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    下町小劇場・芳流

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    POIPOI 41

    GW先出し②
    1章冒頭

    #ダイの大冒険
    daiNoDaiboken

    「魂は大地に還る1」サンプル カール騎士団の制服に身を包んだヒュンケルは、規則正しい足音を響かせながら、カール王城の廊下を歩いていた。
     カール騎士団は、いくつかの部隊に分かれているが、その中でも、王家直属が近衛師団である。ヒュンケルは、現在は、その近衛師団で副師団長を務めていた。王城での立ち振舞も、すでに慣れたものになっていた。
     謁見室にたどり着くと、彼は、いつものように、玉座の前に進み出た。
     玉座には、カールの主たる女王フローラが腰を下ろし、その横に、王配アバンが着席していた。
     いつもどおりのカールの謁見室だった。
     だが、この日は、アバンの横に屹立する姿があった。
     普段はここで見かけることのないその男の姿を認め、ヒュンケルは眉をひそめた。
     久方ぶりにまみえた彼のおとうと弟子は、厳しい表情でアバンの傍らに佇んでいた。
     ポップは、カールに来るときには、ヒュンケルの元も訪ねていたし、ポップが来るとなれば、アバンは必ずヒュンケルにそれを告げていた。
     だが、この日は何も聞いていなかった。
     ヒュンケルは、不審に思いながらも、それを面に浮かべることはしなかった。
     いつものように、ヒュンケルは、丁寧に膝を折って頭を垂れ、騎士の作法をもって、女王フローラ、王配アバンに礼を尽くした。
    「ヒュンケル、参りました。」
     いつものように、短く名乗る。
     フローラもまた、普段と同じ声色で、ヒュンケルに声を掛けた。
    「ご苦労様です、ヒュンケル。
     急に呼びましたね。」
    「いえ、問題ございません。
     御下命でしょうか。」
    「ええ。
     貴方を呼んだのは、他でもありません。
     急で申し訳ありませんが、あなたにひとつ、指示があります。」
    「はっ。」
     フローラの口調は、いつもと何ら変わりなかった。
     だから、ヒュンケルは、この次の言葉に耳を疑った。
    「ヒュンケル。
     カール騎士団近衛副師団長の任を解きます。」
    「・・・は?」
    「本日をもって、貴方を退団させます。」
     突然の解雇通告だった。
     確かに、ヒュンケルは、カール騎士団に骨を埋めるつもりはなかった。いずれ、この国を出ようと考えてはいたものの、だが、それが今日いきなり目の前に現れようとは思いもしなかった。
     半ば呆然とした面持ちで顔を上げ、ヒュンケルは、フローラを見上げた。
     フローラは、声色こそいつもどおりであったが、どこか申し訳なさそうな面で、一瞬、ヒュンケルと視線を交錯させた。そして、彼女は、すぐに、夫の傍らに立つ魔導士の少年に声を掛けた。
    「これでよろしいかしら、ポップ。」
    「ありがとうございます、フローラ様。先生。」
     ヒュンケルは、何が起きているのかわからないまま、アバン、ポップと順に視界に映した。アバンは、いつもと同じように、穏やかな笑みを浮かべたままだった。その本心は伺い知れない。
     対するポップは、緊張感に強張った面をしていた。
     ポップは、焦りを隠さずにヒュンケルに歩み寄った。
    「ヒュンケル、いま聞いたな?
     お前、いま、クビになったな?無職だな?」
    「ポップ?」
     ポップは、いきなりヒュンケルの腕をつかんだ。
     そして、振り返ってフローラとアバンに断りを入れた。
    「フローラ様、先生、じゃあ、こいつ借りていきますね。」
     そのまま、ポップは、ヒュンケルの腕をつかんで、バルコニーへと引きずっていこうとした。
     ヒュンケルはポップを引き留めようと、抵抗した。
    「ま、待て、ポップ!どういうことだ!!」
    「説明は後!いいからちょっと来てくれ!!」
    「ポップ!」
     ポップは、かまわず、ヒュンケルを無理矢理引きずって謁見室のバルコニーに出た。その意図を察したアバンが、ポップに呼びかけた。
    「ポップ~街中でのルーラは禁止ですよ~。」
    「非常事態です、先生!!」
     アバンの気の抜けた言い方に苛立ったようにポップは叫ぶと、呪文を詠唱した。
    「ルーラ!!」
     カール王城謁見室のバルコニーから、金の光が飛び立った。
     あとには、ポップの姿も、ヒュンケルの姿もなかった。
     アバンは、やれやれというように軽くため息を吐くと、バルコニーに出た。
     ポップの飛び立った南の方角を見つめる。
     アバンは、呟いた。
    「もう見えませんね。ルーラのスピードが早くなりましたね。」
     遅れて、フローラもバルコニーに出てきた。
     アバンと同じ方向を見つめながら、フローラも呟いた。
    「大丈夫かしら。」
     だが、アバンは、相変わらず、笑みを崩さないまま、フローラに答えた。
    「大丈夫!あの子たちは、私の自慢の弟子たちですからね。今度もきっと、乗り越えますよ。」
     そして、ようやくアバンは真剣な面持ちになると、声を落とした。
    「私たちの立場では、此処を動くことはできません。あの子たちに任せるほかはありません。」
    「そうね・・・。カール騎士団員の身分のままヒュンケルを送りだしたら、内政干渉になるわ。私や貴方は余計にダメですものね。」
     アバンもうなずいた。
    「はい。
     あとは、あの子たちと、レオナ陛下に任せるほかはありません。」
     アバンは、言葉をつづけた。
    「ヒュンケルは、魔界で育ちました。軍団長も務められるだけの実力もあった。
     あの子なら、きっと、解決の糸口を見つけてくれると、私はそう思っています。」
    「ええ・・・。」
     フローラとアバンは、ポップの飛び立っていった空を見つめながら、言葉を交わした。
     その空の向こうには、パプニカ王国があるはずだった。

     ヒュンケルは、ルーラの着地を感じると、目を開けた。
     そこには、見覚えのある白磁の王城が聳えていた。
     純白の乙女のような城の背後には、美しい海。
     記憶をくすぐるその風景に、ヒュンケルは呟いた。
    「・・・パプニカ?」
     その彼の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
    「ポップ!ヒュンケルを連れてきてくれたのだな!」
    「おっさん!!
     悪ぃ、遅くなっちまった。」
     重い足音とともに現れたかつての盟友に、ヒュンケルは、呆然としたままその名を呼んだ。
    「・・・クロコダイン?」
     だが、クロコダインの方は、以前と変わらない穏やかな目でヒュンケルを見つめた。
    「久しぶりだな、ヒュンケル。
     話は聞いたか?」
    「い、いや、何も・・・。」
     戸惑った声を上げるヒュンケルに気付き、クロコダインは、ポップに視線を移した。
    「ポップ、お前、ヒュンケルに説明してないのか。」
    「連れてくる方が先だろ。」
     焦った声のままそう言うと、ポップは、藪から棒にヒュンケルに言い放った。
    「あと、ヒュンケル、お前、その服脱いでくれ。」
    「は?」
    「カール騎士団の制服でパプニカ城うろつくなよ。マズいだろ。」
    「ま、待て、ポップ!どういうことなんだ!!」
    「だから説明は後つってんだろ!
     服脱げって!」
    「誤解を招くようなことを言うな!!」
    「落ち着け、ポップ。」
     おかしな方向に言い争いが発展しかねない長兄と次兄を、クロコダインがとりなした。
    「だが、ポップの言うとおりではあるんだ。
     ヒュンケル、まずは着替えてくれ。
     話はそれからだ。
     姫・・・いや、女王陛下が、お前を待っている。」
    「女王が・・・?」 
     クロコダインの言葉に、ヒュンケルは戸惑った。
     パプニカ女王レオナは、ヒュンケルにとっては、大魔王と戦った仲間の一人ではあるものの、それ以上に、この二人にしかない間柄があった。
     勝った者と敗れた者。
     攻めた者と攻められた者。
     互いに軍を率いて戦火を交えた者同士であり、ヒュンケルは、レオナの立場を慮って、戦後、パプニカには足を踏み入れようとはしなかった。
     レオナがヒュンケルをアバンの使徒の長兄として立て、不死騎団長としての過去を不問に付すとして彼をかばってくれていたことは知っていた。
     それでも、ヒュンケルにとっては、レオナに対しては、拭いきれない負い目があった。
     それは、お互いに将としての立場から来るものではなく、ただ一個人として、ヒュンケルがレオナに感じているものであった。
     レオナもそれを察していたはずだった。
     だからこそ、この3年の間、レオナの方からヒュンケルへの接触も、ほとんどなかった。
     アバンの使徒が勢ぞろいする場にはレオナは来ていたものの、ヒュンケルと個人的に接する機会というのは、ほとんどなかった。
     その彼女が、ヒュンケルを待っているという。
     ヒュンケルは、胸騒ぎを覚えたが、それを口には出せなかった。
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