サメ太郎のこと 海を越えた遙か遠く。短い夏には日が沈まず長い冬には太陽が上がらない、オレ
はそんな国から期待に胸を膨らませて日本にやってきた。ぎゅうぎゅうにコンテナ
に詰められての長い船旅だって、オレのことを手に取るのはどんな奴なんだろうと
考えたらちっとも辛くなかったんだ。
けれどそれから長い間、オレは誰にも買われることなく、今日も大きな籠の下の
方でぺちゃんこになっている。店員が定期的に場所を変えるから手には取られるけ
ど、みんなオレを戻して別の奴を買っていく。だから、その度にどんどん下へ追い
やられてしまう。
「ママ、この子なんだか他のとちがうよ。へにゃってしてる。」
「そうだねぇ、他の子にしようか。」
今だって、オレを一度手に取った小さい男の子と母親が、一昨日籠に入ったばかり
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