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    meemeemeekodayo

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    紫嘉
    塗ってあげるね

    #紫嘉

    ぷっとん、ぷっとん風が強い日の夜、微かに揺れて音を立てる窓には気づけば水滴が付いていた。勢いからして小雨だろうが冷えも徐々に強まってきたようだ。一日中諸将らとの鍛錬に費やしていた紫鸞は手を擦り合わせた際に指の付け根が白っぽくなっていることに気付いた。痛みはないが武器を握ることに集中し過ぎた、と少しばかり後悔する。おかげで今日は会いたい人に会えていない。冷え込む今夜、彼はまた厚着をせずに出歩いていないだろうか。一瞬で思考を満たす人に不思議な感情を覚えながら、紫鸞は誰かがやって来た気配へ意識を向ける。
    「こんばんは。お邪魔するよ」
    「郭嘉……こんな雨の中、来たのか」
    「うん?今降り出したところだからほとんど濡れていないよ」
    「冷えるだろう。またそんな格好で」
    訪ねてきたのは今まさに思っていた郭嘉その人であった。想像していた通り相変わらず大した防寒をせず首元を晒している。招き入れ、雨に濡れた髪を拭いてやるために紫鸞は大振りの乾いた布を探して持ってきた。
    「ありがとう……貴方の匂いがするね」
    「ちゃんと洗ってあるはずだ」
    そうじゃない、と笑う郭嘉の頭上から覆い被せて包み込むようにして水気を拭う。然程降られていないとは言え体を冷やす要因は取り除かなければならない。妙な使命感に駆られ、紫鸞は向かい合う格好で彼の体を布越しに確かめていった。
    無官になったとはいえ未だに剣を振るうからある程度の筋肉はある。それでも紫鸞より随分と華奢だ。顔や髪は日焼けを知らない月に近い色で穏やかに歪む瞳も似た色をしている。唇はかさつきが目に見えて減った、ように思う。十分な栄養を摂れている証拠だ。口にはしないが紫鸞は勝手に安堵してそのまま視線を下げる。鎖骨付近に見えるほくろに思わず喉が鳴る。慌てて目を逸らして、同時に拭き終わったと伝えた。
    「それで、何か用事が?」
    「用が無いと来てはいけない?」
    「そんなことはない、が……」
    「ふふ、ごめんね。困らせるつもりはないよ」
    湿った布を適当に放りくつろげる場所へ移動する。横並びで座ると郭嘉から微笑みつきで何かを差し出された。
    「これを、貴方に」
    彼の手のひらに収まるくらいの小さな陶器の入れ物だった。皮のようなもので蓋がされており郭嘉自らそれを開けて中を見せてくれる。
    「元化殿から貰ったのだけれど貴方の方が使うかと思って、ね」
    「元化から?薬か?」
    頷く郭嘉は指でそれを掬い取った。見たところ固そうな軟膏で微かに漢方特有の匂いが漂ってくる。
    「手、出して」
    言われるがまま紫鸞は右手を預けた。塗られた薬は思ったよりも冷たくなく見た目の割によく馴染んだ。丁度紫鸞が先程気づいた親指の付け根にすり込まれていく。じんわりと温まり白っぽかった皮膚に潤いが戻ってきた。
    「毎日剣やら槍やら握っていたら手も荒れるからね。こうして保湿してあげればひび割れ知らずだよ」
    「……ありがとう」
    塗り込まれた手をよく見る。爪の横や硬くなった場所まで塗られたからべたつくかと思いきや優れた医者による調合のおかげで気にならない。匂いはあるが郭嘉が気にしていないのであれば紫鸞も特に何も感じなかった。
    残りも全て紫鸞にくれるようで郭嘉は丁寧にそれを片付けた。果たして自分で塗る習慣がつくだろうか、そう漏らせば小さく笑われる。
    「私に触りたいのなら指先を綺麗にしておくに越したことはないよ」
    「郭嘉に、触る……」
    「武具と同じ扱いをするつもりだった?」
    しなやかな白い指は彼自身の首に触れ、なぞり、鎖骨へと流れて窪んだ箇所へと紫鸞を誘う。
    「貴方の瞳はとても分かりやすい。穴が開くかと思ったよ」
    声に艶が混じり出す。盗み見はとっくに郭嘉に見つかっていたらしい。頬に熱が集まるのを感じた紫鸞は何か言い訳を、と思ったものの言葉が出てこなかった。
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