何でか少し涼しかった 空から現れるのに比べたら横からも下からも驚くようなことではない。突然目の前に現れたとしても当然。
「ランガくん」
跳ね上がる語尾が頬を撫でていった。
「知っているよ。追われているのだろう?」
追われというかあと五〇カウント程で探しに来るというか、まあどちらでも意味は同じだ。頷けば何故か嬉しそうに「僕に任せて」と愛抱夢は胸元を叩く。
「迂闊に端へ逃げるよりここは敢えて近場で身を潜めるべきだと僕は思う。鬼役の意表を突けるからね」
「近場って?」
ぐるりと辺りを見回してもスケートがしやすそうな地面ばかりで隠れられそうな場所は見当たらない。つい見上げた先、自信たっぷりの笑みと共に愛抱夢の左手が上がる。つられてばさりと広がるのは。
「さあどうぞ、君なら歓迎しよう」
「……なるほど…………」
結局その日は無事逃げきったものの、別日再度開催された大鬼ごっこ大会にはルールがひとつ足されていた。他人の衣装の内側でやり過ごすのは禁止。しらを切る、引き渡しを拒否する、最終的に持ち帰ろうとする男なら尚更。