組長の恩返し その日は生憎の雨だった。
しかし、ありがたいことに店は盛況で、スマホには、学校帰りに買い物をしてきてくれ、という連絡が入っていた。母からのメール通りに、影浦は学校帰りにスーパーに寄って、ディナータイムに間に合うようにと、普段はあまり通らない近道をする。室外機と、業務用のゴミ箱がひしめき合う、そんな道に──
「……あ?」
──その、美しい男は、死んだように眠っていた。
◇◆◇
「ただいま」
「おかえり雅人、おつかいありがとね。レシートはいつも通りテーブルの上にお願い」
「おー」
「雅人、ちゃんと学校行ってっかー?」
「行ってるっつーの、あんたらも飲みすぎんなよ」
家の一階部分の店に顔を出し、母にエコバッグを渡せば、母はニッコリと笑ってそう言った。マスクを外して母に返事をしながら、もう既に出来上がっている常連客に会釈をして、影浦は再度マスクをする。それから、店の引き戸に手をかけて、半分身体を出したところで、ふと母を振り返った。
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