恒星、輝く 景元が列車に乗った。
「新たな乗員を歓迎するのじゃ!」
羅浮での全てを果たし、将軍の位を譲り、ただ一人の「景元」として列車に乗った彼を、列車の乗員たちは笑顔で歓迎した。
「列車にようこそ。アキヴィリの魂は貴方を歓迎する」
「よろしく頼むよ、ヴェルト。姫子さん、皆さんも」
ヴェルトと固く握手を交わし、姫子をはじめ見守る乗員一人ひとりに目で配せる。何度も会い、語らい、共に戦った友人達だ。それでもこの瞬間だけは特別なものだった。
ふと、最も親しんだ顔が無いことに気付いた。
「失礼、丹恒殿は任務中かな?」
自分と丹恒の関係を知ってる彼らが不快に思わないように極力事務的に尋ねる。丹恒は羅浮での活動で列車の皆を引っ張っていく存在でもある。その羅浮元将軍が正式に仲間に加わるのに姿が見えないのは、少々引っかかった。
そこで姫子がため息をついて頭を振った。
「あの子ったら、あんたの乗車を教えても『わかった』の一言だけでいつも通り資料室に引きこもっちゃって」
「丹恒らしいよね~、まぁ許してあげてよ!」
三月なのかが肩を竦めながら丹恒をかばった。もちろん、と景元も微笑む。
「挨拶に行ってもいいと思うかい?」
「多分大丈夫!」
任務明けだから寝てるかもとだけ穹から助言を得て、何度も何度も通った列車の資料室へ足を運んだ。
普段はノックも省略するが、今日だけはその扉に拒否されているように思えて控えめに三回、指の間接で叩いた。
「……どうぞ」
許可の返事に僅かに安堵し、レバーのスイッチに触れる。軽い空気音を立てて扉は素直に開いてくれた。
「丹恒殿」
慇懃無礼に名を呼ぶと、こちらに背中を向けていた人が不機嫌そうにゆっくり振り返った。手にした古めかしい映像を映すアーカイブといつも以上に無表情な美しい顔立ちが、何故かチグハグに思えて景元は少し笑ってしまった。
「……なぜ笑っているんだ」
「いや?」
眉を寄せて更に不機嫌になる丹恒に手を振って、なんでもないと伝える。
そんな普段通りの景元を暫く見ていたと思ったらまたふいと手元のアーカイブに視線を戻す丹恒に、聞こえない程度に短いため息を零した。
(随分とご機嫌斜めな様子だ)
ただし拒否はされていない。
わざと足音を立てて存在をアピールしながらゆっくり歩き近づくと、丹恒の肩が微かに震えた。
その肩に手を伸ばし、景元よりも小柄な身体を背中からぐっと抱きしめた。
「喜んでくれないないのかい?」
「……」
最後に会った時、列車に乗ることを告げると笑ってくれたはずだった。
それが今日の態度だ。任務明けと聞いたが、その時々で考えを変えるような人間ではない。景元には甘えて拗ねたりもしてくれるが、決して今は違うだろう。
ふと、丹恒の手元の電子アーカイブが閉じられ姿を消した。
「……列車の旅は容易ではない」
「うん……」
「命の危険に晒される時もある」
「もちろん、心得ている」
「楽しいばかりじゃないんだ。貴方の思うような――」
そこで抱きしめる力を僅かに篭めると、丹恒が言葉を切った。数拍おいて、深いため息が景元の耳に届く。腕の中の強張った身体が力を抜いた。
「丹恒?」
「いや、悪い……こんなことが言いたかった訳じゃない。貴方が列車に乗ってくれて、嬉しいんだ。そのはずなのに……」
景元に抱きしめられたまま、丹恒が顔だけ振り返った。間近で覗き込む青灰色の瞳は相変わらず澄んでいた。
ふっと口元を緩めてからかう。
「改めての挨拶で、照れてたのかな?」
「なっ!?」
一気に丹恒の顔が赤くなった。これは図星だったようだ。本人も分かっているようで、ハクハクと何度か言い訳を口しようとしたが、結局は黙って苦笑した。
「いや……そもそも羅浮将軍だった貴方に命の危険云々は今更だったな」
「これでも自分と君を守れるくらいの力は持っていると自負しているよ」
そう笑ってみせると、丹恒も釣られて微笑んでくれた。
「ようこそ、景元。心から歓迎する」
「ありがとう、丹恒。これからもよろしく頼むよ」
揺らめく水の床で景元の太腿に跨り、肌蹴られた服から手を抜いて脱ぎ去る。ほんの少しの寒さも、直ぐに男の手のひらが体温を上げてくれるのを知っているから怯まない。その間も隙間なく唇を合わせ口付けあう。
「んんッ、はッ」
互いの唾液が溢れて口から零れていくのか勿体なくて、じゅるじゅるとはしたない音をさせながら必死で飲み込んでいく。柔らかくて広く大きな舌が丹恒の口内を満たして乱して淫らにしていく。
「んぐ……ちゅっ、む」
「丹恒、舌を出してごらん」
言われた通りに舌を出す。
「はぁ、あ」
「いい子……」
褒められた瞬間、景元の綺麗に揃った歯に柔く噛まれた。口の中に引き込まれ、咀嚼されるように唇と歯と、舌に嬲られる。
その心地良さに噛まれた瞬間の微かな恐怖は霧散し、丹恒はただただ舌を差し出し喘ぐ。
「あぅッ、んっ、んっ!」
「んん……」
自然と揺れる腰は景元の立派な太腿に動きを阻まれ中途半端に浮き、満足に動けないせいで彼に股間を擦り付けるようにしてしまっている。
その刺激でペニスは膨らみ、まだ下着も脱がされていないのに愛液が溢れ出した。布を伝って敏感な会陰も人より少し前付きのアナルもじゅわりと濡れ始め、景元の太腿を汚していく。
その感触に丹恒は恥ずかしくなり、ますます腰を捩ってしまう。丹恒自身の肌の匂いも徐々に濃くなるのを自覚した。完全に発情した匂いだ。キスを深めながらその匂いを胸いっぱいに嗅ぐように深呼吸した景元は笑って、ふくふくした愛らしい舌を優しく噛んだ。
「ひぅッ!」
「んッ……ふふ、可愛いね」
「ふぁ……んんっ、む……」
からかう景元から舌を取り返し、今度は自分から彼の下唇に噛み付く。犬歯を当てないようにやわやわと食んでいると、ベルトを引き抜かれ下着の中に男の手が入ってきた。
「んっ!」
「ッ」
待ち望んだ直接的な快感に力加減が狂い、カリッと景元の唇を噛んでしまった。ほんのり甘い鉄の味が舌の上に広がる。
「すまなっ」
「平気さ。それより、こちらに集中して」
「ひ、あッ!」
その言葉と同時に愛液に塗れたせいでぬるぬるした会陰をピタピタと指で叩かれる。痺れるような快感に丹恒は高い悲鳴をあげた。
「君はここが大好きだね」
「あッ、く、ぅん、……!」
性器でもない箇所を丁寧に愛撫され、丹恒は堪らず景元に縋り付く。相変わらず彼の太腿に跨っているせいで逃げられず、目の前の男に助けを求めるしかなかった。
その逃げ出したい快感を与えてるのは当の景元だというのは、もう冷静でない頭の中では判断できない。
「あッ、あぁ、んッ、ん!」
ぐっ、ぐっ、と太い指で会陰を押され堪らなく声が上がる。その間にも景元は強く抱きつかれていながらも届く範囲で丹恒の肌に唇を落とし、吸い付いて赤い花を散らせていった。
「君の服はとても良いね」
「んッ、あぅ、?」
「こうして痕を残しても隠してくれるんだから」
「その為の、あっ、服じゃない、んんッ!」
からかう景元の肩を軽く叩いて抗議するも、楽しそうに笑われるだけだった。確かに首元まで隠してくれる自分の衣服には助けられている場面も多い。今回もきっと、景元に愛された痕を隠してくれるのだろう。
ピリッと肌を裂く歯の感触がむず痒くも気持ちいい。もっと痕をつけて欲しいと思うし、あまり付けられても困ると心配する気もある。着替えやシャワーを浴びる時に本当に驚くのだ、おびただしい量の痕に。もしそんな所を友人たちに見られたら大変なことになる。
「あぅッ、も、痕ばかり」
「嫌かい?」
「困る、んだ、!」
「……あぁ、穹たちに見られると?」
一瞬、背筋に氷が滑り落ちた。
「――こんな時に、他の男のことは考えないでくれ」
低い声と鋭く息を吐く音が聞こえた瞬間、濡れたアナルに会陰を刺激していた指が一気に三本も突き立てられた。突然の鈍くも深い快感を伴った感覚に喉が詰まり悲鳴が引き絞られた。
「あッ、ぐ、ぅん――!!」
「さすがに狭いね」
「ひ……ぅ……んんん!」
「まったく、今は私のことだけを見てくれないと……」
景元の、低く男らしい声を直接耳に注がれ言い聞かせられる。まだ今日は清らかだったアナルは突然の指に驚き無理やり閉じようとしていたが、次第に喜びに綻んでいく。ぐちゃぐちゃと酷い水音を立てながら肉襞を擦られ、丹恒は堪らずこくこくと頷いて、謝るように必死に目の前の首筋に吸い付いてちゅっと痕を残した。
「ちゃんと分かった?」
「う、あ、ッわか、たから……!もっ、と、ゆっくり……!」
「……丹恒は本当にいい子だね」
「あんッ! あぅ、や、ぐッ……!」
ぐちゃ、ぐにゅ、と淫らな水音と丹恒の喘ぎ声が資料室に響く。跨った太腿で刺激を与えられつつアナルを弄る指で中もトロトロに解される。景元の指をすっかり覚えているソコは、嬉しそうに肉をぷるぷる震わせキュッキュと吸いついた。
あまり触れられてもいないペニスは先走りをしとどに零して、丹恒の快感をあらわすように愛らしく震えている。
「ぁッ、んん……ん!」
下着もまだ脱いでない状態で、まるで洪水のような下肢に丹恒は恥ずかしくて堪らなくなり、景元に催促した。
「んッ、けいげ、脱がせて、も、」
「うん、窮屈そうだ」
「足、痛い!」
「ごめんごめん」
先程とは真逆のように優しく甘やかしてくれる景元に拗ねるように抱きつき、一度胎内から抜かれる指の衝撃に「ひんッ!」と喘ぎながら丹恒はやっと逞しい太腿から降りた。足の付け根がバカになったようにガクガクと震え、直ぐにペタリとへたれこむ。
「おいで、丹恒」
情事の最中だというのに清廉で穏やかに囁く景元に、声だけで腹の奥をきゅうきゅうと刺激される。さっきの仕置で丹恒が付けた謝罪の痕が、ふわふわの色素の薄い髪から覗いて紅く灯っている。それを見て、ますます下腹部が切なくなった。
「んッ……!」
両手を広げて求めると、すぐに景元が抱きしめてきた。そのまま寝床の寝具を手繰り寄せ、丹恒を優しく横たわらせてくれた。
早く、早く彼と繋がりたい。
もうそれだけしか考えられなくなった丹恒は、自分で脚を開いて全てを景元に見せる。
濡れて震えるペニスも、しつこく弄られ赤くなった可哀想な会陰も、柔らかく充血した口をパクパク開いている縦に割れたアナルも、全部見せる。
景元がうっそりと笑ったのが、涙越しでも分かった。
「あぁ、本当に可愛らしいね、君は」
「けいげ、早く」
「でもダメだよ」
「? ……!」
短い拒絶の言葉に丹恒は目を見開いた。今なんと言った?
驚きで涙が晴れた視界で、景元がニコニコと自身の服を脱ぎながら宣言した。
「だって丹恒。さっきせっかく私と抱き合っているのに違うことを考えていただろう? だから、お仕置だよ」
「は、え? ……え?」
言ってることがわからない丹恒はそろりと足を閉じて胸の前でキュッと抱きしめる。何故か今、景元に全て晒してはいけない気がしたのだ。
まるで大型の肉食獣の前で丸裸で立っている感覚に陥る。
「さぁ、丹恒?」
それでも、先程まで快感に散々善がっていた身体は少し手を掛けられるだけでするすると解けてしまう。再び景元の前に全てを曝け出した丹恒は、少し前の自分を心の底から怨んだ。
大獅子が身を伏せる。
「可愛いね、丹恒」
この日、何度目かの「可愛い」という言葉は丹恒には聞こえなかった。
「ひゃ、あぁぁ!」
「ぅん……」
ただただ涙を零すだけだったペニスを大きな口に含まれて、丹恒は悲鳴を上げた。敏感な箇所が生温く滑る口内に一度にすっぽりと迎えられた。全てを包む快感に丹恒は嬌声を上げて背をしならせる。
太ももに景元の指が食い込み、ぎりっと痛んだ。
「あッ、あぁ!」
「ん……気持ちいいかい?」
「ひっ!」
唇の振動もしっかり感じ取り、丹恒自身はますます愛液を溢れさせる。それを大きな舌は絡めて芯にべっとりと添えて舐め上げた。根元を指でさすられ、先端を歯が掠っていく感触が焦れったくも気持ちいい。口先端を上顎でゴリゴリ捏ねられ堪らず僅かに射精した。
「ッ……少し出たね」
「あぅッ……あ、んん!」
景元に抱かれ育てられた身体は、もうすっかり熟れきっている。アナルはぱくぱくと口を開いて今か今かと長大なものを待ち望んでおり、胎の中の肉も早くソレに開かれ突かれたいとびしょびしょに濡れている。
なのに触れられず、更には別の敏感な箇所を愛されてしまって丹恒の身体は堪らなくなっていた。腰が勝手に動いて止まらない。
全身をピクピクと反応させながら丹恒はこの「お仕置」が早く終わってくれることを願った。
「や、ぁ、んんッ!」
「ん……む……」
丹念に丁寧にペニスに愛撫を施され、身体を跳ねさせると同時にアナルから精液がトロトロ溢れ出た。
もう限界だ。凹んだ臍に透明な白い液がどんどん溜まる。一度口を離した景元が、べロリと舌でその溜まった雫達を舐めとった。
「けいげ……景元……!」
「ん……どうしたんだい? 気持ちよくない?」
分かっているくせに景元が小首を傾げる。
その間もペニスを手で包むように扱かれて、言いたいことも自身の喘ぎ声で消されてしまう。
「あッちが、ちが……ん!」
「ほら、言ってごらん?」
酷いことをしているのは景元なのに、優しく諭されるとまた腹の奥がきゅうきゅうと切なくなってしまう。
生理的なもの以外の理由でボロリと涙が零れた。喘ぎすぎてすっかり掠れてしまった声で懇願する。
「早く、挿れてほし、い……!」
大獅子が嬉しそうに笑った。
「……君が欲しいだけ、あげよう」
枕元に放り投げた端末の光に気づいて、景元は気怠い手を伸ばした。画面にはメッセージの着信を知らせており、ロックを外しアイコンをタップすると、仲間になったばかりの少年からグループの招待が来ていた。
「穹からだ。今夜、私の歓迎会をしてくれるそうだよ」
「……料理は俺が仕込んだ」
「本当かい!?」
腕の中でうつらうつらしている丹恒の言葉に心から喜んだ声を上げた。じわっと耳が熱くなる。口元が自然と綻ぶ。
「嬉しいよ。皆の歓迎会も、君の手料理も」
「……ん」
丹恒はまた照れているのか、それだけ返事するとまた景元の胸に懐いて顔を隠してしまった。
「今頃ラウンジは飾り付けの真っ最中だ。その間、貴方を資料室に引き止めろと三月が」
「ああ、それで少し不機嫌だったのかい?」
「……出迎えが出来なかったから」
「あはは、なるほど」
丹恒の耳も景元と同じように赤くなっていく。その様子が本当に愛らしく、汗を拭った黒髪を労わるように撫でた。
深く肺の奥まで息を吸い、吐き出した。
傍らのガラス越しの宇宙が今までの自分とかけ離れていて、少し笑った。
「……君と、君たちと旅がしたかったんだ。ずっと」
星間を飛び回る商人や旅人の土産話。巡海レンジャーの戦記、遠い星の御伽草子。勇猛果敢な飛空士の伝記。そしてアキヴィリの列車の伝説。
今では丹恒たちが持ち帰る話に胸踊らせ、何度も同じ話をねだってしまうこともある。まるで子供のようにだ。
そしてとうとう景元は伝説の列車に乗ることになった。これはなんて僥倖だろう。
「明日から、どんな冒険が待っているんだろうね」
「……明日?」
景元が感慨深げに口にすると、不意に胸元から怪訝な声が上がった。
見下ろすと、丹恒が明るい青灰色の瞳をパシパシと瞬かせている。髪を撫でている景元の手のひらに懐きながらも不思議そうに言った。
「何を言ってるんだ。明日じゃない。もう始まってるんだ」
「丹恒?」
「貴方の旅は、列車に乗った瞬間始まったんだ」
ガラス越しの恒星が一つ、景元の手の中の瞳と同じ翡翠色に強く輝いた。胸の奥が疼く。まだ見た事のない景色が目の前にありありと浮かび、すぐに消え去った。
「――……いつか、君と二人で旅がしたいな」
ポツリと呟いた景元の言葉に、穏やかな瞳の丹恒が笑った。槍とペンを持つ手が景元の頬を撫でて、唇の端を掠めた。噛み切られた傷が微かに痛んだ。
「まだ新しい星にも行って無いのにか?」
「あはは、確かにそうだね」
未来を語りすぎた自分が恥ずかしく、照れ隠しに笑う。あまりに無意識に出た本音に、景元自身も驚いた。
丹恒とこうして寄り添い語り合うようになってから、ずっと想っていた未来だ。
「まずはこの開拓の旅を楽しもう。皆と……君とね」
頬に触れる手に自分のカサついた手を添えて、景元は腕の中の人に口付けた。
この後、突然のイレギュラーに早速開拓者として駆り出されることになるのは、流石の元神策将軍でも今だけは予期できなかった。