ラブリー最強説破れる 朝目覚めて愛抱夢が大きく、もとい自分の体が小さくなっているのにもそこそこ慣れた。原因は知らないけど異変が起こるのは彼と寝た翌朝だけ、数時間もしないうちに元に戻れるとなると知る必要も感じない。 元々こういう日は大抵夕方くらいまで空けて彼の部屋で過ごしている。その間することなんて見守る、送り出す、休憩中の話し相手。それくらい。つまり今の小さな体でも充分こなせるのだ。だから時間が伸びない限りは別に放っておいていいかと思っている。もしくは愛抱夢から小さくならないでと言われるまで。前者はともかく後者はどうだろう。無いかもな。この感じだと。
「どうぞ」
「ありがとう」
両手をめいっぱい広げて受け取ったクッキーと一緒にクッションへ座り思い切り口を開く。かりかりと食べ進めていくと頭上から思わずこぼれたみたいな笑い声が聞こえた。見上げれば細められた目の中、真っ赤な自分は口元に小さな食べかすを付けて。手が小さいからか拭う仕草もなんだか間抜けだ。それなのに愛抱夢はまたさっきと同じように笑い「可愛い」と言う。
来るか来ないかも分からない異変。それなのに増えていく小さな家具と小物たち。そしてこのすっかり聞き慣れた声音のとろけっぷり。
「愛抱夢」
「ん? なに?」
「小さいのってそんなにいい?」
数秒後差し出されたのは返答でなく丸く開いた手だった。よく分からないままよじ登り手のひらに座ると連れて行かれたのは腿上。とりあえず乗っておく。
「守ろうとしているんだと思うんだよね」
「誰が?」
「君」
ゆっくり近付いて来た指先が頬を押した。
「君が、君を守るため寝ている間に体を縮めている」
可能なのかとか何から守るんだとか訊きたいことは色々あったけど、他を押し退けて口から出たのは。
「……守れなくない?」
加減されていることは分かるのにそれでも頬をつっつく指先を少し強いと感じる。こういうところ小さい体 は頼りない。守るならむしろ大きく、たくましくさせるべきじゃないだろうか。
言えば愛抱夢が微笑んだまま肩をすくめた。
「確かに。けど小さい方が可愛いだろ」
「可愛さ要るかな」
「要るよ。僕の庇護欲が高まる」
「なんで愛抱夢?」
「それは勿論、君の警戒している相手が僕だから」
「だからなんで。警戒って、俺愛抱夢のことそんなふうに思ってない」
さらりと言われたからこそ流せない。
対戦中ならともかくそれ以外で警戒なんてするものか。こういう二人で過ごす時間なら尚更だ。なのに内心彼を危険な存在として見ていると一方的に決めつけ られたように思えて納得いかなかった。
つい乗り出した身が指に挟まれる。
「傷付けられても?」
「付けないよ」
「いいや。付けたさ。昨夜も」
「……あ、……えー…………そういうこと?」
「おそらく」
そんなことか。思っては多分いけないのだろう。自分なりに自分を案じての行動なわけだし。けど少し、 なんだかな、力抜けた。
「だから僕がこれ以上君に攻撃しない、つまり『こんな可愛い君にひどいことなんて出来ない!』と意思を示すのが一番早いし確実……とはいえ君を誤解させるくらいならやり方を変えよう。ランガくん」
「うん」
「その姿も可愛いね。食べやすそうで」
犬歯が見えるほど開かれた口が近付く前に体は降伏したようだ。
元通りの首へ代わりのように噛みついて、残念、とそうでもなさそうに愛抱夢が呟いた。