仕事は終わらなかった 動画設定資料集を信じるならば雲夢の地は海より遠く離れた内陸部に在し、恐らく確実に絶対間違いなく、夏は暑い。そんなクソ暑い地の、時は日中、部屋の一角で当主たる江宗主と、私用を兼ねて存在する藍宗主は政務の一件にて顔を付き合わせていた。折り悪しく窓を開けてみたところで、風も吹かぬ。
暑い。地面からは陽炎が揺らめき、生き物はおろか、羽虫すらもその僅かな水分を奪われたのか姿を見せない。しかし仕事はそんな事情を鑑みる事無く無情にも襲ってくる。一応こんな時雲夢には上半身裸となる風習があるが(ラジオドラマ「蓮の花托」より)、会談中に、しかも他家の宗主の前で、その行動をとっているのかは分からない。しかも設定は㬢澄である。次の瞬間更に熱…いや、暑くなってしまう可能性も考えられる。温度の上下はともかく、仕事が滞るのは困る。夜にはやる事をやらなければならないからである。文章表現が直接的になってしまったが、㬢澄なので。
しかし、この暑さである。目の前の白い服の男を注意深く観察する。少しくらいならば良いのではないか。襟を緩め、流れる汗を拭く。何も動きはない。肩衣をずらしながら書類を片手に説明する。やはり何も行動は起こさない。ああ、そうだ、この男も俺と同じ考えで、きちんと仕事を終わらせようと思っているのだな。夜の前に。
その時、藍宗主は暑さと前にいる人の動き一つ一つに心を奪われてしまわないように、胸中にて雅正集を唱えていた。四分一〇秒/回(ラジドラより)なので、もう六〇回は越えただろうか。