「匡貴、本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫だから、さっさと行って来いよ」
母親に訊ねられ、二宮は不機嫌そうな声を出して。
「ちょっと前に、酔って鍵を落としたって勘違いして、べそかきながら電話してきたのに?」
「……それは忘れろ」
唇を強く噛み、彼女を睨む。だが、その頬はほんのり赤く染まっていて。
「はいはい。火の元には気をつけるのよ」
「わかってる」
「あっ。こんばんは。これから、おでかけですか?」
二宮母が玄関を出ると同時に、影浦が現れて。
彼女は、彼を見てから影浦を見て。
「ちょっと匡貴。雅人くんがくるなんて聞いてないわよ」
「言ってねえからだよ。さっさとしねえと父さんが拗ねるぞ」
「それもそうね。雅人くん、匡貴のことお願いしますね」
「はい」
「おい」
二宮のことをお願いされ、素直にうなずく影浦。そんな二人に、二宮は拗ねたように唇を尖らせて。
「はいは、拗ねないの。いやらしいことしちゃだめよ」
と、肩を叩いて彼女は父親と一緒に出掛けていく。
「チッ」
両親が完全にいなくなったのを確認し、二宮は影浦を招き入れて。
「鍵をなくしたと勘違いして泣いて電話したんだって?」
「そこから聞いてたんか」
「いつ声かけようか迷ったからだよ。んっ」
二宮は彼が靴を脱いでそろえた後、立ち上がった瞬間を狙って口づける。
どさっと落ちる荷物。
舌を絡め、腰を撫でた後尻を撫でて。
「いやらしいことするのはだめだって言われんだろ?」
「せっかく二人がいねえんだ。それに、おまえもそのつもりで来たんだろ」
ふわっと香るボディーソープの匂いに、二宮は笑みを浮かべ。
「……そうだよ。おめーが、そういうつもりで俺を呼んだのわかってたから、ちゃんと準備してきたんだよ」
言わせんな。
照れているのかぼそぼそと告げる影浦に、可愛いと思う気持ちが爆発した二宮は彼をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「にのみや、くるしい」
「なんでおまえはそんなに可愛んだ」
「かわいくねえよ。いてえから離せよ」
影浦はバシンバシンと背中を叩き、離すよう告げる。
「今すぐにでも抱きてえ……」
そうこぼすと同時に、ぐうっと二宮の腹が抗議するように音を立てる。
「っは」
「笑うな」
拗ねた声を出して影浦を離す。
「だって、おめー……くふっ」
また小さく音を立てる腹に、影浦は笑いをこらえきれずにしゃがみ込む。