夢 夢を見る。そんな些細な現象が恐ろしくなったのは、大人になってからだ。
それは幸せな夢であるほどに残酷で、目覚めた瞬間に覚える絶望に、とうに傷だらけの心が凌遅され続ける。
残酷な夢を見るくらいなら、癒えぬ傷に眠れぬ夜を過ごした方がいい。そして、夢など見ないように、疲れ切った体で気絶同然の眠りに落ちる。
兄にはいい顔をされなかったが、結局やりたいようにさせてくれた。
そうした夜を幾千と過ごして、夢の中で夢と認識し、削がれる心も無くなったように思えた頃。唐突に現実という悪夢は終わりを告げた。
どんな夢を見た朝でも、目覚めればそこに夢に見続けた幸福が腕の中にある。
感慨に思わず腕の力を強めてしまった。
「んぅ……」
抗議めいた掠れた呻き声など、ついぞ夢にも見たことがなかった。