ブランケットを持って二階の廊下を歩いていると、二〇五号室のドアが開いていることに気が付いた。天彦はうっすらとドアに手を掛けて、室内を覗き込んだ。ベッドで誰かが眠っている。黒い髪が覗いていた。
天彦はベッドに近付いた。オレンジ色のブルゾンがテーブルの上に無造作に置かれている。
「ふみやさん、お昼寝ですか?」
声を掛けるとふみやが天彦を振り返った。昼寝をするためか、普段セットされている髪も無造作に降りていた。こうして見ると、年相応に幼い顏に見える。
「腹いっぱいだし」
ふみやが欠伸混じりに呟く。
「では、この天彦が添い寝しましょう」
天彦は手に持っていたブランケットを掛布団の上に掛けてみた。ふみやはまっすぐ天彦を見つめてくる。
「……添い寝しなくていいんだけど。俺、一人で寝れるって」
「ダメですか?」
天彦が小首を傾げると、ふみやが息を吐き出した、
「……別にいいけど」
ふみやはそう呟いて、向こうを向いた。天彦はベッドに潜り込んで、ふみやの肩に掛布団を掛け直した。狭いベッドの中でふみやにくっつくと、ほんのりと甘い香りがした。柔軟剤と、スイーツの香りと、それから不思議な良い匂いが混じりあっている。
「ふみやさん、子ども体温ですね。ぽかぽかしてます」
ふふ、と天彦が笑うと、ふみやが仰向けになった。
「あまひこもな」
そう言ってまた欠伸をする。天彦もつられて欠伸をした。それからぽんぽん、とふみやの腹を規則正しく軽く叩く。
ほどなくして、すうすうと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「もうねちゃったんですね。おやすみなさい、ふみやさん」
あどけない寝顔を見つめながら天彦は欠伸をすると、ふみやに身を寄せながら目を閉じた。