はるはうぐいすにのって「お前がやる気を見せるなど、槍でも降るのではないか」
つっけんどんな言い方だが落ち着きがなく、腕組みをして立つ姿には若干動揺が窺える。毎日観察しているのだからそれくらいの変化は鶯丸にはお見通しだった。
「主には何と言ったんだ」
「何って、そのままさ。修行に行かせてくれないか、って」
「それで納得したのか?」
「した。だから今こうして行こうとしているんだろ」
手紙を書くようにと文の準備をさせられ、あとは必要最低限だけを用意してもらいあっという間に旅立つ日がやってきた。焦る必要はなかったがこれも主からの好意だと受け取って、誰に告げることもなく朝に発つ予定だったのだ。
しかし早朝に目を覚ましてみれば大包平が既に待ち構えていて、さすがにこれは予想していなかったと口元が緩む。軽口を叩かれるものの微かに焦燥した彼の顔はなかなか見ものだった。
顔を顰められる。鶯丸が失笑したのが気に入らなかったのか大包平は低く唸った。
「どうした、獣のような声で鳴いて」
「泣いてなど、いない!」
「朝からうるさいぞ……ああ、そうか」
立派な体躯だ。どちらが上か、というのは鶯丸にもよく分かっていないのだが図体は向こうの方が大きい。腕を伸ばして赤い頭を撫でてやった。
「よし、よし。なに、そんなに長居はしないさ」
「なにをするっ!お前っ……やめろ!」
「俺が行ってしまうのが寂しいんだろう?大丈夫……すぐ戻ってくるから」
硬い髪だと思いながら飽きるまで撫でる。しばらく間があったところで腕を跳ね除けられ、顔を赤くした大包平に怒鳴られた。
「お前っ!」
「戻ったらまた茶を飲もう」
「それはっ……別に、構わないが」
「はははっ!」
相変わらず声が大きく元気なことだ。微笑ましいというより腹を抱えて笑いたくなるような快活さがある。
旅装束を翻し一度だけ手を振って歩き出す。
「お前のためにも無事に戻ってくるさ。心配しなくても、大丈夫」
すたすたと歩みを進めれば背後から激昂する奴の声が聞こえてきて、鶯丸はまた堪え切れずに吹き出した。可笑しい、どこまでも愉快な奴だ。怒鳴る声の中に「気を付けていけ!」だの「向こうで迷惑をかけるな!」だの、心配なのか声援なのか分からないものも混ざっていて可笑しなはずなのに不思議と目尻に涙が滲むのだった。