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    20210715 悪くて悪いもしも話
    🌹が❄️を🛹抜きに見れるのか問題見れそうにないがしかしだからといって手放すこともできないのでは話 ❄️は🛹を本当に愛しつつ人ありきでやってるけど🌹は違うから 🛹が先 人生が後 だから🌹から🛹奪うのは大危険行為だけとその次くらいには❄️との🛹が来てそうで(意識ドライ無意識このくらいが好み)こんな感じになった 自信ありません!!全部“虚”です!

    ##暗い
    ##全年齢

    もうブレーキはかけられない 一度目は、もういつだったか正確に思い出せないほど前。唐突すぎる質問に彼も驚いたのだろう。答えるまで少しだけ間があった。
    「そんなことあるわけない」
     否定は確信に満ちていた。
     君はおかしなことを考えるねと、向けられること自体珍しかったせせら笑いが耳に触れた瞬間それはもうどっと汗をかいた。押し寄せる後悔の波に攫われながら聞かなきゃよかったと悔やみに悔やみ、それなのに数ヶ月後再び同じ言葉を口に出した自分は、他人からは馬鹿に見えるかもしれない。ただこれだけは言い張らせてもらいたいが一度目を忘れたうえでの二度目の質問というわけではなかった。自分にしては珍しく脳はあの日のやり取りも嫌な気分もとても正しく記憶していたのだ。
     では何が悪かったのかといえば、彼だ。――であり――であるあの男。二度目の日、彼はとある理由から機嫌が良く互いに何をしていようと構わずひっきりなしに話し掛けてきた。話のたねが無くなってもまた初めに戻るだけ、向こうが満足するまで終わらない。そんな状況に自分は体力をごっそりと持って行かれていた。わざとでなく言葉自体に刺がなかったとしても全く同じ言葉を同じトーンで繰り返し聞かされれば激しく消耗する。限界はすぐそこに迫っていた。
     体力を踏まえ聞き流しに専念していたわけだが、急に脳が奇妙な動きをとった。何度も何度もループする話題で、特に多く出されていた『 』について驚くほど強く反応を示したのだ。『 』が何よりの喜びなのだと言う彼に向け散々尋ねた。どう喜びなのか。どこがいいのか。そして行き着いた先が、偶然一度目と同じ質問だったというわけだ。気にせず口に出したことはともかく切欠は彼と言っていいだろう。
    「そうだな」
     結果だが――まず、一度目のように即否定されはしなかった。質問はそのままでも二人の関係がそのままではなかったからかもしれない。
     区切られた言葉の合間は眠れるほど長かったが、欠伸を噛み殺しつつじっと待った。必ず答えが返ってくると解っていた。
    「どうしてもかい?」
    「うん」
    「それなら」
     数度喉仏を動かし彼は答えた。告げる唇は前回と似た形をとっていたがとても寂しそうに見えた。この男もこんな風に笑うのかとひどく心を揺さぶられたので、今でも鮮明に思い出せる。
    「飼ってあげる」
     冗談かなどと茶化す気には到底なれなかった。そのうえ彼が、嬉しいだろと顔色一つ変えずのたまうものだから本当にお礼を言うべきなのかと悩みさえした。
     結局そのまま流して終わりにしたんだったな。ぼやついた頭を揺らしつつ
    「ありがとう」
     あの時言わなかった感謝の言葉を述べれば、傍らに立つスーツ姿の男が首を振った。せめて座ればいいのに。数日前案内されたこの部屋はとても快適だ、椅子だってきっと座り心地が良いだろう。
     ――偶然空きが出ただけなので追加料金は請求しません、新人の看護師が練習として頻繁に様子を見に来ますので何かあれば遠慮無く言ってください――
     有難い話だった。自分にも、母にとっても。目の下に濃いくまを貼り付けながらここへ通い詰めていた彼女は、その必要がなくなったことでようやく少し寝られているそうだ。運が良かったねと二人で話したのが昨日のこと。そして、そうではなかったと気づかされたのが先程、部屋に入ってきた彼の周囲で頭を下げる誰かしらの姿を確認したときだった。
     どうやらこの白い建物内に充満する都合の良さの何もかもがこの男の計らいだったらしい。しかし普段の彼ならば、自分が言うより先にそれを明かし素直に感謝を受け取ってくれるはずだ。
     自分達が数週会わないうちに、その態度が控えめになるような何かでもあったのだろうか。それとも戸惑っているのか。自分相手に、この男が。
    「……」
     口を固く閉じろくに話すらしないのは怒っているからだと思っていたが、もしかすると何を話すかで迷っているのかもしれない。流石の彼も今の自分にかける言葉は悩むらしい。
    「……あのさ」
     試しにこちらから声をかければ、音が出そうなほど肩が跳ねた。例えるなら――一昨日こっそり部屋を訪れた友人と見た映画の影響が強く残っている自覚はある――幽霊にでも会ったような、すれ違う人影の手に凶器を見つけたかのような、ハッキリとした恐怖が彼の顔を青白く染めている。
     そんなに怯え、襲いかかる何かを見るような目で見ないでほしい。傷つけるつもりで彼と接したことは一度も無い。もし偶然自分が彼にそうしてしまう時が来たとしても、その時二人は間違いなくあの渦巻く道の上を滑り落ちる板に乗っていたはずで、だからもう絶対に大丈夫。その瞬間は来ない。
    「前に話したよね。俺が滑れなくなったらどうするかって」
     返事はないが気にせず進める。覚えていないわけはない。彼は自分よりずっと自分達の仲を大事にしていた。会話だって何時の話だろうとすぐ思い出せることを自分は知っている。
    「なったけど、どうしようか。どうする?」
     何も感じ取らなくなったかのような無表情のまま開いた口が「何を」とかすかな声で返した。解るはずだ。そんなこと聞く必要もなく簡単に、自分の言葉なのだから。
     今さら思う。いっそ茶化してやれば良かったかもしれない。こんなことになるより先にあれを冗談として処理する義務がきっと自分にはあった。
     どうしていつだって、手遅れになってから気づくのだろう。
    「飼う?」
     返事は来ない。予想通りだった。
    「……」
     だがそれは自分だけのようで、己の行動が信じられないかのように男は呆け、突っ立っている。彼らしくもない姿を哀れみかけて止めた。自分はもうそれをしてはいけない。なんとなくそう思った。
     彼の表情をなんて表せばいいかは解らないが見る限り、今からするつもりのやり取りは全て自分が、彼の手を引く形で進行しなければいけないようだ。そういうことは彼に頼ってばかりだったからうまくできるか自信は無い。まあ頑張ってみよう。
     彷徨う目が探す者をきっと彼は知らず、自分は知っている。今だけは自分の方が彼よりも彼をよく理解できているようだ。何だか一昨日よりよっぽどいけないことをしている気がして、くすりと笑えた。
    「いろいろありがとう。沢山助けられたし、嬉しかった。それに、楽しかった」
     一応考えた文句は自分でも下手だと理解できる。いつかの時のように笑ってくれてもいいのだが、見つめる先の顔は笑うどころか何かを堪えるような酷い表情をしていた。せめて自分が二人分笑っておく。彼が今日のことを思い出した時、少しは良い記憶になっているように。
     手袋越しでない肌は温かい。なぞれば僅かに感じる凹凸に、この男も肌は普通なんだよなとしょうもない感想が浮かんだ。本当は中身もそうだったならどうしよう。そうでなければいい。傷つき苦しむどこにでも居る普通の人、別れを悲しむ人でなければ。明日起きたとき自分のことなんて記憶から消えているような人であればこんな終わり方だって。
     願いを込めて頼む。
    「全部忘れて」
     続けて告げたさよならだけは上手に言えたはずだ。
     
     
     扉はよく開き沢山の人が代わる代わる入ってきたが彼の姿を見ることは二度となかった。それでも良い部屋から追い出されることはなく退院まで居続けられてしまった、彼は律儀な人でもあったらしい。
     あれからしばらく経った。無事家に帰り通院しつつ何とか暮らしている今の状況について何か言うなら、生活って案外変わらないんだな、だった。普通に動く分には一切問題のない身体は人生に大きな影響を与えることもなく、ほんの少し不便になった日常を日々過ごしている。心配そうにしていた周囲も少しずつ以前の雰囲気に戻ってきて何よりだ。
     強いて言うならひとつ趣味が無くなった。友人と直接会わずとも用事が済むこと、靴の消耗に頭を悩ませなくてよくなったこと、それと自然とあの場所に行かなくなったは、少し寂しい。でもそれだけ。
     大事だった。けれど自分はそれが無くとも問題もなく生きていけるらしい。画面越しに話すのも、使わない分家に入れるお金を増やせたのも、これはこれでまた違った楽しみがある。直接出来なくなってもやり方は沢山あると友人達が色々と教えてくれたのも大きいだろう。おかげで遠くの他人のそれを見て応援する興奮にも最近新しく目覚めた。まだまだやってみたいことは山程、忙しくて身体が足りないくらいだ。
     失ったものは大きかったけど、人生を壊すほどではなかった。些細な変化を味わいながらゆっくりとこのまま生きていくのだろう。そう思っていた。
     
     
     くぐもった音の正体が自分自身の声だと気づき無意識に出していたそれを止めたがしかし、数秒もしないうちに耐えられなくなった。情けない、声に聞こえない声だとしても出し続けていなければこの暗い空間に自分を見失ってしまう気がしたのだ。
     どこまでも真っ黒だ。いつの間に夜になった。それよりこの口を塞ぐものは。あの突然現れた男達は。
     悩みは尽きず消えることもなく、酸素不足か鈍った頭に期待もできない。
     身体は何かに固定されていた。座ってる感じがして背もたれもあるから椅子と仮定する。手はゆっくりとなら握るなどできても浮かせたり動かしたりは無理そうだ。腕と足に付いているこれは何だろう。じっとしていられずもぞもぞと適当に鳴きながら動くうちに、耳が確かに捉えた。足音だ。誰か近づいてくる。
     足音は身体のすぐ前方で止まった。こめかみ辺りに何かが触れ離れたと同時に、視界が徐々に開いていく。そこにある現実を、逸らせないまま視認していく。例えば黒かったのは目を覆う布であったことや、それから。
     布が完全に払われてもまだそれなりに暗い世界は、けれど夜かどうか確認する術は無さそうだ。この部屋には窓が無い。
     異常な事態に巻き込まれている可能性を急速に把握し始めた身体が固まる前に首をあげ目を合わせる。
     それにしてもまた、酷い顔だ。
    「久しぶり」
     話しかけてくるのなら返事ができるよう口元も外して欲しかった。それとも会話する気はないという意思表示だろうか。
     前回もかなり彼らしくない表情を見た記憶があるが今はあれ以上に、何と言うか元気が無い。うっすら微笑みを作る唇はよく見れば端が震え、伏せ気味の目は瞬きする度瞳をせわしなく揺らす。全体的に不安定で見ているこちらが落ち着かない。そんな顔のまま、突如軽快に男が喋り出した。
    「変わり無さそうで何よりだ。体調も最近良いそうじゃないか、話は聞いているよ。勉強はどうだい?そろそろ難しくなってくる頃だろうがだとしてもあの成績は少し心配だな、僕は」
     機嫌が良い時に似た調子で延々と話は続く。明るい声音に軽やかに動く手付き、以前の彼に戻ったかのようだ。表情以外。
    「ああ、僕?僕の方もまあ、変わりなくやっている。稀に顔を出して遊ぶのも悪くないし近頃は楽しめそうな新人も出てきてね。君が居なくとも普通に、当たり前に……」
     声が止まり、
    「……そう。君が、居ないんだ」
     顔近くでしきりに動いていた手が、急に落下した。思わず目で追ったそれからはだらりと力が抜け、勢いを殺しきれなかった腕ごとゆらゆらと揺れている。突然の奇妙な動きに怯えつつ目線を戻し、息を飲んだ。
     表情が無い。
     前回とは比べ物にならないほど無い。そこに顔はあるのに表情が全く見当たらない。
     作り物のようになってしまった目と視線が合った瞬間背筋が冷えた。夜と直接向かい合っているようだ。真っ暗で底も何も無い、恐怖を誘う黒が自分を見つめている。深く飲まれかけたと気づいたならひとりでに喉が詰まり、音にすらならない声が口から漏れだした。
     こわい。そう目が潤むほどの恐怖を感じながら、しかし同時に、心は悲しいとも訴えていた。何故か。理由はすぐ明かされる。声が聞こえたのだ。
    「耐えられない」
     小さくもか細くもないそれは今まで彼が自分に見せた何よりも寂しげだった。言葉自体、彼がそれを隠さなかった事実、少しも驚かなかった自分、全てに抉られた胸がじくじくと膿んで痛い。
     何処だ。何処かは解らない。だがきっと、また間違えた。いつもそうだ。気づくのはいつだって。
     ほんの僅かに乾燥した手のひらは、あの日と同じまま、ひどく人間らしい温度をしている。
    「助けてくれ」
     助けてあげたかった。けれどもう自分にはそんなこと出来ないと、彼だって解っていると思っていた。飲まれた奥、暗い暗い目の中でちりちりと燃える炎を見るまでは。
     何をされてしまうのだろう。何も意味はないのに。
     どうすればよかったのだろう。今の自分がどうしたら彼を。
     助け方も終わり方もろくに知らなかったのだと、今更な気づきは後悔に押し流され、思考はすぐどこへも行けなくなった。溺れ意識を失う一瞬にただ願う。気づきますように。諦められますように。早く彼が、全てを。
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