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    20210714 また告白 矢印一方通行(でも流される)を模索すると告白に行きがち あと告白が大好き わざとらしい男も大好き

    ##明るい
    ##全年齢

    初見殺しのピットフォール『お断り』は難しい。
     数ヶ月前の話だ。溢したぼやきは相棒を見たことがないほどしわしわにした。面白くて観察しているとみるみるうちに耳まで真っ赤になりそして、ぐわっと。
    「――優しく、とにかく優しくだ!向こうだってオマエのことが好きで告ってんだから、冷たくされたら悲しーだろ!?」
     まくしたてたかと思えば「まあ俺解んないけど。経験ないから」落ち込んでしまった暦に経験があるほうがいいのか聞いたところ「いいに決まってる」そうなので、次はいかにも慣れていそうな二人のもとへ。
    「そりゃあ優しさは大前提だろうよ。本来こっちからすべき事をわざわざやってもらってんだ、せめて良い思い出くらいにはせんと男が廃る……あとは、あえてハッキリ言葉にしないのもありだぞ。コイツがよくやる」
    「他人事みたく言うな。気を持たせるような振る舞いは感心できんが、告白後も相手と接点がある場合つれない態度をとれば問題に発展する可能性がある。一線を気づかせ向こうから身を引かせろ。この男の得意技だ。教わっておけ」
     その後も両側からぽんぽん飛び続けたアドバイスは、それなりに参考にさせてもらっている。
     直接的な言葉を使わず、相手を思いやり、とにかく優しく。知らない人でも「誰?」と言わない。ひとつひとつを守るだけで、相手に悲しそうな顔させる機会はだいぶ減った。何かを納得して一人去っていく姿を見送る度相談してみて良かったと思う。
     また相談してみようか、まだわからないことも多いから。例えば今の状況とか。
     一度断った相手が再び告白してきた場合、自分はどうすればいいですか――。
    「……ごめんなさい。今は恋愛とか考えられないです」
     お手本そのまま声に出す。皆この瞬間は少なからず顔色が変わるものだがそういう"あたりまえ"的なものはやっぱりこの男には通じないらしく、にこにこと笑っているだけだ。二度目だと感じなくなるのだろうか。
    「……この前断ったろ」
    「二週も経てば気持ちが変わるかなと」
    「変わらないよ」
    「そう。残念だ」
     そんな顔には見えない。
    「それじゃ行こうか」
    「……どこへ?」
    「望みがあるなら何処へでも――無さそうだから僕の好きなところにしよう」
    「はや」
     くないかと続ける間もなく身体が地面から浮いた。何度もされた体勢の名前を実は知っている。先日教わったばかりだ。「名前も知らない持たれ方で運搬されてるの、ちょっと哀れ過ぎだから」ありがとうMIYA。ちゃんと覚えたよ、俵担ぎ。
     揺らされながら鼻歌に耳を傾ける。「そういえば」と思考をそのまま声に出せば、告白失敗後とは思えない陽気なそれを中断して愛抱夢が顔を向けた。走ってるのに器用だな。
    「二回されたのは初めてだ」
    「どう?ドキッとした?」
    「したかも」
     主に驚きでと足せば良かったかもしれない、そう気づいた時にはもう手遅れだった。
    「そう」
     嬉しそうな顔にチクリと胸が痛む。
    「もっとドキドキして。またするから」
    「えっ」
     まだ止めないつもりなのか。
    「三度目の正直に懸けてみるとしよう」
    「やめておいた方がいい。俺は……」
    「もちろん解ってる。それでもしたいからするだけだよ。駄目?僕に告白されるのは嫌?」
    「嫌ではないけど」
    「やった」
     回らないでほしい、普通に酔いそうだ。タップで伝えようやく動きは止まった。彼が言う。すまない。
    「僕は諦めが悪いんだ。覚悟して」
     どちらへの謝罪だったんだろう。それだってわからなかった。
     
    「あそこで止めとけばよかった」
     素直な気持ちで締めた。多分想像より長くなった話に後悔しているのか相棒の顔はくしゃくしゃだ。似たような状況で同じ顔を見たことがあるような、いつだっけ。
    「……ドンマイ」
     優しい言葉に添えられた渋い表情は明らかに色々なものを堪えている。暦は基本的に優しい男だが愛抱夢絡みに関しては驚くほど口と態度が悪い、不思議だ。「されたことを思えば当然だよ。普通に相手してるランガが変なの」MIYAは何でも知っていてすごいな。
     遠くでバチバチ主張する光と音。おそらく来たのだろう。観客がある程度落ち着いたら自分を探しに来るはずだ。彼と暦が会うと少し話がややこしくなる、迎えに行こう。
    「じゃあ行ってくる。断りに」
     背中に「律儀だな」と声がかかった。そんなんじゃないよ。呟いた言葉は思ったよりずっと小さな呟きになってしまったから、相棒には届かなかったかもしれない。
     何度も、それこそ両手を越えて両足まで辿り着いた回数は、このまま自分が断り続けるのならそれすら置き去りにするのだろう。そこまで同じ事を繰り返して、それでも愛抱夢は止めそうにない。
     なんでだろう。
     そもそも自分に告白してくるところからわからない。彼だけの話ではないが、殆ど知らない相手に向けてどうして「好きだ」と言えるのか。
     とても勇気の要ることなのに頑張っててすごい。他人事の感想は、たぶん口にしてはいけないものだから言わない。けど言わないからといって抱いたそれが何処かへ無くなってくれるわけでもなかった。
     ようは、自分は――この言い方は気取りすぎな気もするが――まだ恋を知らないのだ。自分なりに誠実に返事をしているつもりでも相手と同じ目線に立ててはいない。だからこそ懸命に、時に震えながら思いを伝えてくる彼らに「ごめんなさい」を言うのは、その努力を無駄にしているようでかなり消耗する。悲しげにされても寄り添うこともできず、ひたすら謝るしかないのがまた辛い。
     その点だけなら、この後の告白は楽だ。いつ断っても愛抱夢は「そう」とあっさり引き下がってくれる。理由を深く聞くことも、どうすれば付き合えるかなんて探ってくることもなかった。
    「愛抱夢」
    「……ランガくん!」
     ほらやっぱり。こちらに気づいてパッと華やいだ顔はいつも通り、緊張なんて一欠片もしていない。
    「君から会いに来てくれるなんて」
    「するかなと思って」
    「ああ、是非」
     頷き、歩き出した背中のあとを無言で追う。もう慣れた。連れていかれる場所は毎回ちょこちょこ変わるがどれも不思議と人気が無く、そういうことをするのに丁度良い。
     ふと下を見る、彼の足取りはやけに軽快だ。喜ばせてしまったとしたら申し訳ない、望む言葉を言う気は今日もないのだが。
     自販機の前で愛抱夢が立ち止まる。振り返り姿勢をさっと整える彼に合わせ、少しだけ背筋を伸ばした。口が開く、来る――。
    「――ところで喉が渇かない?」
    「……」
    「何か飲もう。奢るよ」
     フェイントに言葉を失うこちらを置いて話を進め、どこからか取り出したカードを彼は自販機に当てた。青い光がわっと点き「さ、どうぞ」背中を押される。状況に追い付けないがとりあえず自分が飲むのは確定らしい。折角なので好みのを選んだ。ガコンと落ちたそれを取ろうと身を屈め、お礼を言わなきゃなと思った瞬間。
     ランガくん。
     背後から名を呼ばれた。なるほど。
     異様に甘い響きを、自分はよく知っている。今度こそ本当にあれが来るらしい。こんな感じのやり方もあるのか。覚えておこう。
     わざわざ背中に声を掛けるのだ、振り返らない方がいいだろう――なんとなくの憶測は当たっていたようで、こちらが何も言わなくとも愛抱夢の言葉は続く。
    「――――」
     ゆっくり染みるように、言い方まで工夫された台詞はもうそらで言える程覚えてしまった。返す答えを考える必要もない。
    「ごめん」
     これでとうとう両手足到達だ。このままでは何本あっても足りなくなりそうだが、まあこれくらいのやり取りで済むならいいか――投げやりに結論付けた頭が、気づく。返事が来ない。いや、直近の記憶を遡った感じだと、まさかあれがそうなのかもしれない。とても小さく聞こえたからてっきり遠くの誰かの声だと思っていた、かすれきったそれは一言、そうか、とだけ。
    「愛抱夢……」
     思わず振り返り「…………」息が止まった。
     声が出せれば言っていたはずだ。――あなたのその顔は何だと。
     しゅんとしている。
     そうとしか言いようがない。明らかに元気がなく、気のせいか彼の周囲を青いもやもやが包んでいるようにすら見える。
     どうして。そんな顔したことなんて無かったじゃないか。今までずっとおかしなくらい普通だったのに。
    「……顔」
     指摘すれば、そこでやっと気づいたらしい。見られたか、と愛抱夢が頬をかく。
    「君が見ていないからと油断していたようだ。やれやれ、ついにバレてしまったな……」
    「バレて、って」
    「わかっているだろう。僕が君にフラれる度、それなりにショックを受けてたってことが。だよ」
    「普通だった」
    「我慢してた」
    「……何してんの……」
     脱力感と共に言葉を投げる。「ひどいな」返される声は軽かったが、拭えない落ち込みの色がべったりと。
     こわい。聞いてない。
     油断していたのはどうやらこちらも同じだった。愛抱夢があまりに変わらないからすっかり安心しきっていたのだ。そういう感じならこっちも構えなくていいかな、なんて――誤解した。
     両手両足分。暢気に蓋を閉じっぱなしにしていた罪悪感は溜まりに溜まっている。これが開けば大変なことになる、そう直感して咄嗟に逃げ出した背中を――言葉が刺した。
    「いちいち悲しまれたら君が苦しいだろうと、そう思って耐えていたのに」
     もう止まらない。次々に、罪悪感が開く。
    「君のために努力していたんだよ。君が好きだから」
    「……」
    「気づかれたいなんて思ってない。むしろ君をホッとさせられていたなら何よりだ。返事が雑になっていくのは辛かったけど」
    「……う」
    「いいさ。君はまだ恋も愛も不慣れだろうから。僕だって勝手にやっていくだけ。今までも、これからも……」
    「……あ、愛抱夢」
     耐えきれなくてそろそろと手をあげた。
    「わかった……」
    「何の話?ハッキリ言ってくれないと解らないな」
    「……だから……その……」
     震えた声が言葉を探す。何だこれ、これじゃまるで自分の方が告白しているみたいだ。
    「付き合うの、考える……」
    「!」
     ずいと近づいてきた彼の周囲からはさっぱりもやがなくなっていたが、
    「つまり」
    「好きじゃない」
     被せれば再びどこからか現れ辺りを覆い。中心の彼がしゅんと。
    「好きじゃない……けど……ちゃんと向き合うから……」
     即晴れた。解りやすいのでフォローは簡単だがものすごく焦る。本当にどうしたんだ愛抱夢。
    「前向きに検討してくれるってことかな?」
    「ああ……うん。そんな感じ……」
     自分でもどうかと思うのだが正直彼のあんな顔を見ても心は一切揺れていない。ただこの、大量に浴びた罪悪感を落とす先が欲しかった。
     利用するみたいで悪いなと彼の表情を伺えば、見透かすような微笑みに貫かれた。
    「構わない。いくらでも僕を使ってくれ」
     ずきずきと胸が痛む。これはこれで辛い――どころか、逆効果だったかもしれない。
     
     
     というわけで――付き合うことになった。
    「……」
     三度目ともなれば相棒の顔はそれはもうしわしわのくしゃくしゃ、梅干しと並べたって負けないくらい線が走っている。それを「ひど」で切り捨てたMIYAもあまり人のことを言える感じではない。
     二人ともそんなにか。暦はともかくMIYAまで。
    「……勘違いしないで。僕はお前達二人が付き合おうとどうも思わないけど、あいつのやり口とランガの鈍感さには引いてるってだけ」
     どういうことか尋ねれば「だからさ」と猫口が曲がる。
    「愛抱夢だよ?」
     愛抱夢だがそれが何だ。首をかしげていると「焦れったいなあ」とMIYAは深呼吸し、一息で。
    「紙一重の天才の方で変態で策略家で性格悪くて人を驚かせるのが好きで人で遊ぶのが好きなあの愛抱夢がそんな解りやすいわけないじゃん……!」
    「あっ」
     ――それはそうかも。
    「何もかも不自然すぎ。そこのスライムだって気づく。気づかないのなんて」
    「MIYA」
    「……なに」
    「すごいな」
     威嚇されてしまった。
     らんがあ、と衰弱した声が腕をつつく。
    「やめにしねえ?」
    「……うーん」
    「即答してくれよお……」
     顔はいまだにしわくしゃなうえ、不安も重なってかもう面白いとも言えない色合いになってしまった。気持ちはわかる。自分も今MIYAの話を聞いてあれちょっと失敗したかなと思っているから。
     だが――これを言うと彼の顔がどこまでも行ってしまいかねないから言わないが――告白を断るのが難しければ、一度付き合うことになったそれを無しにするのはもっともっと難しいことなのだ。どんな顔をされるか想像するだけで面倒もといしんどすぎてとても言えそうにない。
     できれば愛抱夢から自分をフってくれればありがたいのだが、それはもっと無い気がする。優しくし、一線を引き、最終的にはハッキリ言った。それでも気にせず、見方によっては騙してまで自分と付き合った男がそう簡単に終わらせてくれるとは流石に思わない。まいった――溜め息を吐けば何故か向かいの二人が息をのみ「どうしたの」背後からものすごく機嫌の良さそうな声。あー痛い。これが嘘だったとしても痛いものは痛い。
     本当、どこで気づくべきだったのだろう。
    「二度目かな……」
    「何の話?」
    「俺が気づけなくて、気づいた話。愛抱夢――あなたって意外と悪い人だね」
     今さらか。仲間達は同時に叫び、彼は――きっと笑っている。それさえ嘘か本当か、はたまた今度こそ全て知られてしまった恥ずかしさからの照れ笑いだかは、やっぱりどうにもわからないけど。
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