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    通行人

    通行人の愉快な文字置き場

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    パニシキ(未満)の話です
    とりあえずアイデアの書き殴り
    そのうち書き直したい。

    心臓が口から出てしまうのかと思ったが
    溢れたそれは、まったく意図しない言葉だった。
    驚き、目を見開く相手の姿に、胸の更に奥に何かが刺さり酷く痛む
    不意に訪れた静寂が、自分の心音を浮き彫りにする。

    「好きです」

    言うつもりは無かったのに。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    その日、依頼されてたケープを渡す為、指定された場所に向かい飛んでいた。
    初めて補修を依頼された後から、ありがたい事に彼から依頼を受けるようになったのだ。
    毎度、彼のボロボロになってしまったケープは直し甲斐があって、今回も我ながら綺麗に補修できたと思っている。
    はっきりと遠くまで通る声で、いつも通りのあの笑顔で「ありがとう」と告げられる光景を想像して一人でニヤつき、そして急に恥ずかしくなって頭を振る。

    そんな彼―――パニカさんへの恋心を自覚したのは、そう遅くは無かった。
    こんなにも軽率に恋心を抱える自分の浅ましさに思い悩んではいるものの、会う度、言葉を交わす度、そして名前を呼ばれる度に募る感情の止め方を俺は知らなかった。

    勿論、今の程良い距離感で会話を交わすこの関係に何も不満はなく。
    困らせてしまうかもしれないこの気持ちは、胸の奥の奥の奥に隠していようと決めていた。

    だから、その時どうしてそう呟いたのかはわからなかった。
    嘘、本当はわかっていた。
    待ち合わせに指定された場所に近付くと、遠くにパニカさんの姿が見えた
    声を掛けようとするが、その姿を見た瞬間に思わず息を呑む。
    遠くに沈む夕陽が彼の横顔を照らしていた。
    足元に長く伸びる影も、珍しくお面を外して何処か遠くを眺める瞳も、ふわりと風に揺れた長く編まれた髪も

    あぁ、この世界にこんなにも綺麗な星が居るのかと
    今思えば、笑ってしまう程にキザったらしい考えだったが、本当にそう思ったのだ

    横顔がこちらを向く、すっと結ばれていた口元が緩み笑顔になり、こちらに手を振ってみせた。
    橙の光が彼の輪郭を彩り、チカチカと眩しい
    心臓がうるさい程に鳴る。急に熱くなった顔はきっと夕陽が誤魔化してくれるだろうから、笑みを返して彼の前に降り立つ。
    「来てもらってすまないな!!」
    低く、けれどもどこか柔らかい声が鼓膜を揺らす
    はっきりと通る声は心地よかった。
    いつものように広げられた手に、少し躊躇いながら近づけばふわりと抱き上げられて、くるりと回される。
    叫び出したいほどの感情に戸惑いながら
    じっとこちらを見た瞳とパチリと目が合った瞬間
    ぐっと何かが溢れだして、止まらなくなる感覚に襲われた。

    「好きです」

    とうとう心臓が口から飛び出たのかと思ったけれども
    零れ落ちたものは自分でもまったく意図しない一言だった。
    驚きに見開かれていく目を見た瞬間に、自分の言ったことに気付き指先が震える
    ―――俺は何を言った?誤魔化す?どうやって?早く、否定しないと、本当の事なのに?
    それよりもケープを渡さなければ、謝らないと、あぁ心臓の音がうるさい
    目の前が遠くなっていく、熱いのに寒い、どうすればいい?

    「シキ」
    ぐるぐると回り続ける頭に、その声は冷や水のようにストンと落ちてきた
    いつの間にか落ちていた視線をゆっくりと持ち上げると
    困ったように笑う、パニカさんが居た。

    あ、

    「ありがとう、けれど……すまない」

    意識がふっと遠くなる。燃え上っていた火が一瞬の内に綺麗に消え去る
    心臓が脈打つたびに、ズキズキと痛んで立っているのがやっとだった。
    「上手く言えないんだが、そうだな……嬉しいけれど、君の気持ちには応えられない」
    はっきりと聞こえているのに、無意識で拒否してしまいそうな自分がいる
    その言葉を理解するよりも先に、目頭がぐっと熱くなり
    ぼやけた視界の中で、パニカさんが困ったように笑っていた。
    あぁ、困らせてしまった
    言うつもりは無かったのに、本当はこのままの関係で良かったのに
    自分のせいでこんなにも優しい星を、困らせてしまった。
    零れそうになる涙が悲しみなのか羞恥なのかはわからなかったけれども
    それを見せたら、余計に困らせてしまう事だけは、はっきりわかった。
    顔を見られたくなくて、うつむいた先の地面に一粒だけ水滴が落ちる
    それをぐっと拭い前を向くと、パニカさんがこちらに手を伸ばしているのが見えた

    「触れないでください」

    震える声で、呟く。何かを話せば涙が零れそうになる自分が嫌でぐっと唇を噛む。
    泣くな、泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな!!ーーー笑え

    「すみません、俺はまだガキだから……触れられたら、勘違いしちゃうし、また変に期待するし舞い上がっちゃうから、すみません、本当にすみません」
    今、自分はどんな顔で笑っているのだろうか?
    多分、すごく変な顔になっているのだろうけれども、それを気にする余裕はなかった。
    「これ、お預かりしていたケープです。一応補修と補強を済ませてますので」
    持ってきたケープを半ば無理矢理相手に押し付けて、頭を下げる
    「お時間取らせてしまってすみませんでした。それと、聞いてくれて、ありがとうございます」
    言葉の最後は震えていたのかもしれない、

    不意に吹き付けた風が、赤いケープを揺らすのが視界にチラリと見えた
    その風に乗って地面を蹴り、空に舞う。

    相手の顔を見る余裕はなかった
    そもそも、こぼれ始めた涙のせいで見えなかった。

    美しく辺りを赤く染めていた夕陽は、いつの間にか遠くに沈み
    深く暗い夜がすぐそこに迫っていた。
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