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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    お題。嫉妬。神様ムーブ。ハピエンというかいい感じの終わりって感じになりましたが大変お待たせしましたー!!!🔶夢。女主。

    いずれ道は照らされる「好きな人がいたんですよね」
    肩から落ちてきた髪を少し雑に払って言うと、鍾離先生は私の顔をじっと見返した。
    なんでこんなこと話してたんだっけ。
    ぼんやりとアルコールで滲んだ頭が周囲のざわめきを拾い上げる。なんでもない酒場の一角。
    チープなメニューばかりが並ぶこんなお店に、綺麗な姿勢で私の向かいに座る鍾離先生だけが異質に見える。
    といっても、異世界から突然テイワットに放り出された私がなんとか得た仕事ではこのランクが精いっぱいだ。鍾離先生に合わせることができない。
    能力があったとしても、身分が保障出来なければ良い職にはありつけない。どこの世界でも似たようなものだな、なんて考える。逆に言えば治安は良いのだろう。異世界とはいえ住みやすい土地だ。
    そもそもなんで鍾離先生とここに居るんだっけ?
    「もう会えないんですけど。先生に聞かれるまで忘れてた」
    「まだ恋しいのか?」
    「まあ、結婚したいな、って思った人だったんで、こうして思い返すと……」
    まだ好きかもしれない。と頭の中に浮かぶ顔を眺める。すると鍾離先生は考え込むような仕草でこぶしを手に当てた。あれ?私、先生に相談をしてたんだっけ。
    「想いを断ち切れない、ということか」
    「あ、でも別に生活に支障を来たしているわけじゃないですよ」
    そう言いながら、ふいに強い郷愁の念にかられてしまって私は口ごもった。まったく予期していない転移だった。色々な転移ものを読んだけど、意図的な転移の話なんて私が読んだものの中にはなかったし、そういうものなんだろうと思うけど。恋しいなあ。
    鍾離先生が何かの感情の気配を感じて顔をあげると、先生はいつも通りの鍾離先生らしい冷静な表情で私を見ていた。いつもは私と話すとき、微笑んでいるので、慣れた今、先生の綺麗な顔立ちを意識することはあまりないのだけど、そんな表情をされると作り物めいてるな、なんて感じる。
    「何か俺に出来ることはないだろうか」
    やけに真剣にそういわれて私は思わず笑みを浮かべる。
    慰めるのが下手だなあ、いや、下手なことはないけど、鍾離先生は私に何か与えたいみたいだ。面倒見のいい人なのだろう。いつもいろんな人に頼られているみたいだし、元の世界でもこんなに出来た人を見たことがない。
    「先生、いつもそう言ってくれますけど、大丈夫です。困ってないと言えばうそになりますけど、ずっと頼り続けるわけに行きませんし、私には何もお礼は出来ませんし」
    「親しい者が困っているのなら、手を貸したいと思うのが人だろう。返礼を期待して手を貸したいわけではない」
    「分かってます。でも、先生に一度頼っちゃったら、自分でやっていけなくなっちゃいそうだし」
    「何故そう思う?」
    「先生、人の面倒を見ることになれてそうだから、ずるずる甘えちゃいそうだなあって」
    空になっているグラスを眺める。これ以上は飲まない方が良さそうだ。
    「俺を面倒見がいいと思う理由を聞いても良いだろうか」
    「え?私だけじゃなくて、いろいろな人のお願いを聞いてますよね。この前も鉱石の鑑定をしてくれって頼まれてるところに居合わせましたけど、先生の手伝い方がすごく上手いなって」
    道端で出会って話していたところに、駆け寄ってきた若い職人のことを思い出す。
    「先生は本職ではないから、と断っていましたけど、その時にアドバイスもしてたじゃないですか。あれ、あの職人さんが、これからも自分で解決できるように道筋を示したんだなって。それに気づいたのはたまたまだったんですけど、色々な人の先を考えているんだなあって」
    「買い被りすぎだ」
    「ふふ、そうかもしれませんね。でも私はそう思いました」
    「それなら、貴殿を助けても、頼りすぎるようなことにはならないはずだ」
    それもそうだけど、と私は私が鍾離先生に遠慮する理由を考える。
    鍾離先生は私が好きだった人と比べて、物凄く器が大きくて、格好良くて、頼りになる。言ってる通り、私が甘えても鍾離先生は困らないだろう。心配してくれているのは嬉しいと思うけど、私は出来れば私と同じ問題で困ってくれる、つまり私のことが分かってくれる人が良いのかもしれない。それに、私は私が助けてあげられる人がいい。一緒におぼれてくれる人が良いのだ。
    「まだ私は大丈夫なので、もし本当に困ったら、何かお願いすると思います」
    その時はよろしくお願いします。と言った私を、鍾離先生は相変わらず見つめていた。
    この世界に来た時に、いろいろな色をした髪や瞳をみてきたけど、鍾離先生のもまた驚く色をしている。綺麗な金色だ。先生はまた何かを考え込むようなそぶりをする。
    「……もしかして、私、とても失礼なことを言ってるんでしょうか……」
    「いや、そんなことはない。ただ、これ以上進めるのであれば、いくつかの自制を解くことになると考えていた」
    「じせい?」
    自制だろうか?
    「貴殿の言う通り、俺は人の面倒を見ることには慣れている。そして手を出す領分も決めている。貴殿が理解している通りだ。出会ったときから思っていたが、貴殿は本質を見るのが巧みだな」
    「そうでしょうか?」
    どうして褒められる流れになったのだろうと首をかしげる私に、鍾離先生もわずかに首を傾ける。そんな仕草をするとなんだか映画でも見てるみたいだ。
    「様々な手段を試みたが、思っていた以上に固辞されるので理由を考えていた。なるほど、好いた相手がいる、と」
    んん?
    酔っている頭でも疑問に思う。
    出会ってから会話を続けるうちにやけに好意的に接してくれるな、と思っていたけど、それだと私のことが好きみたいだ。先生は事情を知っている数少ない人なので、物珍しいのかもしれないと思うけど、たとえほんの僅かでもその可能性を感じてしまったら、余計に鍾離先生には頼れないと思う。
    「じゃあ、私そろそろ帰りますね」
    「ああ。それなら送っていこう。夜も遅い」
    それくらいなら甘えようかな、と思って立ち上がった私は、やっぱり自分が酔っていることを実感した。
    ふわふわした頭で会計を済ませようとすると、先生がもう払った、と澄ました顔で言う。
    「え?先生お財布持ってたんですか?」
    「……貴殿にもそれほど金持ちの坊ちゃんのような振る舞いをしているように見えるのか?」
    いささか拗ねたような声音がしたのにもびっくりして、私は目を丸くして首を振る。
    「まあ……」
    なんとフォローしたものだろうか、と戸を開けると、思ったよりも薄暗くて驚く。空を見れば曇っていた。
    「あれ?今日快晴でしたよね」
    「ああ」
    背後で返事をした先生を振り返ると、先生は空を見上げる。
    「……なかなか加減が難しい」
    「先生?」
    何の話だろう?と思った私に、先生の表情は少しだけ浮かないように見える。
    まるで先生の気が晴れないから曇ったみたいだな、と思って私はそんなわけないか、と心の中で苦笑した。
    一緒に歩き始める。先生の歩調はゆっくりだ。いつも私に合わせてくれているのか、それともゆっくり歩く人なのかは分からない。出会った頃は他人を気にかける余裕がなかった。
    歩いているうちに、酔っているせいか好奇心が湧き出してくる。というより、確かめておきたい、というのが正しいものだけど。
    「先生にも、好きな人いるんですか?」
    「何故そう思う?」
    「いるって思ったわけじゃないですよ。ただ、さっきの話題がそうだったので」
    「……これまで、俺は私情を露にする環境になかった」
    ん?と私は先生の顔を見上げる。
    「それは俺の契約の一つであり、平等を保つのに必要なことだった。ただ、今はそうではない。俺は凡人の鍾離であり、だからこそ加減が難しい。過てば取返しがつかなくなることは世に多々あるが、出来れば選択を間違えたくない」
    「……好きな人の話ですか?」
    「ああ」
    ふいに私は空が光ったような気がして、視線を向ける。
    「人の情は制御できないものだ。そして出来る手段があったとして、俺は在るがままを大切にしている。ジレンマを抱くことなどそうなかったのだが、契約と天秤の枷が減るのも考えものかもしれないな」
    どういう感情なのか、僅かに笑みを浮かべた先生の、背後の空を覆う雲に雷が走っているのが見える。音はしない。静かに荒れる心を映したかのようで。
    「貴殿とこのような話をする前に、加減を覚えておくべきだった」
    まるで人間をするのは初めて、みたいなことを言った先生は、私が気づいたことに気づいてるようだった。
    天候に影響を与えるなんて、人間じゃ無理だろうな、と思った私に先生は続ける。
    「貴殿の心に留まるには、まだ難しそうだ。……せめて貴殿には璃月を好きになってもらいたい」
    「先生じゃなくて?」
    なんでそこで璃月なんだ、と、思わず言ってしまった私に、先生の目が見張られる。
    良く分からないけど、物凄く下手くそなのはわかった。誤魔化すなら先生はもっと上手く話すだろう。曖昧な言い方をしているのは──。
    私はふと気づく。
    この人、おぼれてるんだ。
    「先生が何か重要な立場にあったのと、先生がただの人間じゃないことは分かりましたけど、それは私にとってはあまり重要な問題じゃありませんよ。というか璃月、普通に仙人いますし……」
    喋る鶴っぽいのを見かけたことがある。あと変な生き物もたまにいるし。あれが仙人かは分からないけど。
    「先生、もしかして今、困ってます?」
    言うべき言葉を考えているかのような沈黙に、私は問いかけてみる。
    「ああ」
    「私、先生のこと、助けられます?」
    「ああ」
    頷いた先生に、私はじっと先生を見返した。
    この世界にきて初めてどきどきしている。緊張したことは何度もあったけど、このどきどきはそういうのじゃない。
    「先生も、私が助けただけ、私のこと助けてくれます?」
    「ああ」
    手を差し出すと、先生は目を瞬いた。かわいい、と思う。
    めちゃくちゃ得体のしれない人なのに、そんなへたくそなところを見せられたら可愛くなってしまうじゃないか。
    「友達からよろしくお願いします」
    「……分かった。よろしく頼む」
    そう言って神妙な面持ちで手を握り返してくれた先生は、それからいう。
    「貴殿はまだ友人と思ってくれてなかったのか?」
    思わず笑いだした私に、鍾離先生は少し不服そうな顔をして、それからおかしそうに微笑んでくれた。

    月光が差す。
    照らされた夜道を並んで歩きながら、やっぱり道は示されるんだなあ、なんて思った。

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