋いで歩いてくれている。子供の優しくて好感度が爆上がりしちゃうね。こうやって蛍ちゃんとも手をつないでいたのかもしれない。主人公に手をつないでもらうなんて経験二度とないだろうけど(夢という突っ込みはなしで)この感覚を覚えておこうとぎゅっと手を握り返す。すると、ん?と空君は俺を見たので慌ててなんでもないと首を横に振った。自重してくれ俺。
にしても、こうして空君を見ると、あまりにちゃんと存在しているから完璧なコスプレのようにしか思えないというか、現実味がないというか。むしろ現実感ありありというか。まあ夢だからそんなもんか。
「空君、どこに行くの?」
「まず服屋でしょ」
…………そうか?????ひとまず迷子センターとかじゃないか?
都合が良いなあと思っていると、パイモンが横に並んできた。
「でも空、迷子なら……千岩軍とかに届け出た方がいいんじゃないか?」
「黄金屋の報酬として迷子が出てきたなんて言っても信じてもらえないよ」
「それはそうだな。それに、確かにその恰好じゃ可哀想だよな」
確かに信じてもらえないと思うけどパイモンも納得しちゃうんか。
言われて俺は自分の服を見下ろす。白いTシャツに青い短パン。ベストにキャップしてたらどこのサトシですか?って感じだけど、確かに璃月の人たちのおしゃれな衣装を見ると可哀想には見える。質素倹約と言ってくれ。
「よし!オイラが似合う服を見つけてやるぜ!」
思いついたと楽しそうに言うと、パイモンは先に飛んで行ってしまった。お店を探してすいすいと飛んでいるのが見える。視線で追いかける俺に空君が聞いてきた。
「好きな色とかある?」
「うーん、……金色……?」
空君の髪の色を見上げてついそんなことを言ってしまった。空君はぱちくりとそのなんだろ、はちみつ?琥珀?みたいな目をまばたきをする。なんかもっと格好いい例えがしたかったが、ありきたりなものしか出てこなかった。だから読み専なんだって。
「金色の服を着せるのはちょっと……」
ですよね。
ちなみに本当に好きな色は陰キャなので黒です。はい。でもショタが全身黒づくめってどうなの?体は確かに縮んだけど。
俺たちが話しているのを見てか、パイモンが戻ってくる。
「えっと、パイモンと空が選んでくれたのなら何でも嬉しい」
なるべく投げやりに聞こえないように全部投げるのをがんばった。するとパイモンは後ろに腕を回してにこにことする。そのモーションも知ってる!
「おっ!ハルはかわいいやつだな~!」
可愛いのはパイモンだよ。今更ながらにパイモンと話していることに感動してしまった。いやマジでかわいい。
張り切ってあちこちの店を飛び回って偵察してきたパイモンが、この店が良さそうと俺と空を引っ張っていく。子供向けの服を扱っているらしい。
「ハル!ハル!これはかっこいいんじゃないか!?」
先に入っていたパイモンが、下がっている服を引っ張って俺に見せたのにぎょっとした。黒いトレーナーにぐるりと金や赤で龍の刺繍が入ってる。目の部分が何かのきらきらする茶色の石だ。
「50000モラ!?」
値段を見て声を上げた。ご、ごまん?!これが!?
「お客さんお目が高い!ソレ瞳の部分がトパーズの欠片なんですよ!」
店主が割って入ってくる。お目が高いってどこ指して言ってんの?トパーズは確かに価値があると思いますが!子供にこれを着せるか?????
「お、俺もっとシンプルなやつがいいな……」
「うーん、派手だから迷子になっても見つけやすそうだと思ったんだけど」
残念そうにパイモンは服を戻した。服選びの基準そこ?
パイモンの突飛なセンスにああでもないこうでもないと騒いでいると、どこに行っていたのか空が俺に寄ってくる。
「店主、これこの子に着せてみて」
「ご試着ですね。こちらへどうぞ」
「あっ、空ずるいぞ!」
狭い試着室に服と一緒に押し込められる。
着てみると白いパーカーだ。右胸のところに薄い金色の留め金が三つついていて、それだけで中華風って漢字がする。薄い水色で花の模様が左肩から袖に書かれていた。ボトムは空君の服と似た色だ。金色の菱形の刺繍がくるぶしの上にあってかっこいい。
着てみて自分で鏡を覗いてみる。かっこいいじゃん!さすが空君。でも似合うかどうかは別問題だった。おそるおそるカーテンを開けると、待ち構えていたパイモンが俺を見てぱっと笑う。
「おお!似合ってるぞハル!」
あ~パイモンは可愛いな!えへへ、と照れたけどショタの今ならはにかんでもキモくないはず!ショタで良かった!ありがとう俺の妄想力!
俺を見て満足そうに腰に手を当ててる空君もすげえかわいい。ちょっと待っててと空君はパイモンを連れて、今のコーデに靴を選び始める。二人で持ってきたのはボトムの色に合わせた色の歩きやすそうなスニーカーだ。空君とお揃いのブーツが良かったなと思うけど俺は大人なショタなので飲み込んだ。ショタの足の耐久度も分からないし。
「これください」
「毎度!」
財布を取り出す空君を見て、あ、そうかお金払うんだ。と改めて気づく。
夢だし、貰った金額を返す返さないなんて概念ないけど、でも出来るだけお礼はしたい。にこにこ顔の店主のいう金額を聞き取ろうとした俺は、ふいにとてつもない眠気に襲われてふらついた。
「ハル!?」
驚いたパイモンが手を伸ばす前に、耐えられずに床に倒れ込んだ。先に倒れて良かった。パイモンを下敷きにして怪我させたくない。なんと思考もぐにゃぐにゃになっていく。
「ハル!?どうしたんだ?!」
「ハル!」
これで駆け寄ってきた足音が空君のだと分かったけど、もう眠たくて何も考えられない。床にうつぶせになって電池が切れたように、俺はことんと眠りに落ちた。
起きたら二度目の天井だった。宿屋にカムバック。あれ?というかまだ目が覚めないのか?
まあ夢で一生を送った話とか聞いたことあるし、起きちゃえば一瞬の夢なんだろうな~と思いながら身を起こす。
「ハル~~!」
パイモンが顔にぶつかりそうな勢いで飛んできてのけ反りそうになった。心配そうに手をぎゅっと握っている。
「大丈夫か?急に倒れるから心配したぞ」
「ん……」
申し訳なくなりながら、体を見回して意識を済ませても特に異常は感じ取れない。
「大丈夫そう」
「良かった」
ほっと胸をなでおろすパイモンに、部屋の椅子に座って何かの本を読んでいた空君も、立ち上がって俺に手を伸ばしてくる。空君は身を乗り出してくる。近さにビビった俺の額にこつんと額を合わせた。
「うん。熱もなさそう」
まるで弟にするような仕草に、お兄ちゃんだもんな、と感心してしまった。俺は一人っ子だから初めての感覚だ。
「急にすごく眠くなったんだけど……疲れてるのかな……」
聞けばもう一日が経ってしまったらしい。時間は昼頃だ。流石にお腹がすいてきた。一息ついたところで空君が言う。
「ハルが大丈夫そうなら今日も出かけよう。会わせたい人がいるから」
会わせたい人??????凝光様?なわけないか。流石に都合よすぎだもんな。
パイモンが、あ~あの人ね!なんて顔しているのがずるい。誰なのか教えて欲しいと思ったけど、報酬である俺がキャラの名前知っているのは矛盾が出るのは流石に分かった。せっかく進んでいるんだし、夢が崩壊しないようにしよう。
俺はベッドから降りると、買ってもらったばかりの靴を履いた。にやにやしてしまいそうにながら空君とパイモンの後を追いかける。
「出発!」
パイモンの元気な声とともに、俺は再び璃月の街に繰り出した。
「昨日のうちに手紙を出したから、来てると思うんだけど……」
そうやって訪れたのはまさかの万民堂だった!
卯師匠だ!!!!ほんものだ!!!!あとなんか香辛料のにおいがする!!
NPCとはいえ、香菱の父親との出会いに大はしゃぎする俺。同じくいい匂いと隣ではしゃぐパイモン。慣れた風の空君。そしてパイモンがあっと声を上げた。
「鍾離~~~!!」
その名前に俺は息を吸い損ねてむせこんだ。
え?鍾離先生?俺の頭脳で鍾離先生とか再現できるの?
一気に不安になった俺が視線を向けた先に、綺麗な姿勢で席についている鍾離先生を見つける。その顔がこちらを向き、視線は空たちに向いてから、俺におろされた。
空君とは違う金色の瞳が俺を見つめるのにどきっとして立ちすくむ。感情の読めない視線が俺をじっと見た後、鍾離先生は微笑んだ。うわ、なんか花がほころんだのを想像したわ……。男の俺から見ても顔が良い男はこれだから。
空君は鍾離先生の前に俺を連れていくのに、なんだか戸惑ってしまって足が重い。
「こんにちは、鍾離先生。この子が手紙で言ってた報酬の子なんだけど……」
報酬の子って紹介の仕方、斬新じゃね?いや確かにそうなんだけど
「……そうか」
呟くようにそう言ってから鍾離先生は椅子から立ち上がる。俺の前に立って少し身をかがめるようにして、俺と目を合わせた。
「名は?」
「ハル……です」
俺がとってつけたように敬語をつけると、鍾離先生は笑った。
「そうかしこまらなくていい。お前らしくいてくれ」
なんだか違和感のある言葉だったけど、怖がってるように見えたのかもしれない。実際身長でかいし、かがんでくれてなかったら見上げるのがだいぶつらい。
「お兄さんは?」
おずおずと問い返す。お兄さんというか、まあお兄さんだよな。
「ん?俺か。俺は鍾離という」
なんだか鍾離先生の視線がやわらかくて戸惑う。もっと硬質というか、読めない人だと思ってた。俺の戸惑いを別のものと思ったのか、空君が俺に言う。
「鍾離先生は俺の友達。何でも知ってるから、助言をもらいに来たんだ」
空君が椅子を引いてくれたのに、よいしょと俺は椅子に座った。テーブルが高い。上手くやらないといろいろ零しそうだ。
「何でもは言いすぎだ。俺にも分からないことはある。……だが、悪意も害意もないようだ。不審なものも感じ取れない」
同じく椅子に座りなおした鍾離先生が言う。
「でも、ハル、すぐ眠っちゃうんだ。どっか病気なんじゃないかって」
「ああ、それは……みたところ、体内の元素が不安定のようだ。徐々に起きていられるようになる」
何でも分かっちゃうんだ。すごいな、と感心した俺は、ん?俺の脳が考えた都合の良い設定なのでは?と思い直す。
「もしや旅に連れていくつもりか?」
「うん。俺の報酬だから」
「……そうか。ならば俺もついていこう」
「え?」
え?
空君と俺の思考が被る。湯呑を手に当然のような顔をしている鍾離先生に空君が目を瞬いている。
「先生、知ってると思うけど、俺たちこれから璃月を出る予定なんだ」
「ああ。稲妻に行くのだろう。聞いている。無理にとは言わないが、同行させてもらいたい」
「先生が一緒に来てくれるって言うなら心強いけど、璃月から離れることになるよ」
「ああ。璃月なら問題ない」
そう言った先生はなにひとつ心配そうな顔をしていない。
そうだよなあ。信じてるから神様をおりたんだもんな、と思いながら、その静かな気迫というか、信念みたいなものに感心する。
「分かった。良いよ」
あっさりと空君が頷いたのに、ええ?と俺は空君を見上げる。
いや確かにゲームだとパーティを引き連れていくけどさ……。俺も鍾離先生には散々手伝ってもらったけど。
「その昔、」
鍾離先生がそう口を開いたのに顔を見る。鍾離先生はどこか遠くを見るように視線を上げていた。
「友が旅は良いものだと言っていた。見知らぬ土地に見知らぬ人、光景。それらはまた別の意味で心を癒してくれると。今だから俺は旅をすることが出来る」
そう言って鍾離先生は空君とパイモンを見て、それから俺を見た。
「感謝する。守るのは得意だ。ハルの力にもなれるだろう」
名前を呼ばれてきょとんとするけど、これはあれか?俺がよわよわのショタ設定なので脳がフォローしてくれてるのかもしれない。
「よろしくお願いします。鍾離先生」
守ってくれるならありがたい。空君の足手まといにはなりたくないし。
丁寧に頭を下げ、そうになって慌てて手を胸に当てた。テイワットの礼はこうのはずだ。すると表情は変わらないものの、鍾離先生の気配がすこし身じろいだというか、そんな感じがした。
「ああ。よろしく」
先生が頷いた。
というか、時間軸どこだろうと思ってたけど、稲妻上陸前みたいだ。
となると魔神任務をたどることになるのかもしれない。やったばっかりだし、記憶は残ってるはずだ。
☆どこまで夢が続くのか、俺の脳にご期待ください──!