確定未来と熱の予感 連れてこられたのは砂浜。多分おそらく地球のどこか。こうして普通に電話ができるのだからまあそんなに遠くはないだろう。
「もしもし? うん、着いた。今日は泊まる。それは大丈夫、さっき連絡した。……心配してた、でもいいって……え?」
一度スマホを耳から離してビーチチェアに寝そべる男に尋ねる。
「愛抱夢、ここどこ?」
「僕らの愛がうまれる場所」
「だって」
当然、怒りと心配が派手に混ざった声が受話器口から鳴り響いた。
「……うん。暦の言ってることはすごくわかる。でもちょっと……逃げ場とかはなさそう……」
ぐるりと辺りを見回して、あるのは砂浜と海、小さな建物。そして入ったら死ぬだろうなという感じのさっきスネークが状況確認に行かされた森。大きな武器を持っていたとはいえ心配だ。何で愛抱夢はこんな場所を知ってるんだろう。
「明日には帰るから……えっ! そんなに? 本当? ちょ、ちょっと待って」
嘘、親子丼がそこまで美味しくなることってあるんだ。
「あ、あだ――」
「言ってもいいけど」
今の今まで手の中にあったはずのスマホを何故か男が持っている。
「僕はこの幸せな気分にこれっぽっちもケチを付けられたくない」
男の手が後ろに引かれる。前に振れば――海。
「……なんてね。はい、どうぞ」
「……」
親子丼への道は絶たれた。
「……もしもし。……俺もそう思う。でもいいんだ。うん、また明日」
切れた電話に愛抱夢は満足そうに伸びをした。
本当に、本当に残念だけど仕方ない。告白を受ければなんとなくこうなるだろう予感はあった。それでも今日がいいと――この感情が新鮮なうちに彼に伝えたいと思ったのは自分だから、本当に仕方ないのだ。
手を取られ立ち上がる。足の裏にわずかな熱さ。驚いて数歩跳び跳ねると何故か男が顔全体を紅潮させてこちらを見ていた。
「……僕と踊ろうと?」
そんなつもりはなかったけど、嬉しそうな目がヘリコプターの中で見た物によく似ていて思わず首が縦に動いた。手が大きく引かれる。
足を取られることもなくすいすいと愛抱夢が踊る。こっちは踊りどころか砂を掻き分けて歩く感覚さえ難しい。
夕方の砂浜に彼の作った真っ直ぐな線と自分が踏んだ凸凹の足跡が寄り添うように繋がっていく。
楽しくなってきたのか彼が半周ほど自分を振り回した。もつれた足がついに水の中へと入る。指先に残るざらりとした砂粒を流した波は、そのかわりにと足首から下を濡れさせていった。面白い。
どうしてだろう。少しだけドキドキする。
「愛抱夢」
彼の手を自分から引いた。一緒の気持ちになってほしくて。
「まだ言ってないやつあるだろ。聞いてみたい」
「ふふ、朝まで待てないの?」
「うん。全部聞かせて」
できれば普通の以外がいい。本音を言えば昨日の愛抱夢が見せた、あれが欲しい。
「あなたの言葉が聞きたいんだ」
「……いいけど」
なぜか男の目がいたずらっぽく光る。
「君が全部受け入れてくれると思うと、僕はもう少しだけ踏み込みたくなってしまう。つまり」
腰を抱かれぐっと反らされた。ぴたりとあわされた身体から熱が伝わる。
「子供には早いかも」
そう言って続けざまに耳元で囁かれた言葉は、いつもの彼の言葉みたいに抽象的なのに、昨日の彼の言葉くらいわかりやすかった。
「……」
「ほらね」
そうだった。告白には先がある。それを今痛いほど熱くなった頬に初めて実感させられた。
再び愛抱夢が踊りだす。ますますへろへろになった情けない足跡が、それでも確かに彼についていった。