チルい穏やかに微笑む顔ばかり見ているせいか、彼がそれ以外の表情を浮かべているとすぐ分かるようになってしまった。なってしまった、というと聞こえは悪いが彼の知ってはいけない側面を覗いたようで後ろめたさがある故に自然とそういう表現になる。
何かを深く考え込むときでさえ楽しそうな笑みを見せるのに、ふとした瞬間、例えば日が暮れて夜が近づく紺と橙が混ざった空を見つめているときや明け方の肌寒い空気の中で薄着でいるときには随分物憂げな顔を見せるのだ。この世のもので楽しさを見いだせないものはない性格の割にどうしてそんな悲しそうな瞳でいるのだろう。何を嘆くのか、何を案じているのか。
静かに見守る存在でありたい。そう考えていたのにとうとう抑えが利かず白い頬に指を伸ばしてしまった。
「何故、そのような顔をされるのか」
得物を持ち鍛錬に明け暮れる己の指先は郭嘉の顔とはまるで対照的だった。武骨な手で触れてはならぬ気がして一瞬動きが鈍るが彼の方から頬を寄せてくる。柔らかさと冷たさが伝わる。
やや目を細めながら郭嘉が口を開いた。
「そのような顔って?」
「思案顔……ではないな。何と例えればよいのか」
「別に、いつも通りなのだけれど」
言葉通り、今は普段と変わらない柔和な笑みを浮かべていた。ゆっくりと瞬けば音が聞こえてきそうな美しい睫毛が震え、それらに守られている瞳はゆるく揺れる。
「……何ともないよ。ただ、面倒だなぁって思ってただけ」
「面倒とは」
「色々あるでしょう。ああ、張遼殿との時間はそんなことないよ。気にしないで」
小首をかしげる郭嘉の表情に憂いは見えなかった。安心する反面、うやむやにされたようで納得はし切れていない。
「本当に何もないよ。大丈夫、大丈夫だから、ね」
声量を落として囁く彼の声は気怠かった。隠し事でもあるのかもしれない。しかし目を閉じて己にしな垂れかかってくるものだから、それ以上問うのはやめにしたのだった。