2025-07-11
穏やかな昼下がり、商店街をぶらぶらと昼食を求めて歩いていたビクトールはタイラギの声に振り返った。
「ほら、ビクトールさんですよ」
誰かに軽く紹介している言葉だ。またたきの手鏡をトランから貸与されて以降、戦況が落ち着くと軍主は時に共も連れずにふいにどこかへ行ってしまう。シュウに毎回小言を言われているはずだが、強く出きれないのはシュウの少年に対する罪悪感が故だろう。子供らしいことを奪っている以上、少年の欲求は出来る限りかなえたい、と軍師はいつか言っていた。
人ごみのむこうで、タイラギが振り返ったビクトールに手を振っている。その隣には同じような背格好の少年がいた。ビクトールを見て、目を細めて唇の端を上げたがその目は一つも笑ってはいない。
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