真っ白に熱をもつ 群がられているなとただただ思う。
男は待ち合わせを好みよく場所を指定してくるが行ってみたところ姿無しということも少なくない。その場合パターンは二つ。影の方にひっそりと車があるかこうして姿が隠れてしまうほど他者を引き連れているかだ。大抵はこんもりとできた人山の向こうから少し待ってと密かに手を振ってくるものだが今日はその余裕もないらしい。隙間からわずかに覗ける顔は目を伏せ見るからに戸惑っていた。まあこんなにわんさか群がられては流石の男も対処に困るのだろう。自分も困っている。座れなくて。三人掛けのベンチは端に腰かけるのさえ踏んでしまいそうで躊躇気味。
それにしても一体何羽居るのか。数えてみたいような実際数えたら怖くなってしまいそうな。
これは男が使う離れ業のひとつだ。何を発しているのかは知らないが異様に惹き付けられるのは人だけでなく猫や兎も。はたまた鳩まで対象内だったらしい。膝に乗られて動けないと笑っていたのは束の間。次から次へともさもさ集まられたせいで殆ど白いかたまりのようになってしまった。人気者だね。声を掛けてみたものの羽毛にかき消された気がする。
時間はゆっくりと着実に過ぎていく。このまま解散という可能性もぼんやり見えてきた。白かったなと思うだけでまたいつ会えるか分からないというのは。
にわかに鳩達が羽ばたいたかと思うと次の瞬間一斉に飛び去った。視界を白いものが通り抜けていきベンチは無事定員を三人へ。ところどころ抜けた羽で白く飾られ濃色のスーツは掃除が大変そうだ。ようやくまるまる見えた男の顔はさぞげっそりしているだろうと思いきや何だろう疲労というより焦りのような。近づくこちらに早口で。
「大丈夫?」
「何が」
続く言葉に首のうしろがかっと熱くなった。寂しかった。寂しかったろうと言われた。自分が。この男に事故とはいえ放っておかれて寂しさを感じていたのではと確信を持って尋ねられた。それがこんなにもこそばゆい理由は考えるまでもない。ほんの少しだ。振り切ってこちらに来てくれないのは困っているせいだから仕方ないと物わかりのいいふりくらいはほんの少ししたかもしれない。だって動物相手にそんな。
答えたくないと心がだだをこねている。いつから自分はこんなばかみたいになってしまったのだろう。