いつかお前は胎の中己の肌を初めて見せた時の弟子の顔は見物だった。
驚いてしまった事を失礼な事と思ったのか、悲鳴を耐えて息を飲むに止めたのは、さすが北の勇者を名乗っただけの胆力というところだ。
そういうところが気に入っていた。
己の肌は今まで人間に晒したことはなかった。
常に袖の長い衣服とマントで全身を隠してほぼ顔と首回りしか見せていなかったのは、己の肌は人間のそれとはまったく違うのだ。
日中の明るい陽の下であれば目立たないが、夜、ランタンや蝋燭の灯りの元では分かってしまう、この肌は鱗に覆われている。
細かな模様が複雑に光を反射して肌を光らせている。
他にも人間と違うところはある、例えば牙やこの舌だ。
二股に分かれた人よりも長い舌。不自然に長い犬歯が二本。
よくよく見れば薄く膜を張る眼球。
この膜のおかげで瞳孔の形を誤魔化せている。
人の世界で言えば蛇によくにている。
そういったものを怖がって逃げればいいと思っていたが、その1つ1つを知るたびにノヴァは驚きこそすれ逃げることはなかった。
逃げてくれればよかったものを。
「先生は蛇みたいですね…」
夜具の下で事後の気だるさに任せて俺の胸にしな垂れかかったノヴァがぽつりと言った。はじめこそ驚いていたこの肌にすっかり慣れた頃、命の恩人で両腕が使えぬ魔族に絆されていた哀れで気高い少年を手籠めにしていた。
命の剣を持つ自身が美しい剣のようなノヴァ。
初めて目にした時から、どうしても欲しいと思ったからノヴァの理想の師を演じ、魔族の手管で体を甘く溶かし懐柔して手に入れた。
可愛そうにノヴァは尊敬する師からの誘惑を無下にできずに受け入れた。
逃げればいいものを逃げなかった。
「冷たくてつるつるしてる」
何がおかしいのか、くすくすと笑いながら俺の鱗を指でなぞる。
「舌も…長くて蛇みたい」
あどけなく、だが確実に欲を煽ってくるから、お望み通りにその長い舌で牙でノヴァの咥内を隈なく味わえば優越感で笑いそうになる。
ノヴァは俺よりずっと早くに死ぬだろうが、そんな事は許せない。
この手から零れ落ちるその前に愛しい男を頭から丸呑みにして、その全てを己の腹に収めることに決めている。
己の血肉となればノヴァは永遠に俺のものだ。
さぞや旨い肉だろう。