眠りについた記憶と(仮)②「………おい、お前、何してんだ」
「あっ……」
デジャブのような光景。
出張でストヘス区まで足を運んでいたが、そこに何とあの黒髪がいた。あの時と同じ、バッグを握り締め時刻表と睨めっこしながら。
「また迷子か?」
「……シガンシナ、まで」
「今日はどこから来た?」
「トロスト区」
「…方向音痴なのか?」
それには微妙な顔をした。本人にその自覚がないのか、慣れない国で本当に迷子なのか。トロストからシガンシナまでは急行一本だ。何をどうしたらストヘス(ここ)に辿り着く?
いや、今そんなことはどうでもいい。問題は。
「俺は仕事中だ。今日はシガンシナに帰らねぇぞ。一人で帰れるか?」
「だ、大丈夫です。その、教えてもらえれば」
疑わしいが、そう言うミカサと時刻表を見ながら、ホームまで付いて行く。あとは電車が来ればそれに乗り、エルミハ中央駅で乗り換えればシガンシナまで電車が連れて行ってくれる。
のだが。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です。バカにしてます?」
「バカにされねぇと自分で思ってんのか?迷子よ」
「………」
悔しそうに歯噛みするも、どこか不安な様子のミカサ。一度会って少しの時間を共にしただけの他国のガキ、なんだが、何かほっとけねぇ。このまま電車に乗せて大丈夫だろうか。
「おい、お前、留学と言ったな?授業は?」
「夏季休暇の短期留学で、授業はほとんどない、です。今回の目的は語学力を上げることと、この国に少し慣れること」
それは都合がいい、のか。ここで放り出して心配で仕事が手に付かなくなるよりマシか。
「・・・三日、空けられるか?」
「はい?」
「三日だ。俺の仕事が終わってシガンシナに帰るのは」
「えっ!」
「それまでこっちにいられるか?」
「あの、無理です!持ち合わせが…」
「俺と同じホテルでいいか?」
「ですから!お金が!」
「俺の部屋がツインなんだ」
下手くそな発音でぎゃんぎゃん喚いていたが、その一言で理解が追いついたのだろう。ミカサは真っ赤になり押し黙った。
「へ…、へ…? それは、どういう…」
「シングルが取れなかったんだ。会社の経費だしお前が心配することはねぇ。黙ってりゃバレねぇ」
「いや、あの、それって」
「着替えはねぇな。休んでいるうちにホテルの近く散策して適当に買え。そんくらいは出来んだろ?」
「あ、はい。じゃなくて!」
こんなことしてるうちに昼休みが終わる時間だった。まぁ、いつもの得意先に顔出してきたとでも言えばいいだろう。口裏合せてもらうために後で電話しとくか。
駅を出てホテルに向かう道に入る。ちゃんと付いてきてるのかと振り返れば、頬を染めて困った表情のミカサ。ま、当然か。
「安心しろ。取って喰いやしねぇから」
この単語は通じるか?と思ったがどうやら通じたらしい。赤い顔を更に赤くさせて何やら日本語で叫んでいた。