吸血鬼AU① 洛冰河の食事は、子の刻に一度と決まっている。
以下になることはあるが、以上はない。
夕餉が終わり、茶を飲んだあと洛冰河が一度下がると、就寝の支度を始めるのが沈清秋の常である。
姿見の前に立ち、外衣を下ろして髪をほどく。
置かれたままの衣を片付けるのは、洛冰河の仕事なので動かすこともせず、沈清秋は寝台へと足を運び腰を下ろした。
そろそろ、か。
ほどいただけの髪をするすると撫で、沈清秋は待っていた。
毎日のこと、ではあるけれど、この時間は落ち着かないなぁ。嫌ではない。むしろ……
とまで考えて、沈清秋はぶんぶんと頭を振ってそれを追い出した。
ほどなくして部屋の扉が、かたん、と鳴った。
「師尊」
静かに入ってきた洛冰河に手招きをすれば、その図体に似合わぬ可愛らしい動作で隣に腰掛け、こちらを窺うように小首を傾げる。
沈清秋が、洛冰河側の衿をぐい、と開いた。
その首筋には、薄皮で塞がったばかりの丸い傷が二つ並んでいる。
洛冰河はうっとりとした表情でそれを、つい、と撫でてから、沈清秋の肩を掴み首に腕を回して抱きつくようにして肩に口付けをしてゆく。
ちゅ、ちゅ、と軽いリップ音を立てて肩にから首筋に向かって口付けを落とす度に、沈清秋は短く息を吐き、背はふるふると震えた。
洛冰河は二つの傷に口付けをした後、べろりとそこを舐めてから、口端から覗く鋭い牙を同じ場所に埋めてゆく。
「……ん、」
つぷ、と薄皮を破り内側に牙が沈む感覚に、沈清秋は声を漏らした。
ぢゅ、ぢゅ、と吸われてゆく血液を感じる度に小さく声が漏れ、洛冰河の背にしがみつき顔を擦り付けてそれを耐えている。
「は……んぅ……」
じゅるり、と大きく吸うと同時に牙を抜かれると、えもいわれぬ感覚が走る。
牙の抜けた場所は赤黒くぽっかりと穴がわかるものの、血が垂れることはない。
沈清秋が支えられるように身体を起こすと、きゅっと眉を下げ今にも泣き出しそうな洛冰河と目が合った。
「……もう、よいのか」
沈清秋が血の気の引いた顔で問うと、洛冰河は幼子のように頭を左右に振った。
「ですが、師尊っ……そのようなお声をあげられると……この弟子は、その……我慢がきかなくなってしまうのです」
「~~っ、よい……。この師が、弟子に与えられるものは全て与えてやりたいのだ」
洛冰河はほろほろと涙を流す様も美しく、沈清秋はその顔に弱かった。
好きにしろ、と言い終わる前に口は塞がれ、鉄錆の味が口内に広がって無遠慮に舌が這い回る。
洛冰河の牙がカリカリと歯を掻き、洛冰河の舌で上顎を撫で上げられる感覚をたっぷりと味わわされて、沈清秋のまだ青白い頬に艶かしく朱が差してゆく。