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    ナンナル

    @nannru122

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    ナンナル

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    ファンタジア。9 🎈☆前提🎪☆

    あと一話で終わったらキリがいいけど、終わらないので、書けるところまで頑張る所存。
    すでにプロローグを書き直したい_:( _ ́ω`):_

    ム幻のセカイでヨ想もできないギ曲をトモに。 9自分の欲求がどれ程大きいかを、再認識させられる。

    『司くん、大好き』
    「っ…分かったから、少し離れろ」
    『嫌かい?』
    「…ぃ、やでは、…ないが……」

    大きなソファーに隣同士で座り、優しく両の手で頬を包まれる。額や鼻先に口付けるルイは、強請るようにオレを見た。そんなルイから視線を逸らし、唇を引き結んだ。
    腹が減ってはなんとやらで食事だけ頂いて帰るつもりでいたのに、何故かこの部屋に留まり続けてしまっている。『食後にすぐ動くのは良くないよ』とルイに止められ、『デザートだけでも』と勧められ、挙げ句の果てには『面白い本があって、ショーの題材に良いと思うんだ』と誘惑される。それがまた面白い話だからたまったものではない。類の様に楽しい演出案を次々挙げてくるルイは、オレの引き止め方をよく知っていた。夢中で話しているうちに、あっという間に時間だけが過ぎていく。
    そうして、オレがルイとの話に夢中になっていれば、不意に顔を寄せて口付けてくるんだ。
    態と唇は避けて、けれど、オレが意識せざるを得ないように声や表情で“好き”を体現しながら。

    『僕が嫌いかい?』
    「………お前は、類ではない、だろ…」
    『僕も類だよ』
    「違う。類は、…オレにこんな事はしない」

    分かっている。このルイは、オレの知っている類ではない。オレが好きになった類ではない。オレが求める類を、セカイが実体化させただけだ。だから、オレを甘やかすのが上手いんだ。オレが類にされたいと思うことを、叶えてくる。そんなルイを、求めたくなる。
    逸らした視線の先で、ルイの手がオレの指に触れた。一瞬躊躇って、そっと指先を掬うようにして握ってくる。離されないよう、徐々に力を入れて握るその様があまりに可愛らしくて、唇を引き結ぶ。
    こういう所がずるい。人な顔に散々キスはしてくるくせに、度々オレを気にして控え目になるのが堪らなく愛おしいんだ。不安げな顔でオレを見ているだろう事が分かってしまって、“大丈夫だから”と甘やかしたくなってしまう。
    ちら、とルイを見上げれば、予想通り眉を下げて困った顔をしている。そんなルイの手をオレの方から握り返し、仕方ないとばかりに苦笑して見せた。

    「嫌いなわけでは無いから、そんな顔をするな」
    『本当かい?』
    「オレは、ルイの事も嫌いにはなれん」
    『…嬉しいよ、司くん』

    握り返した手が、強く握られる。肩に寄せられたルイの頭を反対の手で撫でて、そっと目を瞑った。
    ふわりと香るのは、類と全く同じな、ルイの匂いだ。そのせいで、“類”に求められていると、錯覚させられる。本物の類は、オレを仲間だと信じてくれているのに。寧々の幼馴染で、我らの歌姫を一番大切にする、優しい演出家。オレを見ることは絶対に無いと、そう断言出来る。

    (寧々が、羨ましいな……)

    きっと、本物の類は寧々の前でだけこんな姿を見せるのだろう。オレには絶対に見せない姿を、寧々にだけは…。
    そんな類からの愛を、この偽りのセカイで体現させてまで求めてしまう程、オレの想いは強かったのだな。

    (……虚しいな…)

    そう思うのに、まだこの夢から覚めたくないと、ルイの頭に自分の頭を擦り付けた。

    ―――
    (えむside)

    「どっかーんっ!」

    思いっきり振り下ろしたハンマーを、類くんのそっくりさんがシュシュシューっ、て避けちゃう。全然攻撃が当たらなくて、床がぼこぼこぼこーって穴だらけになっちゃった。
    むむむぅ、と顔を唇を尖らせるあたしのハンマーを、類くんのそっくりさんが蹴る。たったそれだけで、大きなハンマーが部屋の壁まで飛ばされちゃった。何も無くなった手を呆然と見つめるあたしの目の前に、真っ黒の銃が突きつけられる。

    「…ぁ……」

    カチ、と音がして、類くんのそっくりさんが引き金を引いた。パァン、て音がしたと同時に、あたしの体が横から突き飛ばされる。髪を掠めた銃弾が壁に穴を開けて、白い煙をたてた。ドサッ、と床に倒れるあたしを護るように立つ類くんが、刀を振り上げるようにして類くんのそっくりさんに斬り掛かる。でも、もう一人の類くんはとってもとっても動きが早くて、簡単に避けて少し後ろに飛び退いちゃった。

    「大丈夫かい、えむくん」
    「う、うんっ…!」
    「今のうちに、取りに行くといいよ。僕が援護するから」
    「類くん、ありがとう!」

    立ち上がって、飛ばされちゃったハンマーに駆け寄る。柄を持って引っ張ると、壁にハマっちゃって中々抜けない。んんんー!って思いっきり引っ張って、漸くハンマーが壁から抜けた。よし、と意気込んで振り返れば、あたしの横を何かが飛んできた。ダンッ、て大きな音がして、微かに類くんの呻く声が聞こえてくる。
    さっきまで前にいてくれた類くんの背中がどこにもなくて、恐る恐る横へ顔を向けた。壁に背中を預けて座り込む類くんは、頭から血を流して苦しそうなお顔をしてた。

    「類くんっ…!」

    慌てて類くんのそばにしゃがみ込んで、ポケットから飴玉を出す。包みを開いて類くんのお口に入れれば、ゆっくりと傷跡が塞がっていった。類くんの表情が和らいでいくのにホッとして、立ち上がる。
    ハンマーを両手で握って類くんのそっくりさんに向き直れば、もう一人の類くんは、小さな声で『困ったな』って、呟いた。

    『…せっかく司くんの為に部屋を作ったのに、めちゃくちゃになってしまうね』
    「……司くんの為に、作った…?」
    『場所を移そうか』
    「ぇ…」

    ぱちん、と類くんのそっくりさんが指を鳴らす。その瞬間、床が扉みたいにパカって開いて、大きな穴が空いちゃった。あたしと類くんのいる床も無くなって、ふわりと浮遊感に襲われる。

    「えむっ! 類っ!!」
    「寧々ちゃんっ!」

    落ちるまでのその一瞬で見えた寧々ちゃんのお顔は、ビックリしてて、それで、いつもより真っ青だった。司くんと寧々ちゃんのいるベッドの周りは大丈夫みたいで、あたし達だけが真っ暗な穴の中に落ちていく。怖くて泣きそうになるあたしの腕を、類くんはギュッて握っていてくれた。それだけで、怖いのが少しだけ消えちゃった。
    パッ、といきなり目の前が明るくなって、体がふわりとほんの少し浮く。現れた床に足を下ろすと、そこはこのお城のエントランスだった。

    『これで、心置きなく戦えるね?』
    「……今までセーブして戦っていました、とでも言いたげだねぇ」
    「類くんのそっくりさん、とってもとっても余裕だぁ〜…」

    あたし達を見る類くんのそっくりさん、全然お顔が変わらないからちょっと怖いよ〜。
    落ちてきた天井を見上げてみても、もう司くん達のいるお部屋は見えない。寧々ちゃん、大丈夫かな?

    「えむくんっ!」
    「…ほぇ……?」

    類くんの声に前を向けば、目の前に類くんのそっくりさんがいて、思いっきり高く足を上げていた。その足があたしの肩を横から強く蹴って、体がふわりと浮遊感に包まれる。肩の痛みに顔を顰める間も無く、あたしの体がエントランスの階段に打ち付けられた。背中からパキッ、て音がして、体中がズキズキと痛み出す。目の前が霞んで、お口の中がなんだか苦い味でいっぱいになっていく。

    「えむくん…!」
    「っ、…ごほ、…ごほっ、…」
    「大丈夫かい?!」

    駆け寄ってきてくれた類くんが、ポケットから飴玉を取り出してあたしに渡してくれる。咳き込むあたしの口から、ぱたぱたと赤い血が出て、手が震えた。身体中がすっごく痛くて、怖い。震える手で飴玉の包みを開くと、隣であたしの背を撫でてくれていた類くんが突然床に倒れちゃった。
    「ぐっ、…」って呻く類くんの声に、目の前が真っ暗になる。類くんの背中を踏んでる足は、誰の足?

    『気を抜いてはいけないよ』

    視線を上げた先で、銃の引き金を引く類くんのそっくりさんがいて、咄嗟に腕を伸ばした。

    「だめっ…!!」

    でも、あたしの手が届く前に、大きなパァン、て音が辺りに響き渡る。

    『さようなら、僕』

    類くんからは聞いたことのない、無機質な、なんの感情も無い声に、涙が溢れ落ちた。

    ―――
    (司side)

    『おいでよ、司くん』
    「…い、嫌だ……」
    『何故だい? 少しくらいなら、良いでしょう?』
    「……っ…」

    パッ、と両手を広げるルイは、オレを腕の中へと誘ってくる。無邪気に笑うその顔に、絆されそうになる気持ちを必死に飲み込んだ。「やはり…」と、言いかけて、口を噤む。駄目だ、と続けるつもりだった。だが、オレの手をそっと掴むルイが寂しそうな顔を向けてくるから、言えなくなってしまった。きゅ、と唇を引き結んで、控え目に掴まれる手を握り返す。
    ちら、とルイを見れば、たったそれだけでも嬉しそうな顔をするんだ。そんな顔を見てしまったら、もう“駄目だ”などとは言えなくなる。

    『司くん…?』

    数歩分の距離を恐る恐る縮めて、触れるギリギリのところで止まる。じわりと顔に熱が集まり、心臓の鼓動が早まる、こんな気持ちになるのも、こいつが類にそっくりだからだ。類に似ているから、駄目だと分かっているのに拒みきれない。何でもしてやりたいと思ってしまう。
    黙ったまま動けずにいれば、握る手とは反対の手が肩に触れる。びくっ、と体を固くさせるオレの耳元で、『良いのかい?』とルイが問いかけてきた。
    こくん、と小さく頷いて返せば、握る手が離され力強く抱き締められた。

    『ありがとう、司くん』
    「っ、…る、ルイ、少し苦しいんだがっ…!」
    『ぁ、すまないね、感極まってしまって…』
    「……いや、まぁ、…」

    すぐに力を抜いてくれたルイが、眉尻を下げてオレの顔色を伺ってくる。そんなルイから顔を逸らし、片手で胸元を押さえた。
    心臓の鼓動は、変わらず早い。前に類と勘違いしていたルイから告白された時のようだ。苦しい程のドキドキという鼓動が、煩い。それに、胸の奥がなんだか熱くて変だ。

    (類ではないと、分かっているのに…)

    分かっているのに、嬉しいと思ってしまう。類に抱き締められているかのようで、多幸感で胸がいっぱいになる。違うと、分かっているのに。類がこんな事を望むはずがないと知っているのに。それなのに、ルイに求められると、類に求められたように錯覚させられる。
    いつまでもこのセカイにいられるはずもない。後戻り出来なくなる前に、離れなければならん。分かっているのだが、まだ、離れたくない。

    『司くん、好きだよ』
    「っ……」
    『大好き。ずっと、一緒にいよう』
    「……ち、がう…っ、…お前はっ…」

    “類”ではないから。
    突き飛ばすつもりで伸ばした腕は、ルイの背に回って強く抱き締め返していた。優しい声音で、そんな事を言うな。類の声で、言わないでくれ。信じてしまいたくなる。受け入れてしまいたくなる。“好きだ”と、返してしまいそうになるではないか。
    じわりと目頭が熱くなって、慌ててルイの肩口に顔を押し付ける。ルイの服へ擦り付けるようにして涙を拭えば、頭に重みが加わった。きっと、ルイがオレの頭に額を押し付けたのだろう。これ以上縮まらないオレとの距離を埋めようと、ルイが少し強くオレを抱き締める。苦しくはない程度に、けれど、離れたくないと言わんばかりに。それがまた堪らなく嬉しくなるのは、ルイが“類”にそっくりだからだ。
    絶対に、そうだ。

    (でなければ、戻れなくなる…)

    『司くん』とオレを呼ぶルイの声はどこまでも優しくて、そんなルイの声を聞きたくなくて、「黙ってくれ」と、小さな声で懇願した。

    ―――
    (類side)

    「っ…」
    『………へぇ、この距離で避けるんだ』
    「類くんを離してっ――!!」
    『…おっと……』

    ギリギリの所で頭を横へズラして弾を避けた僕に、もう一人の僕は表情一つ変えずに感情の籠らない声でそう呟いた。すかさず えむくんがハンマーを横一直線に振り切って攻撃をしてくれる。それを難なく避けたもう一人の僕は、アクロバットな動きで距離をとると、考えるようにその手を黒いマスク越しに口元へ当てた。

    「今度はやられないからねっ!」
    「……」

    ふん、ふん、と意気込む えむくんをちら、と見てから、刀の柄を握り直す。
    僕を じっと見つめながら考える素振りをしている彼は、一切感情が読み取れない。怒っているような、殺気のようなものは感じるけれど、それ以外はとても無機質だ。驚いたような言葉を発した時も、表情は変わらなかった。僕も感情が分かりづらいと言われた事はあるけれど、あそこまでのポーカーフェイスは出来ない。やはり、僕と彼は違うのだろうか。

    (何より、司くんに対しての執着が強過ぎる…)

    戦いの最中も、時折上階の様子を気にしているようだった。それでも、一切隙は無いし、攻撃は一度も通っていない。遠距離戦かと思えば、先程のように至近距離からの攻撃もしかけてくる。
    えむくん並、いや、それ以上の身体能力で距離を詰めてくるから、やりづらい。攻撃の予測すら難しい。自分が相手だというのに、正直お手上げだ。
    どう切り込むか、と思案すれば、隣に立つえむくんが両手を思いっきり高く突き上げた。

    「あたしは、司くんがだーいすきぃーっ!!」
    「…ぇ、えむくん…?」
    「類くんも! 類くんも司くん大好きって言わないと!」
    「……ぁ、…うん…」

    突然司くんに告白をしだしたえむくんに、思わず目を瞬く。そんな彼女は、スッキリしたような顔で僕を見ると、笑顔で僕へ手を差し出した。彼女の言葉に、数秒固まってから はた、と思い至る。前に話していた、必勝法の事だろうね。
    物は試しと言うし、僕も試してみようかな。まぁ、えむくんの様な想いではないから、効果があるかは分からないけれど…。
    試しにと口を開きかけた時、少し離れたところから笑う声が聞こえてきた。

    「……何がおかしいんだい?」
    『ふふ。いや、微笑ましいと思ってね』
    「類くんのそっくりさん、何で笑ってるの…?」

    先程まで表情一つ変えなかったもう一人の僕がくすくすと笑う姿に、ぞわりと背が粟立つ。何故だろうか、先程よりもずっと、空気が重たくなった気がする。
    くるりと銃を手の内で回転させるもう一人の僕の手に、二丁の銃が握られる。一瞬で増えた敵の武器に、反射的に刀を構えた。パァンッ、と発砲する音と同時に壁に銃弾が当たり、突然床が揺れだした。

    「わわわっ…?!」

    えむくんが階段の手すりに掴まって振動に耐える。僕も足に力を入れてなんとか体勢を保ち、もう一人の僕を注視した。口元は見えないけれど、細められた彼の目は確かに笑っているように見えた。

    『そんな幼子の様な愛で僕に勝とうと頑張る姿が、実に微笑ましいよ』

    ゴゴン、ガン、ドゴン、と聞き慣れない音が少しづつ大きくなっていく。この城が揺れている音なのか、それとも何かが倒れる音か。次第に大きくなる音に耳を傾けていれば、もう一人の僕が先程とは違う方の銃を上の階の天井に向けて放った。ワイヤーのようなものがそこから伸び、天井に引っかかる。そうして彼は、にこりと笑うと僕らに手を振った。
    ワイヤーがゆっくりと巻き取られ、彼の体が浮上していく。そこで漸く、音の正体の予想がついた。

    「えむくん、上にっ…!」
    「ほぇ…?」

    バッ、と階段の上へ顔を向けるも一足遅く、上階から大きな丸い岩がゴドン、と音を立てて転がってくる。僕の身長よりも大きな岩が真っ直ぐに僕らへ向かってくるのを見て、えむくんの腕を引く。フィクションの世界でしか見ないような大岩に、感心させられる。こんなにも立派な岩がショーで用意出来れば、どれ程臨場感が出せる事か。容易くやってのけてしまうこのセカイが羨ましいよ。
    階段の上に逃げる事は出来そうにないから、えむくんを抱えて正面玄関の方へ向かって駆け出した。ゴドン、ガゴン、ゴン、ゴロゴロ…と音がどんどん近付いてくる。棚や物陰程度では後ろへ隠れても押し潰されるだろうね。

    「る、るるるるいくんっ、どんどん近付いて来てるよぉー?!」
    「っ、落ちないようにしっかり掴まっていておくれよ、えむくん」
    「うんっ…!」

    ぎゅ、と僕の言葉通りにしっかりくっついてくれる えむくんに心の中で感謝して、エントランスの中を見回す。階段は左右に備え付けられているから、反対側を使えば上へ上がれるだろう。けれど、片側からしか岩が来ないところを見ると、反対側を態と逃げ道として用意されているかのようだ。僕なら、そちらに別の罠を仕掛けるだろうね。

    (それなら、逃げずにあの岩をどうにかした方が良いのだけど…)

    正面玄関の前で一度立ち止まり、大岩の方へ体を向ける。ゴロゴロと大きな音を立てて向かってくるそれをギリギリまで引き付け、ぶつかる前に左へ全力で駆け出した。真っ直ぐ転がるのなら、これで正面玄関にぶつかって止まるはずだ。ドゴンッ、と大きな音がして、大岩が正面玄関にぶつかる。ぱらぱら、と壁が崩れ、もくもくと白い煙が立ち上がった。えむくんを抱えたまま、じっ、と白い煙を見つめる僕に、「止まったの…?」とえむくんが問いかけてくる。
    けれど、ゴトン、と微かに音が聞こえ、僕は反射的に駆け出した。ゴン、ガン、と何かに当たる音がした後、ゴロゴロと転がる音が聞こえてくる。そうして、白い煙の中から大岩が再びこちらに向かって転がり出した。

    「まだのようだねぇ」
    「ひぇええ〜〜…!?」

    やはり、追跡機能があるようだ。こうなっては壊す他に方法は無いだろうね。けれど、刀であれを壊すのは無理がある。周りを削る位は出来ると思うけど、物語のように一刀両断出来るかと問われれば無理だろうね。可能性があるとしたら えむくんのハンマーだけど…。

    「えむくん、あの大岩は砕けそうかい?」
    「や、やってみる…!」
    「それなら、もう一度あの回転を止めようか」

    回転中は打撃が通りにくい。一度回転を止めたところへ えむくんがハンマーで攻撃する方が効果があるだろう。先程のように壁にぶつけて一瞬でも回転を止められればいい。
    抱える えむくんに目を向ければ、彼女は力強く頷いてくれた。僕の考えを、察してくれたのだろうね。ちら、と後ろを確認し、大岩との距離が少しあるのを確かめてから、えむくんを下ろした。

    「僕が引きつけるから、安全なところにいておくれ」
    「うん!」
    「頼んだよ、えむくん」

    それだけ伝えて、彼女に背を向ける。えむくんは大岩が転がる直線上から外れ、ハンマーを出して準備してくれている。僕も壁際まで行き、大岩の方へ向き直った。徐々に迫ってくる大岩をギリギリまで引き付けて、先程と同じように寸前で横へ避ける。ドゴンッ、と壁にぶつかる音を聞いて、「えむくんっ!」と大きな声で合図を送った。たたたっ、と勢いよく駆け寄る足音を聞きながら、両手を組んでほんの少し背を丸め前屈みに待機する。立ち込める白い煙の中、前方から現れたえむくんが僕目がかけて地面を蹴り高く飛ぶ。

    「類くんっ!」
    「任せたよ、えむくんっ!」

    組んだ手にえむくんの足がかかり、僕は思いっきり彼女を高く飛ばした。通常時でも身体能力の高い えむくんは、思った通り大岩よりも高く飛ぶことが出来た。

    「いっくよぉおー! わんだほーい、アターック!!」

    振り上げたハンマーが、勢いよく振り下ろされる。ドゴンッ、と雷が落ちたかのような大きな音がエントランスに響き、大岩にピシッ、と亀裂が入る。
    「よいしょーっ!!」という元気な掛け声と共に二撃目が入る。ピシピシ、と亀裂が大きくなるのを、強く手を握って見守った。
    ぐるん、と空中で体を捻ったえむくんは、打ち付けた際の反動を利用してもう一度ハンマーを振り上げる。

    「これで、さいごーっ!!」

    ガンッ、とハンマーが大岩に打ち付けられ、大岩が完全に砕けた。破片が床にぱらぱらと落ちて、三等分程に砕けた大岩は床の上に転がる。たん、と床に綺麗に着地した えむくんは、ぴょん、とジャンプをすると僕に笑顔を向けてくれた。

    「やったよ、類くん!」
    「…さすが、えむくんだね」
    「えへへ、類くんのお陰だよ」

    彼女に合わせて出した手に、ぱん、と彼女がハイタッチをしてくれる。えむくんがいなければ、僕にはこの大岩は壊せなかった。本当に、頼りになるよ。
    にこにこと笑顔のえむくんから顔を上げる。と、天井に避難していたもう一人の僕がエントランスに降りてきた。

    『面倒だなぁ』
    「それなら、そろそろ僕らの座長を返してくれないかい?」
    『それこそ無理な相談というものだろう? 司くんは、このセカイでずっと僕と一緒にいるのだから』
    「……」

    相変わらず無機質な表情の僕が、“司くん”の名を呼ぶ時だけは優しい顔をしたように見えた。面倒だと言いながら、彼の為にこの戦闘は続けるつもりのようだ。
    一体何故ここまで“司くん”に執着するのだろうか。セカイの創造主だから? いや、彼の執着は、司くんを見守るミクくん達のような想いとも違う気がする。それに、もう一人の僕が“司くん”の話をする度に、胸の奥が何故かもやもやとする気さえする。これは、何なのだろうか。苛立ちにも似た、焦燥感の様な…。
    顔を顰めて自分の中のよく分からない感情に首を傾ぐと、もう一人の僕が深い溜息を吐くのが聞こえた。

    『君がいるせいで、あと少しだというのに彼が頷いてくれないんだ』

    ボソッ、と彼が呟いた言葉は、ほとんど聞こえなかった。けれど、一瞬僕に向けられた彼の瞳には、強い怒りの感情が滲んでいるように見えた。
    銃口がこちらに向けられ、えむくんの体に緊張で力が入る。僕も、刀の柄を強く握りしめて身構えた。

    『誰にも譲らない。司くんの一番は、“僕”だけだ』

    パァン、という発砲の音を合図に、僕もえむくんも同時に駆け出した。

    ―――
    (司side)

    「待て待て待てっ…! それだけは駄目だっ!!」
    『どうしても、駄目かい?』
    「当たり前だっ…! いくらルイがオレを好きだと言っても…!」
    『唇にはしないよ。他の所で我慢するから、ね?』

    ずい、と顔を寄せられ、思わず息を飲む。
    二人用のソファーの上では、逃げ道がない。態と逃げられないようオレを挟むようにソファーの背もたれに手をつかれる。そのせいで余計に顔の距離が近くなってしまい、気恥しさに ぎゅ、と目を瞑った。ずるい。こういう所がずるい。オレが“類”の顔に弱いと知っていて、こんな風に迫るのはずるい。

    「そ、そういうのは、交際してからするものだろうっ…?!」
    『しようよ。僕は君が好きだよ?』
    「だからっ、オレは類をっ…!」
    『僕も“類”だよ。僕なら君を第一に優先するし、余所見もしないと誓うから、僕にしよう?』
    「っ……」

    優しい声音で迫るルイに、言葉を飲み込む。
    類と同じ顔で、類と同じ声で、そういう事を言わないでくれ。頷きそうになる。“好き”だと言われると、胸が勝手に苦しくなる。オレも好きだと、言いたくなる。
    片手を掬うようにとられ、ルイの前髪が頬に触れた。びくっ、と肩を跳ねさせると、頬を生暖かい空気が掠める。

    『嫌なら、逃げていいよ』
    「っ…、ず、るい、だろ……」
    『うん。僕は狡い事をしてでも、君に意識して欲しいんだ』
    「…んっ……」

    甘やかす時のような声音で、ルイがオレの欲しい言葉を次々に紡いでくる。頬に触れた柔らかい感触に、心臓が飛び出しそうなほどドキドキしてしまう。駄目だと言ったのに、こいつは聞かない。オレが本当に嫌がったりしないと、知っていてやっているんだ。そんな策士な所ですら、“類らしい”と思わされる。
    ちゅ、ちゅ、と聞こえるリップ音に、どんどん顔が熱くなっていく。耐え切れずに両手でルイの口を塞げば、不服そうに眉が下げられた。

    『嫌かい?』
    「…そ、うでは、なく……、少し、待ってくれ…」
    『上手に待てたら、口にしても良いかい?』
    「それはダメだっ…!」

    心臓が破裂してしまいそうで、これ以上は耐えきれない。少し心を落ち着けたかっただけなのだが、オレの言葉を聞いて嬉しそうに笑ったルイは、更にオレをドキドキさせるような事を言ってのけてくる。それを“嫌だ”と思えない自分に、唇をぎゅ、と引き結ぶ。
    オレが慌てる様を見て、くすくすと笑うルイは子どものようでなんとも可愛らしい。たまに見せる類のその表情も、好きだ。例えそれがルイであっても。

    (……こんな事をいくらしても、…虚しいだけだと、分かっているのに…)

    本物の類ではない。創りものの、“オレが望む類”だ。分かっているのに、拒みきれない。決してオレを好きにならない類からの愛を、偽りのルイから与えられて喜んでしまっている。
    駄目だと分かっている。情けないとも思う。
    それでも、もう少しだけ、“オレを見てほしい”と、そう願ってしまった。
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