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    GogaTuAMe2336

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    GogaTuAMe2336

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    一応これで序章は完結

    前回の続き高層マンションの一室、酷くイライラした様子で椅子にもたれ掛かるミューモンとベースのチューニングを行っているミューモンが2人。燃えるような赤い髪、耳や角など無数に開けられたピアス、不機嫌そうに太いしっぽをだらんと垂らしているこのミューモン…ドレイクは目の前にいるミューモンに話しかける。

    「ねぇ、メリコ遅くない?」
    「………そう?」

    晴れた青空のような水色の髪にオレンジ色のカチューシャを付け、前髪を斜めに揃えたミューモン…セリリエは濃い群青色の目を伏せたまま返事をする。話しかけても尚ベースのチューニングをやめない姿にドレイクは眉をひそめ更に不機嫌になる。

    「はーあ。せっかく集まったのに練習できないなんて無駄な時間じゃない。最悪。」

    強めの口調で不機嫌を撒き散らされ、セリリエはチラッとドレイクを見た後に彼女の方に体を向ける。

    「…メリコにボーカル探して来いって言ったのはドレイクでしょう?」

    そう言い返した後すぐにドレイクからスっと目を逸らす。
    彼女らが所属するバンド、Merry GO loudにはメインボーカルがいない。歌えばその分楽器自体のクオリティが下がってしまうのだ。負担を分担させるため、全員でボーカルを回して曲を完成させていた。しかし、リーダーであるドレイクが先日舌にピアスを開けてしまい、上手く歌えなくなってしまったのだ。1人歌わなくなったことにより、他2人の負担が増えてしまった結果、曲全体の完成度がガクンと下がってしまった。

    「は?なに?アタシ悪くないけど。」

    先程よりも更に顔をしかめてセリリエをキッと睨む。ドレイクが不機嫌なこと、新たにボーカルを探す必要ができたこと、メリコが不在で練習できない事、全てはドレイクの自業自得である。誰が見ても彼女が悪いのは明白なのだが、ドレイクはそれでも自分は悪くないと突き通す身勝手なミューモンなのだ。
    そんな彼女の性格を嫌という程知っているセリリエはそれ以上何も言わず、再度ベースに向き直ってチューニングを再開させた。また気まずい時間が流れる事が確定し、憂鬱な気分に浸る。ドレイクに気づかれない程度の小さなため息をついた時だった。

    「ただいまぁ〜」

    玄関の開く音と聞き馴染みのあるのんびりとした声が同時に響く。パタパタとこちらに来る足音が大きくなり、勢いよく扉が開いた

    「ドレちゃんセリちゃん!ボーカル!いたよ!連れてきたよぉ〜!!」

    褒めて褒めてと言わんばかりに袖の長い服を振ってアピールするメルコ。その隣にはフードを深く被り、下を向いている少女の姿があった。ここまで走ってきて息が上がっているようで肩が上下していた。

    「メリコ!遅いじゃない!!」

    腰掛けていた椅子から立ち上がり、帰ってきたメリコの前に立つドレイク。メリコはごめんねぇと気の抜けた返事をする。メリコが帰ってきたことにより、心做しか先程よりも機嫌が良くなっている気がする。

    「で?アンタがボーカル?」

    ドレイクの鋭くキツイ目が少女の方に向けられる。厳しい視線と目が合った少女はビクッと肩を一瞬震わせ、そのまま下を向いてしまった。その萎縮した態度にドレイクは眉をひそめ、少女を凝視している。ドレイクが口を開け、何かを言いかけた時、

    「ドレイク、怖がってるわ」

    セリリエが立ち上がり、そのまま彼女らの間に割って入った。その行動で雰囲気の悪さが良くなる訳でもないのは重々承知だった。少しでもこの雰囲気を重くしないよう、彼女のなりの気遣いである。一瞬だけドレイクを見た後、すぐに少女の方へと視線を向ける。

    「初めまして。私はセリリエ。このバンドでベースをしているの。あなたは?」

    ドレイクの視線が当たらないよう配慮しながら簡単に自己紹介をする。顔を上げた少女の目には涙が浮かんでいた。少女は戸惑いながらたどたどしい自己紹介をした。

    「あ、あの……えっ…と……わ、わた…し…」
    「は?何?声小さい。聞こえないんだけど」

    少女の声を遮るかのように横から口を挟む。その強い口調に気圧されたのか、せっかく上がった顔がまた下がってしまう。何も言えなくなる少女にどうしたらいいかわからず、しばらく4人無言の時間が続いた。

    「ねぇねぇ、ドレちゃん。メリーはボーカルを連れて来たんだよぉ?ならさ、自己紹介の前にやることあるじゃん〜?」

    沈黙を破ったのはメリコだった。メリコは少女の腕にギュッと抱きつく。いつもの丸い目を細めた笑い方。可愛らしいメリコに似合うその笑顔だが、今この瞬間に限り何を考えているか分からず、セリリエにだけは少し不気味に写った。
    メリコの意図を察したのか、ドレイクは自分の机に向き直り何枚か楽譜を取り出すと、少女の前に差し出した。

    「これ、アタシたちの楽譜。アタシとメリコがチューニングしてる間に覚えて」

    少女が震える手でその楽譜を受け取ると、フンと鼻を鳴らして乱暴にギターを掴んで弾き始めた。それに続くかのようにメリコも少女から手を離し、鼻歌混じりのスキップしながらドラムスティックを取り出しドレイクの方へ向かう。
    残された少女は呆然としていたがすぐにハッと我に返り、楽譜を読み込んでいく。

    「…ねぇ、あの子たちがごめんね」
    「えっ……あ…いえ…だい、丈夫…です……」

    1人先にチューニングを済ませたセリリエはドレイクと少女を交互に見た後、ドレイクには聞こえないよう少女に耳打ちをした。

    「無理に喋らなくて大丈夫よ。でも、名前だけは教えてくれない?」
    「ぁ……えっと…つ、つみき…です…」
    「そう。わかったわ。ありがとう」

    それだけ聞くとセリリエも楽器を持ち、ドレイクたちの方へ足を向ける。少女は再度楽譜に目を向け、覚えようと必死になった。頭の中で何度も何度もメロディを流し、チューニングの邪魔をしないよう蚊の鳴くような声で歌っていた。

    「ちょっと…ねぇちょっと!!!」
    「はひぃっっっ!!!!!」

    突然の怒号に肩を大きく震わせる。振り返るとそこにはチューニングを終わらせた3人が少女を見下ろす形で立っていた。相変わらず眉をひそめ、機嫌が悪いですと言わんばかりの顔をしているドレイク。そんな彼女の隣には腕を組んでため息をつくセリリエと相も変わらずにっこりしているメリコの姿が。

    「歌詞、覚えたわよね?」
    「は、はぃ…」
    「じゃあさっさと準備して。こっちも暇じゃないから」

    ドレイクの圧に萎縮しながらもギターを準備する少女。それぞれの配置に着きながらセリリエだけは内心ハラハラしながら見守っていた。楽譜を渡したとはいえ、チューニングが終わる数十分という短い時間では覚えられる訳が無い。チラッと見た少女の横顔は長い前髪に隠れて見えなかったが、俯いている事は確かだった。

    「はーい、それじゃあいっくよぉ〜!」

    ドラムスティックの音を合図に、全員の音が軽快に鳴り響く。出だしは好調、全員が自分の音楽に集中している。…1人を除いて。
    歌い出しは前奏が始まった10秒後。まだギターの暗譜ができていない少女はマイクを強く握る。
    5秒前、
    少女はやはり下を向いている

    3秒前、
    息を大きく吸って前を見据える

    1秒前、
    前髪の隙間から一瞬だけ見えたその目。その真っ直ぐな目。ただ前だけを見る目。自分なんて見ないその目。その目をセリリエは知っていた。

    歌い出した瞬間部屋の空気が変わった。先程の弱々しく小さな声の少女ではない。その声は力強く透き通っていて、3人が合わせても到底敵わない声量だった。一瞬全員の動きが止まりかけた。少女の左側にいたドレイクはその声、瞳、表情、全てに釘付けになった。それは正にドレイクが求めていた歌声、ドレイクが聞きたかった理想の音、メリゴに足りなくてずっと欲しかったもの。ドレイクは今にも少女に飛びつきたい衝動を堪え、それを全部ギターに乗せる。楽しい、楽しい、最高に楽しい。初めてギターを弾いた高揚感…いや、それ以上の高ぶる感情がドレイクを支配していた。それはセリリエもメリコも同じだった。2人はいつもとは違う演奏に食らいついていくのに必死。だがそれと同時にこれ以上ない程興奮していた。

    演奏が終わると4人は息を切らしていた。ライブで演奏したような汗と疲れだった。全員が肩で息をしていたところ、1番初めに声を出したのはドレイクだった。

    「すごい…すごい!アンタすごいじゃない!!最高よ!!アンタの歌!!」
    「わ、わっ……!」
    「アンタそんな声出せるのね!?喋ってる時と全然違うじゃない!!騙された!最高よ!!」

    演奏が終わった途端にドレイクは目を輝かせながら少女の手を握り、お互いのギターがぶつかりそうになるくらい顔を近づける。さっきまでの不機嫌な態度が嘘かのように嬉しそうな顔で褒め称える。

    「ねぇアンタ!アンタ名前は?」
    「え、えっと……つ、つみき……でひゅ…」
    「ツミキ!ツミキね!!覚えたわ!!」
    「…名前はさっき話したじゃない…聞いてなかったの?」

    先程名前を聞いたセリリエは既にドレイクに伝えたようだが、ドレイクの耳には届いていなかったらしい。都合の良いことしか聞かないドレイクにセリリエは再度ため息をついた。そんなことなんて露知らず、ドレイクは少女の名前を何度も呼ぶ。

    「ツミキ!ツミキ!!ツミキね!!アタシ、アンタの歌すっごく気に入ったわ!好きよ!」

    いきなり手を握られた上に真正面から褒められたこと、そして歌い終わりの疲労でツミキはぐるぐると目を回す。

    「そうだねぇ。ツミちゃん、すっごく歌上手だったねぇ。想像以上でメリーとってもびっくりしちゃったぁ」

    連れてきてよかったぁと丸い目を細めるメリコ。目を回しているツミキの腰に手を回し、ギュッと抱きしめる。褒められて嬉しいツミキは恥ずかしそうに少し下を向いた。

    「じゃあドレイク。この子……ツミキはメリゴに加入ってことでいいのね?」
    「当たり前よ!アタシ、あんな最高にドキドキする演奏初めてなんだから!!」

    そういうとドレイクはツミキを掴んでいた手を離し、1度ギターを置く。そして下を向くツミキの顔に手を添えて自分の方に向かせる。

    「メリゴへようこそ!ツミキ!!」

    そこでバッチリと目が合った2人。紅く燃える太陽のような瞳がツミキを射抜いて離さない。自分を認めてくれた、自分の歌が好きだと言ってくれた相手の綺麗な目。キラキラと輝いて見えるその目。返事をしようと口を開くツミキより先にドレイクの言葉が突き刺さる。

    「ツミキ」

    まるで愛しい宝物を見つけたかのようなその表情。その宝物を手放さないと言わんばかりに、添えられていた手に少しだけ力が入る。ドレイクの口元の動きがツミキにはまるでスローモーションかのようにゆっくりさていた。

    「アタシ、アンタの事愛してる。愛してあげるわ」

    甘い表情でいきなり吐かれた愛の言葉によってツミキの顔はドレイクの髪とそっくりの色に染まった。何か言わなければと開いた口は貝のようにキュッッと閉じ、再度グルグルと目を回す。

    ドレイクが見たこともないくらいに上機嫌な様になり、メリコも同じようにニコニコとしていた。セリリエもドレイクがツミキを歓迎したこと、バンドの演奏が上手くいったことを素直に喜んでいた。しかし、ツミキから一瞬だけ見えた目が気がかりだった。ドレイクのはしゃぐ声で我に返った後にその思考に蓋をし、興奮気味に喜ぶ3人に駆け寄った。

    ドレイクの理想の声、理想の歌、理想のバンドが完成した。彼女が囁く愛はある種の「支配欲求」である。ドレイクが求め愛すのはツミキの僅かな側面でしかない。痛く、鋭く、純粋なそれは彼女たちを長く蝕む呪いとなる。

    これは「あいしていたい、あいされていたい」未熟な彼女達の後悔と終わりへの物語。
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    Replies from the creator

    GogaTuAMe2336

    MOURNING会話は後半、前半は生い立ちっぽいなにか
    拙い
    メインストーリーの冒頭これは、少女の後悔になる物語である。


    太陽が沈み、空が薄暗くなる。街灯がチカチカと点滅し、賑わっていた街も夜の静けさを取り戻す。先程まで沢山の音が鳴り響いていたライブハウスも明かりは消え、ドアノブにはCLOSEという文字がぶら下がる。そんなどこにでもある街中のライブハウスの前で少女は1人腰掛けていた。

    フードを被って長い前髪で片目を隠し、露出しているもう片方の目からは今にも涙が零れそうになっている。この少女は先程までこのライブハウスにいた。ステージに立ってライブに参加していたバンドマンの1人なのだ。では何故今ここに1人なのか。結論から言うと、この少女はライブを大失敗に導いた張本人なのである。ステージ上で緊張のあまり頭が真っ白になり、歌詞も譜面も何もかも忘れてしまったのだ。当然観客からは大ブーイング。大失敗のライブの後、バンドメンバーもこれ以上の失敗は許容できないと言い残し離れていってしまった。ライブの失敗は今回が初めてでは無い。むしろ次こそはと励まし、期待し、チャンスをくれたバンドメンバー。そんな迷惑ばかりかけてきたバンドメンバーからのクビ宣告を少女は受け入れざるを得なかった。
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