酔いいつからこんなに大事な存在になってたんだろう。
ふと目の前の熊を見てしみじみと思った。いつもの酒場で今日もたくさん注文し、よく食べよく飲んでいる。あんなにあった料理もほとんど綺麗になくなっており、どんだけ一人で食べたんだとボーッと考える。
いびきはうるさいし、すぐに髪の毛をわしゃわしゃしてくるし、ほら、こうやって。この大きな手で。
「酔っ払ってんのか? そんなボーッとして」
ん? と首を傾げて語りかけてくる。
「いや、考え事をしてただけだ」
「考え事?」
どうした? と、わしゃわしゃした手を離しビクトールの視線が一瞬鋭くなる。そんな変化にも心配性だなあ、とくすぐったく感じる。と同時に離れていった手に少し…。
「ああ…いつからお前のこと、こんな風に思うようになったのかな…って」
目線を合わせるのはなんだかいたたまれなくて、言葉を告げてからとりあえず目の前のジョッキに手を伸ばした。
…うん………?
相手の反応がなくなったことにおかしいなと思い目の前のビクトールを見ると、がしがしと自分の頭を掻きながら長いため息をついている。
「どうしたんだ…?」
「…ああもうっ! お前さんよお、急にそんな顔でそんなこと言われたらこっちがどうしていいかわかんねえじゃねえか」
どんな顔だよ、と言いかけたがやめた。
「…照れてるのか?」
「ちげえよっ!」
被せ気味に即答するビクトールがなんだか可愛くて笑ってしまった。
「はははは。熊も照れるんだな」
「うるせえっ! やっぱり酔ってんだろ! ほらっ、もう部屋帰るぞ! こんな姿のお前がどこで誰に見られてるかわかんねえからな」
そのあとも何かブツブツ言いながら椅子から立ち、帰る準備をしだして店主に声をかける。またツケにする気か?そんなことを考えているとビクトールが戻ってきて、まだ座ったままの俺の腕を引き、その場に立たせた。
「ほら、行くぞ」
「引っ張らなくてもちゃんと行くって」
腕をとられながら廊下をズンズン突き進んでいく。今夜はビクトールの珍しい姿が見られたような気がして、またふっと笑いが溢れた。
「お前……今夜は覚悟しとけよ?」
「俺はもう眠いから寝る」
「何勝手なこと言ってんだよ」
ビクトールが不満げな顔でこちらを見てくる。かわいいなあと思った。やっぱり今日の俺は酔ってるのだろうか。引っ張る腕からすり抜けビクトールの指に自分のそれを絡めた。
「じゃあ俺が寝ないようがんばれ」
今夜はまだしばらく眠れそうにないな…まあそれもいいか。