「おいコラ!!!!いつになれば遅刻しなくなるんだよ!!!!この不良!!!!」
放課後のふたりきりの教室に、フーゴの声が響きわたる。
ナランチャはヘラヘラしながら耳を塞いだ。
「ひー!学級委員長こえーよー!」
「そのこわーい学級委員長を怒らせてるのは、どこのどいつなんですかね!?」
フーゴはぷくりと頬を膨らませる。
その表情に、ナランチャの心臓は跳ねる。
(......そんな顔しやがって)
勉強が得意で頭の回転も早いのに、怒りっぽいところ。
どれだけナランチャが馬鹿でも、見捨てずに勉強を教えてくれるところ。
堅物そうに見えて、いちごのスイーツには目がないところ。
何でもできる優等生の意外な一面を、自分だけが知っているという事実に、時折ナランチャは胸が熱くなるのだ。
(.......また、オレの知らない顔してる)
フーゴの新たな姿を見るたびに、もっともっとフーゴのことを知りたくなる。
フーゴに、オレのことをもっと知ってほしいと思う。
──それは、紛れもない初恋だった。
「ナランチャ、聞いてますか?」
「わりい、聞いてなかった」
ほっぺをぎゅうとつねられて、ナランチャははっと我に戻る。
フーゴはあからさまに嫌そうな顔をした。
「フン、耳でも悪くなったんですかねえ」
そう言って、フーゴはナランチャに近寄った。
ナランチャの耳に、フーゴの吐息がかかる。
「なっ.......なんだよ、フーゴ、」
「なんです?お耳の悪〜いきみのために、この距離で話してやろうとしてんですよ」
「ちょ、おい、」
ぞくぞくが、止まらない。
ふわりと、いいにおいがする。
体温が、ぐんぐん上がる。
「......きみが遅刻しないように、明日の朝からきみを迎えに行きます」
フーゴの声色が、甘くなる。
それに顔も真っ赤だ。いちごみたい。
──夢見てんのかな、オレ。
「ついでに......今日からふたりで帰りませんか?」
「ふー......ご、」
(こいつも、オレのこと、大好きなんじゃん)