真夜中は別の顔(健全) さっきまでぐっすり眠っていたのに、急に目が覚めた。皆を起こさないようにそおっと布団から出る。立ち上がり、体がまだ眠っているのか少しふらつきながら足を進める。
「わ……っ、とと……」
布団に足を取られ、つんのめりそうになりながら部屋を出た。
部屋に戻ると、隣で寝ていたハナビがアイマスクを外して座っていた。起こしてしまったかとタイジュは焦る。
「ハナビくん」
小声で話しかける。反応がない。眠っているのか?
「……ハナビくん?」
少しボリュームを上げて声をかける。ゆっくりとタイジュの方を向き、目が後から顔を追いかける。タイジュと目が合い、ふ、とハナビは笑った。
「ハナビくん、起こしてしまいましたか? すまねぇです」
ハナビは首を横に降り、そのままじっとタイジュを見つめていた。寝ぼけているのかな、と思い、ひとまず横になってもらおうとタイジュはハナビの肩に手をかける。
「ハナビくん、寝ましょう」
ハナビが後ろに倒れるのと同時に手を伸ばし、タイジュの背中に両腕でしがみついた。タイジュはそのまま一緒に倒れ込む。
「えっ……」
寝ぼけているはずのハナビの腕の力は、タイジュが思っていたよりも強く、すぐには起き上がれなかった。
「……おめぇぬぐいな」
耳元で聴こえたハナビの言葉はタイジュの知らないイントネーションだった。ハナビの腕の力が抜ける。タイジュがゆっくり顔を上げると、ハナビは小さく寝息を立てて眠っていた。アイマスクが枕の横に置かれている。
タイジュは体を起こし、ハナビのすぐ隣に座った。心音が体に響く。ハナビの行動とセリフに体がしばらく動かなかった。タイジュはアイマスクを目に写すと手を伸ばし、そっとハナビの耳にかけた。ハナビは口を一文字に結び、すぐに弛緩して薄く唇を開けまた眠りだした。
ほっ、とタイジュは胸を撫で下ろす。そろりと自分の布団に足を入れ、掛け布団を被った。ハナビの方に向いたまま、タイジュはなんだか特別なハナビを見たような気持ちがして口角が上がる。そして瞼を伏せるとゆっくりと眠りについた。