Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ナンナル

    @nannru122

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 💜 💛 🌸
    POIPOI 75

    ナンナル

    ☆quiet follow

    メイテイ!×× 3

    間がとてもあいてしまっていて申し訳ないです。ゆるーっとまだ書きますので、お時間ある時にでもお付き合いください(*' ')*, ,)
    半年以内に終わるかはチキチキレース:( •ᾥ•):

    ※バイトさんはバイトさん( ˇωˇ )

    メイテイ!×× 3(司side)

    「と、いう事なんだが…」
    「つまり、司くんは類くんとギュギュギユー、バババン、ゴゴーッ! ってしたいんだね!」
    「さっぱり分からん」

    真剣に話していたというのに、えむのせいで肩の力が抜けてしまった。オレの言いたいことは、本当に伝わっているのだろうか。じと、とした目でえむを見ると、えむはにこにこと笑う。

    「それなら、類くんにぎゅーってすればいいんじゃないかな?」
    「そうは言うが、相手はあの神代さんだぞ…」
    「ほぇ?」

    不思議そうに首を傾げる えむに、小さく息を吐く。
    神代類と言えば、知らない人はいないと言われる程有名な若手俳優だ。かっこよくて頭も良くて優しい、欠点のない人とも言える。野菜が苦手だという事ですら、普段とは違う一面で可愛らしい。それなのに、オレが作った料理は野菜が混ざっていても食べれる、と笑ってくれるのだ。
    間違いなく恋人として完璧過ぎる人だと思う。同棲の生活費も殆ど神代さんが出してくれているし、仕事が早く終われば態々迎えに来てくれて、ちょっとした事で連絡もしてくれて、大事にされているのがすごく伝わってくる。人気俳優が恋人だと、モテるし浮気されたり飽きられたりするんじゃないかと不安になりそうなものだが、これだけ大事にされているのが分かってしまっては、そんな迷いも浮かんでこない。オレの事を最優先に考えてくれる神代さんだからこそ、そんな神代さんに、これ以上我儘が言えるわけが無いだろう。
    ただ、…ただほんの少しだけ……、ほんの少しだけでいいから…。

    (………大人の、恋人らしいことが、してみたい、と…)

    じわぁ、と顔が熱くなるのが自分でも分かる。かなりはしたない話かもしれないが、オレも男である。そして、神代さんは大人の男性だ。かっこいい神代さんを相手に、意識しないはずがない。
    神代さんと同棲を始めて四ヶ月である。いや、五ヶ月になろうとしている。ならば、少しくらい進展してもおかしくないだろう。それに、神代さんからお誘いだってされているのだ。
    理由を付けて逃げてしまっているが、出来れば神代さんの期待には応えたいと思っている。

    「だが、やはり勇気が出ないというか、尻込みしてしまうというか…」
    「…なんの話し?」
    「あ、寧々さん!」

    後ろから声をかけられ振り返ると、寧々さんがこちらに近寄ってくる。パッ、と顔を上げた えむは、寧々さんを見て嬉しそうに笑う。最近漸く名前呼びを許されたのだと嬉しそうに言っていたが、どうやら本当らしい。そんな寧々さんの後ろを見てみるが、神代さんの姿はなかった。
    オレが周りを見ていた事に気付いた寧々さんが、「類なら向こうで話をしてるよ」と教えてくれる。

    「ぁ、いえ…」
    「類が居た方がいい話? 呼んでこようか?」
    「大丈夫ですっ! 神代さんには、話づらくて…」

    もごもごと口篭るオレに、寧々さんが首を傾げた。神代さんに言えば、喜んでくれるとは思う。だが、こればかりは心の準備が必要というか…。
    むぐぅ、と眉を顰めるオレの横から、えむがピッ、と手を挙げて身を乗り出した。

    「司くん、類くんとお風呂に入りたいんだって!」
    「なっ、えむっ…?!」
    「お風呂…?」
    「ぁ、いや、違っ、…わ、ない、ですが…」

    えむの言葉に、寧々さんがこちらを見る。あっさりとバラされてしまって、慌てて両手を顔の横で振った。が、隠し通せる気がせず、両手で顔を隠す。
    もごもごと経緯を話すと、寧々さんはきょとんとした顔をした後、小さく息を吐いた。

    「つまり、類と恋人らしい事がしたいけど、恥ずかしくて二人きりになるのは戸惑う、と」
    「………………ぉ、お風呂のお誘いは嬉しいですが、家のお風呂は、まだハードルが高い、ので…」
    「よくわかんないけど、類とお風呂に入りたいなら、温泉でも行く?」
    「………え…」

    目を丸くさせるオレの隣で、えむが嬉しそうに「行きたいです!」と返事をしている。それを聞いた寧々さんは少し眉を下げてじとりとえむを見る。「なんであんたが先に返事してんのよ」と言いながらも、寧々さんもどこか嬉しそうな顔をしている気がした。
    そんなやり取りを呆気と見ていたオレに、寧々さんがもう一度問いかけてくれる。

    「行く?」
    「………だが、神代さんは、忙しいって…」
    「丁度温泉街の方で撮影があるから、他の仕事を調整すれば一日くらい休めるでしょ」
    「い、行きますっ…!」

    こくこく、と大きく頷いて返事を返せば、寧々さんがふわりと笑った。「なら、決まり」とすぐにスマホを開いてどこかへ電話をかけ始めている。その横顔は、とてもかっこよかった。えむがオレの隣でぴょんぴょんと跳ねる。
    なんというか、あっという間に四人でのお泊まりが決まってしまった。

    「おや、なんだかとても嬉しそうだね、えむくん」

    ピクッ、と、後ろから聞こえた声に肩が跳ねる。
    えむがパッとその表情をいつもの笑顔に変えて、ぶんぶんと手を振るのが視界の隅に映った。ゆっくり息を吸い込んで、細く吐く。
    くる、と振り返れば、予想通り、神代さんがこちらに向かってくるのが見えた。

    「あ、類くん! 寧々さんがね、一緒に温泉に行こーって!」
    「……一緒にって、二人でかい?」
    「ううん。類くんと司くんと四人で!」
    「え」

    えむの言葉に、神代さんが驚いた様な顔をする。目を丸くさせた神代さんが寧々さんの方を見ると、寧々さんが小さく息を吐いた。「たまにはいいでしょ」という言葉に、神代さんが呆気としている。
    それもそうだろう。神代さんは普段から仕事で忙しく、更に人気の俳優であるため顔がすぐにバレてしまうという理由から、温泉や旅行について寧々さんに断られてきたのだから。それがあっさり許可が出たのだから驚くのも無理は無い。
    これも、えむのお陰だろうか…。

    「ほら、あの撮影、まずは出だしの旅館から撮るって言ってたでしょ」
    「そうだけど…」
    「撮影場所は有名な温泉街だし、類がスケジュールを少し詰めて、更に撮影も早く終わらせれば、一日くらい休みも取れるよ」

    ぱらぱらとスケジュール帳を捲る寧々さんの手元を覗き込んだ神代さんが、ふむ、と口元に手を当てて考える。「分かった」という返事が聞こえて、寧々さんがパタン、とスケジュール帳を閉じた。「そういう事だから」とこちらに振り返った寧々さんは、どこか楽しそうだ。オレとえむのスマホにメッセージで日にちを手早く送ってくれた。なんとも仕事の早い人だ。

    「か、神代さんは大丈夫なんですか…? ただでさえ忙しいのに…」
    「大丈夫。これくらいなら問題ないよ」
    「……………は、ぃ…」

    ぽん、と頭を撫でる神代さんは、優しい声音でそう言ってくれた。こういうところが、神代さんはずるい。オレの我儘でまた仕事を増やして、オレの為に時間を作ろうとしてくれる。それなのに、オレが気にしない様に笑って返してくれるんだ。こういうところが、神代さんはかっこよくて、ずるい。
    小さく頷いたオレを見て、神代さんが手を離した。

    「それでは、久しぶりに天馬くんの練習を見させてもらおうかな」
    「っ…、はいっ!」
    「天馬くんが大分成長しているとキャストの人達に聞いたからね。楽しみだよ」
    「ぅ、それは、とても緊張するのですが…」

    にこにこと笑顔の神代さんに、一歩後退る。まだまだ神代さんと並ぶには拙いのに、そう言われてしまうと緊張してしまう。ただでさえ、目標としている神代さんに見られるのだから、あまり期待値を上げないでほしい。
    隣にいるえむの方をちら、と見ると、キラキラした目でオレの方を見ていた。やる気に満ちたその瞳に、ゆっくり息を吐く。
    えむも、久しぶりに寧々さんと練習が出来るからはしゃいでいるのだろうな。

    「よしっ! 練習の成果を見せるぞ、えむ!」
    「おーっ!」

    二人で拳を作って高く空へ突き出し、気合を入れる。
    ほとんど練習をしていないはずの神代さんと寧々さんの演技はとても素晴らしく、飲み込まれそうになりながらも二人で何とか最後まで食らいついた。その後少し個人指導も受けてまた練習をし、気付いた時には閉園時間間際となり慌てて片付けを行うこととなった。
    練習後は神代さんとご飯を食べに行って、いつもより少し遅く家に帰った。

    ―――
    (類side)

    「おはようございますっ!」
    「おはよ。忘れ物はない?」
    「ないです!」
    「なら乗って。類、後ろ開けて荷物乗せといて」

    寧々の言葉に軽く返事を返して、天馬くんから鞄を受け取った。一泊分の荷物なのでそこまで重くない。それを後部座席のさらに後ろにある荷台に乗せて、僕も車に乗り込んだ。ピッ、と背筋を伸ばす天馬くんは、緊張している様だ。寧々の車に乗ることはあまりないから仕方ないだろうけど、その姿は少し可愛らしい。ぎゅ、と彼の方へ詰めて座れば、驚いた様に目を丸くさせて僕の方に顔が向けられる。
    はく、はく、と口を動かす彼の手を握って、更に体を天馬くんの方へ寄せた。

    「天馬くんと旅行が出来るなんて、嬉しいね」
    「…ぉ、オレも、楽しみ、です……」
    「撮影さえなければ、天馬くんと二日間ずっと一緒にいられたのだけどね」
    「その撮影がなかったら旅行なんて許可しなかったんだから、ちゃんと仕事しなさいよね」

    僕との距離が近くなった事で、更に肩に力を入れて固くなる天馬くんが、とても可愛らしい。ぎゅ、と繋いだ手に力を入れてしっかり握り、彼の頭に僕のを預ける形で寄りかかる。じわりと頬を赤くさせる天馬くんが、少し俯き勝ちにへにゃりと笑った。それがまた可愛らしくて、抱き締めたくなる衝動を抑え込む。
    そんな僕を、じとり、とバックミラー越しに寧々が睨む。

    「わたし達もいるって、忘れないでよ」
    「ふふ、とても楽しい旅行になりそうだね」

    はぁ、と一つ溜息を吐いた寧々が、車のエンジンをかける。ゆっくり動き出すと、天馬くんが窓の外へ視線を向けた。マンションの地下駐車場を出て、道路を走り始める。
    えむくんの家までは、ここから近い。あっという間に着いた彼女の家の玄関からひょこりと顔が覗いて、車を見つけると大きく手を振られた。寧々が車を止めると、嬉しそうにえむくんが駆け寄ってくる。

    「おはようっ!寧々さん!司くん!類くん!」
    「おはよ。荷物は後ろに乗せて」
    「はーいっ!」

    後部座席のドアが開いて、えむくんが中に荷物を置く。そのまま助手席の方へ座るのを目で見送って、彼女の荷物をもう少し中の方へ引き寄せた。シートベルトがカチッ、と音を鳴らす。もう一度エンジンがかかり、車が動き出した。楽しそうに寧々に話しかけるえむくんの言葉を流しながら、寧々は器用にナビゲーションを片手で操作する。目的地が設定されたことを知らせる機械アナウンスが車内に響いて、えむくんがナビゲーションを覗き込んだ。
    ちら、と隣を見ると、天馬くんは赤い顔で窓の外を見ている。

    「そういえば、何故急に旅行なんて話になったんだい?」

    僕の言葉に、ビクッ、と天馬くんが肩を跳ねさせた。窓の外へ向けられた顔は、こちらを向かない。バックミラー越しに僕を見た寧々が、「丁度いいでしょ」と返事を返した。

    「二人とも練習頑張ってるみたいだし、上達もしてる。それなら、類の撮影を見学すれば、いい勉強になるだろうと思ったの」
    「あぁ、それで態々撮影の日に合わせたんだね」
    「それに、司が類の撮影を見たいって言ってたからね」
    「んぇっ…?!」

    寧々が急に名前を呼んだ事に驚いた天馬くんが、バッ、ト顔を上げる。はく、はく、と口を動かしながら何か言いたそうにして、戸惑う様に彼は頷いた。
    小さな声で、「そう、です…」と返す天馬くんは、赤い顔を片手で隠してしまう。僕が撮影する所が見たいと、彼が直接寧々に言った、ということか。天馬くんにしては、珍しいお願いだ。彼は、仕事の邪魔になるから、と逆に遠慮してしまう性格だろう。そんな彼が、親しくなったとはいえ、寧々にお願いするだろうか?もしかしたら、寧々が半ば強引に決めたのでは…?

    「寧々、あまり天馬くんを困らせる様なことはしないでおくれよ」
    「類にだけは言われたくないんだけど」
    「ぁ、あの、オレが言い出した事ですからっ…!」
    「ほら、司もそう言ってるでしょ」

    僕と寧々の会話を聞いていた天馬くんが、慌てて間に入る。僕らが喧嘩していると思ったのだろうか。喧嘩しているわけではないのだけど。
    困った様に眉を下げる天馬くんは、僕と目が合うと顔を下へ逸らしてしまった。どこか緊張した様子の天馬くんの肩へ手を回して引き寄せると、彼は目を丸くさせて顔を上げた。

    「君が見たいと言ってくれるならいつでも見せてあげるけど、出来れば、先に僕を頼ってほしいな」
    「っ、…そ、そう、ですよね、すみません…」

    視線を合わせてそう言えば、天馬くんの顔がじわりと赤く染まっていく。また肩に力が入る彼の体を引き寄せたまま、反対の手で彼の手を握る。ビクッ、と肩を跳ねさせた天馬くんは更に緊張してしまったようだ。そんな彼には悪いけれど、せっかく天馬くんに触れられるのだから、存分に触れていたい。
    僕の肩に彼の頭を預けさせ、そっと彼の名を呼ぶ。

    「ふふ、天馬くんが見ているなら、かっこ悪いところは見せられないね」
    「………神代さんは、いつも、かっこいい、です…」
    「ありがとう」

    にこ、と笑って返せば、彼はへにゃりと表情を崩した。それがとても可愛らしくて、ぎゅ、と握る手に力を入れる。ここに寧々とえむくんがいなければ、キスだけはしたかもしれない。触れたい衝動をぐっと抑え込んで、大きく息を吐く。ほんの少しの肩の重みが心地よい。ふわふわの髪が頬に触れて少し擽ったいけれど、それもいい。
    これは、旅館で手を出さないかの方が心配になるかな。

    (……寝る部屋は自然と一緒になるだろうし、今みたいにさらっと可愛い事を言われてしまっては、我慢出来る気がしないのだけど…)

    普段は寝室が別だから我慢出来ていた事だ。いざ天馬くんと並んで寝る、なんて状況になって手を出さずにいられる自信が無い。といっても、彼の事だから、押し倒したとしても照れる程度で危機意識は無さそうだけれども。むしろ、キスをされるのだと思った彼に目を瞑って待機でもされたら、今度こそ理性が飛ぶと思う。怖い思いをさせたくは無いから、彼がきちんと理解してからことに進みたいけれど、それがいつになるのか…。
    む、と眉を寄せて今夜をどう乗り越えるか考えていれば、繋いだ手がぎゅ、と握り返される。ちら、と隣を見ると、僕に頭を預けたまま赤い顔でぼんやりと前を見る天馬くんは、特にこちらを気にした様子もない。にぎ、にぎ、と手の感触を確かめる様に、彼は何度も僕の手を握っている。

    (………か、わいい…)

    恐らく無意識だろうその行動が可愛らしくて、胸の奥がきゅぅ、と音を鳴らした。
    気付かないふりをする為に視線を逸らすと、バックミラー越しに寧々と目が合う。とても冷めた目をされ、無言で顔を逸らした。

    ―――
    (司side)

    「とってもかっこよかったです、神代さんっ…!」
    「……………司…」
    「いつもより少し低い声とか、歩き方とか、お湯に触れる時の仕草とかも綺麗でしたし、何より咄嗟に駆け出す時の真剣な顔がっ…!!」
    「…ちょっと、司…!」
    「それから、ヒロインに手を差し伸べる時の片膝つくシーンは、まるで絵本の王子様の様な風格があって…!」
    「ちょっと類、照れてないで止めなさいよ。全然止まらないんだけど」

    まだ胸がドキドキしていて、気持ちが全然落ち着かない。寧々さんに許可を得て見学させてもらった神代さんの撮影シーンは、予想以上に素晴らしかった。高校生の時に見たドラマの感動をもう一度体験しているかのようだ。否、それ以上の感動かもしれん。大学で習った事も頭に浮かべて見たからかもしれんが、神代さんの演技はまるでお手本の様だ。いつの間にか魅入ってしまっていて、あっという間に撮影が終了してしまっていた。正直、もっと見ていたかった。出来ることなら、最後まで見学させてほしいくらいだ。
    思い付く限りの感想を述べていれば、ぽんぽん、と頭に大きな手が置かれる。顔を上げると、神代さんがほんの少し眉を下げて笑っていた。

    「天馬くんは、楽しめたかい?」
    「はいっ!とても勉強になりました!!」
    「そう。それは良かったよ」

    神代さんからの問いに、ピッ、と手を額に当てて背を伸ばす。まだまだ言い足りなくてうずうずするオレの髪を撫でながら、神代さんが珍しく顔を少し逸らした。耳が赤くなっているのがちらりと見えて、目を瞬く。神代さんでも照れることがあるのだな。俳優である神代さんは、緊張もあまりしない人だと思っていた。
    じっ、と神代さんを見上げていれば、オレの方へまた顔が向けられて、嬉しそうにへにゃりと神代さんの口元が緩む。

    「惚れ直してくれたかい?」
    「はいっ!大好きですっ!」
    「…ぁ―、……恋人として、だったのだけどね」
    「…………………んぇ…?」

    すり、と人差し指の背で頬を撫でられ、目が点になる。オレをじっと見つめる神代さんの、甘やかす様な月色の瞳に、数秒遅れて思考が追いつき、ぶわりと顔に熱が集まった。火が出てしまいそうな程熱い顔を見た神代さんが、いつものようにふわりとその表情を緩める。する、と髪が長い指先に絡められ、そっと反対の頬に唇が寄せられた。
    「天馬くん」と甘い声音で名を呼ばれ、ビクッ、と肩が跳ね上がる。

    「惚れ直してくれたのかい?」
    「……ぁ、…ぇっ…」
    「ふふ、“熱烈な愛”をありがとう」
    「ぁ、ぁの…、それは……」
    「そこまでやれとは言ってないでしょ」

    耳元で囁くように言われた言葉に、ぶわわわっ、と更に顔が熱くなっていく。反対の耳を塞ぐ様に掌が添えられ、肩に力が入った。どくん、どくん、と大きく鼓動する心臓の音に目を強く瞑ると、ほんの少し頬に柔らかいものが触れた気がして、ビクッ、とまた肩が跳ね上がる。
    その瞬間、すぱーん、と良い音が辺りに響いて、寧々さんが神代さんの頭を丸めた台本で叩いた。じとりと寧々さんが神代さんを見下ろしているのが見えて、慌てて腕で顔を隠して神代さんから数歩分の距離を取る。

    (も、もしや、オレは、とんでもない事を言ってしまったのでは…?!)

    寧々さんの文句を言う声が傍から聞こえるが、上手く入ってこない。自分が何を言ったのかも、イマイチ思い出せなかった。あっちへ、こっちへと視線が彷徨う。もごもごと口を動かすが全く言葉が出てこなくて、顔を腕で覆ったまま俯いた。
    ぽん、ともう一度頭を撫でられて、恐る恐る腕の下から覗くと、神代さんがふわりと優しく笑う。

    「からかってしまって、すまなかったね」
    「…………ぃ、ぇ…」
    「撮影も済んだ事だし、そろそろ荷物を置きに旅館の方へ行こうか」
    「………はい」

    差し出された手を取れば、手に温かい熱が伝わってくる。それにほんの少し気持ちが落ち着いた気がした。寧々さんは小さく溜息を吐いていて、傍にいたえむはにこにこと笑ってこちらを見ている。ぱち、と目が合った瞬間、へにゃりと笑ったえむが、『良かったね』と言った気がした。こういう所を友人に見られるというのは、なんだか気恥しいな。
    むぅ、と唇を引き結んで俯くと、繋いだ手がぎゅ、と握り返される。顔を上げれば、神代さんが嬉しそうに笑った。

    「後でまた撮影の感想を聞かせておくれ」
    「ぅ、……それは、ちょっと…」

    まだ熱の引かない頬を反対の手の甲で押さえて、顔を逸らす。今度から、神代さんへ感想を言う時は一度落ち着いてからにしよう。さすがに、恥ずかしい。
    きゅ、ともう一度唇を引き結んで、神代さんから顔を逸らした。

    ―――

    「すごぉいっ!!」
    「あ、えむ、一人で走っていくなっ!」
    「見て見て!あっちにシャララーンッ、て…!!」
    「分かったから落ち着けっ! …って、言ったそばからどこへ行くんだ―っ?!」

    予想以上に立派な旅館に、えむがぴょんぴょんと跳ねながらあっちへこっちへとふらふら走っていく。慌ててえむを追いかけてなんとか捕まえるが、えむは興奮冷めやらぬ様子で旅館の中をきょろきょろ見回しながら指を差していた。ソファーがふかふかそうだとか、お土産屋さんが大きいとか、絨毯も柔らかくて、向こうに池もある、など次から次に言葉が飛び出してくる。楽しそうでなによりだが、少し落ち着いてほしい。
    ずるずるとえむの手を引っ張って引き摺り、フロントの方へ向かえば、寧々さんがチェックインを済ましてくれていた。

    「はい、これ。類と司の分」
    「ありがとう、寧々」
    「一応上の階に大浴場もあるみたい。温泉街だから、少し歩いた所にも露天風呂があるし、後で行ってみたら?」
    「そうだね」

    寧々さんが神代さんに大きなストラップの付いた鍵を手渡すのが見えた。プラスチックの大きな四角柱のストラップには、部屋の名前が記載されている。連絡事項の様に二人が話すのをなんとなく聞いていれば、こちらに気付いた寧々さんが小さく息を吐いた。

    「捕まえてくれてありがとう、司」
    「いえ」
    「とりあえず、エレベーターで上がるわよ。部屋は隣だから、何かあったら呼んで。それから夕飯は個室を用意してもらってるから、時間厳守で。時間は類に渡したバインダーに挟まってる紙に―――」

    手馴れている。
    オレからえむの手を取って引っ張っていく寧々さんは、エレベーターの方へ向かいながらテキパキと説明してくれている。流石、人気俳優神代類のマネージャーだ。
    エレベーターに四人で乗って、三階のボタンが押される。ゆっくりとエレベーターが上がっていく。ポ―ン、という音がしたあと、扉が開いた。赤い絨毯が廊下に敷かれていて、歩く度にふわふわとした柔らかさが伝わってくる。えむは楽しそうにぴょんぴょんと跳ねながら進んで、寧々さんに注意されていた。
    少し進んだ先で、寧々さんが「ここが私たちの部屋だから」と足を止める。「またあとで」と一言交わし、神代さんに手を引かれるまま廊下の先へ進んだ。
    ゆっくり歩きながら、ふと後ろを振り返る。

    (…部屋と部屋の感覚が広くないだろうか……?)

    隣の部屋とは? と思うほど、寧々さんたちの部屋との間が開いている気がする。ぽふ、ぽふ、と柔らかい絨毯の上をそこから更に少し進んだ所で、漸く神代さんが足を止めた。ストラップに書かれている『なでしこ』という花の名と、同じ花の名がついた部屋。
    カチャ、と部屋の扉を開けた神代さんが、オレの手を引いた。

    「どうぞ」
    「…ありがとう、ございます…」

    促されるまま中に踏み込めば、部屋の中は和室のようだ。ふんわりと畳の匂いがする。靴を脱いで上がり、引き戸を開ける。目の前に畳の敷かれた広い室内が広がり、「わ…」と感嘆の声が零れた。綺麗な室内をきょろきょろと見渡せば、神代さんが後ろでくすくすと笑う声が聞こえてくる。

    「気に入ったかい?」
    「はい」
    「この旅館は個室にも温泉がついていて、使いやすいんだよ。大浴場も結構有名だから、後で行ってみようか」

    部屋の端に荷物を置いた神代さんが、スマホを手に取る。時間は三時を少し過ぎたあたりだ。夕食は六時半の予定なので、まだまだ時間がある。
    ちら、と神代さんを見れば、スマホの画面をじっと見た後、オレに気付いてふわりと笑うと、画面をこちらへ向けた。

    「まだ時間はあるから、旅館の近くを散歩してみないかい?」
    「…ぁ、……」
    「色々なお湯に浸かりながら、というのは、どうだろうか?」
    「っ、…い、行きます…!」

    神代さんの申し出に、ピッ、と腕を伸ばす。大きな声で返事をしたオレを見て、神代さんがふわりと笑った。その綺麗な顔から顔を逸らし、赤い顔を隠しながらすぐ様タオルなんかの用意を始める。
    今回の旅行の目的は、『神代さんとお風呂に入ること』だ。ここ最近、神代さんに触れてもらうことばかり考えてしまっていた。手を繋ぐのも、抱きしめられるのも好きだ。キス、も、最近少し慣れてきた、と思う。そればかりか、もっとしてほしいとさえ思うようになってしまった。一度のキスでは少し物足りない、と感じる様になったのがおかしいのではないか、と気になってしまい調べてみたんだ。そしたら、この気持ちはおかしい事でもないのだと、知ることが出来た。だから、もっと神代さんと距離を縮めるためにと、オレなりに勉強したんだ。
    もう一歩、神代さんと恋人らしくなるために。

    (神代さんとお風呂、は、少し緊張するが、大丈夫っ…!)

    うんうん、と一人頷いて、ぐっ、と拳を握り締める。
    準備の終わった神代さんが、「行こうか」とオレの方へ手を差し出してくれるので、一つ深呼吸をしてから、その手を取る。大丈夫、大丈夫、と心の中で何度も繰り返して、オレより少し大きな手を握り返した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💜💒☺👏👏💖💖💖💖☺💕👍👍👍☺👏💖💖💖☺☺💖💖💖👏☺💖💖👏💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    6142