ひとつ、ふたつ、折れ曲がり横たわる数を数える。みっつ、最後のそれは吸われることなく灰皿の縁へ置かれていた。
「こんな不味いもの吸って何が良いんだか」
机に忘れられたライターで火をつける。店のテープが貼られたままで、持ち主の性格が見えてくる。
「体に悪いし、経済的じゃないし」
ひとりごちながらゆっくり肺へと吸い込み、半兵衛は咳き込んだ。何度か吸っているはずなのに、必ず初めは体が受け付けてくれない。煙を受け入れることを拒んでいるような、それを気持ち良いと脳が感じることを選択しようとしていないかのような。
鼻腔をつく匂いに、昨夜抱かれた太く大きな腕を思い出す。いつも苦しくて嫌なはずなのに、果てる頃にはその苦しみすら快楽に感じてしまっている醜い己がいる。
その腕の記憶を掻き消さんばかりに、半兵衛は思い切り煙草の煙を吸い込んだ。むせるどころかスゥと胸のつかえが取れる感覚に、半兵衛はまだほとんど残る煙草を思い切り灰皿へと押し付けた。