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    ただいまmhyk小説(メインはミス晶♂・全年齢)がしがし書いてます

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    ミス晶♂風味SS。賢者だと証明する手段について。

    (2022/11/26 ミス晶くん版ワンドロワンライ・第二回:お題「しるし」参加作品を加筆修正)

    賢者の印「俺にもしるしが欲しいなあ」
     深い溜息と共に呟かれた言葉に、談話室にいた面々の反応は様々だった。
    「印ってどういうやつ?」
    「家紋とか、印章とか?」
    「俺達の体にある紋章みたいな?」
    「それとも情の証でしょうか。ロマンティックですね」
     それらの言葉を聞いて、考えを口に出していたことにようやく気づいたらしい晶は、ぎゃっと小さく悲鳴を上げて、それから気恥ずかしそうに頭を掻いた。
    「俺、口に出してました?」
    「うんバッチリ! 賢者様はどんな印が欲しいの?」
    「書類に押すやつ? それとも自分の持ち物に書くマークとか?」
    「ああいえ……そういうものじゃなくて、その……」
     珍しく言葉を濁す晶に、もしかして、と申し訳なさそうな顔になったのは、リケと二人で日記を書いていたアーサーだった。
    「賢者様、昼間の一件でしょうか。私の考えが至らずにご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
    「昼間の一件?」
     小鳥のように首を傾げる西の魔法使い達に、慌てて手を振る晶。
    「大したことじゃないんです。今日の昼に、中央の魔法使い達と調査依頼に向かったんですけど、その時に――」


    「あんたが賢者? 本当かい?」
     やってきた晶に、村長は明らかな疑いの眼を向けてきた。そういうことはこれまで何度もあったから、晶も慣れっこだったのだが、今回は間の悪いことに――。
    「すいません、一緒に来た魔法使い達が、入口で村の皆さんに囲まれてしまって……ひとまず俺だけ先にご挨拶に来たんですけど」
     中央の魔法使い達、とりわけアーサーとカインは、その親しみやすい人柄もあって、人々を惹きつけてやまない。今日も村に到着した途端、子供から大人まで大勢の人々に群がられて、今も質問攻めに遭っているはずだ。
     住民の対応は二人に任せて、オズとリケは先に厄災の影響の調査をするというので、晶一人で依頼をくれた村長のもとへ向かったのだが、それがよくなかった。
    「あんたが賢者だっていう証拠はあるのかい?」
    「ええと、頂いた依頼のお手紙ならここに……」
     おずおずと差し出した手紙を一瞥して、確かに自分が出したものだとは認めてくれたものの、村長の態度は揺るがなかった。
    「手紙を持ってくるだけなら誰でも出来る。それが、あんたが賢者だっていう証拠にはならないだろう。何かないのか?」
     改めてそう問われると、反論の余地がなかった。
     晶には、自身が賢者だと証明する手段が何もない。そのことに、今更ながらに気づいてしまったのだ。


    「アーサーがすぐに追いかけてきてくれたので、村長さんもようやく納得してくれたんですけど。言われてみれば、俺が賢者である証拠って、目に見える形のものは何もないんですよね」
     賢者の魔法使い達には、その身に百合の紋章が浮き出ている。それこそが紛れもない『賢者の魔法使い』の証であり、紋章の存在はかなり広く知られているので、それを見せれば身の証は立てられる。
     また、選ばれし賢者の魔法使い達は『賢者の気配』のようなものを感じ取ることが出来るらしい。だからこそ、彼らは賢者の存在を疑ったり、その証をわざわざ求めたりはしない。
     しかし。それは賢者と、その魔法使い達にしか分からない、目に見えない繋がりでしかなく。
     改めて『賢者であるという証拠を出せ』と言われてしまうと、晶にはどうしようもないのだ。
    「確かに、言われてみると賢者様に『印』がないのは変な話だよね。これまでの賢者様は不便じゃなかったのかな?」
     不思議がるクロエに、苦笑混じりに答えたのはシャイロックだ。
    「今までの賢者様は、そもそも人前に出る機会がほとんどなかったのですよ。あるとすればそれこそパレードや叙任式といった公的な場面だけでしたし、そういった場でしたら、主催者や主賓は賢者様の顔を知っていますからね。わざわざ身の証を立てる必要もなかったんです」
     まして、そういった公式の場であれば、必ず賢者の魔法使いが護衛として付き添うから、疑いようもない。
    「そっか。今年が色々と例外すぎるんだね」
    「それじゃあ、賢者様の印を決めちゃおうよ! 何がいい? 猫? 月? それとも羊かな」
     空中に指で色々な図案を描いてみせるムル。それを見た他の魔法使い達も、やれ格好いいのがいいとか、もっと可愛いのがいいんじゃないかとか、どうせなら貴族の紋章のように意味を持たせたらどうかとか、色々なことを言い出したものだから、収拾がつかなくなってきた。
    「あはは、あの、皆さん。単なる思いつきなんで、そんなに真剣に考えなくても――」
    「だから、お揃いにしましょうって言ったじゃないですか」
     唐突に背後から響いてきた気怠い声に、ぎょっと振り向けば、そこにはいつの間にかミスラの姿があった。
    「ミスラ?」
    「賢者様にも、俺達と同じ紋章を入れればいいんですよ。ほら、俺と同じ場所に入れてやりますから脱いでください」
    「ミスラー!? それは遠慮しますって前にも言いましたよねー!」
     シャツをめくろうとするミスラに全力で抗いながら、助けを求めるように周囲を見渡すが、みんな面白そうに見ているだけで、誰も止めに入ろうとしない。
    「ちょっと肌に焼き付けるだけですよ。俺がわざわざ印をつけてやろうっていうんです、ありがたく受け取ってください」
    「それ絶対痛いヤツでしょう!? 嫌ですよ! それに、ミスラと同じ場所につけたら人に見せるの大変じゃないですか! せめてもうちょっと見せやすい場所がいいというか――」
    「おや、それでは私とお揃いにしますか?」
    「僕とお揃いならとても見せやすいですよ! むしろ、隠す方が難しいくらいです」
    「俺は俺はー? すっごく見せやすいよ! 握手も出来ちゃう!」
     ここぞとばかりにアピールしてくる魔法使い達。それで興が冷めたのか、ようやく晶のシャツから手を離したミスラは、その隣にどっかりと腰を下ろすと、その肩にぐいと腕を回した。
    「大体、あなたが単独行動なんかするから面倒なことになるんですよ。自分の身も守れないくせに、なんでほいほい歩き回るんです?」
    「た、確かにそうかもしれませんけど!」
     少しでも、みんなの役に立ちたいんです、と指を突き合わせる晶に、はあと溜息を一つ。
    「俺と一緒なら、『俺の隣にいるのが賢者様です』って証明してやれますよ。だから、一人でどこかへ行かないでください」
     その言葉に、談話室がしん、と静まりかえり。
     そして次の瞬間、悲鳴と歓声が沸き起こった。
    「ミスラ――!?」
    「すっごい! 最強の証明だね!」
    「北のミスラにそうまで言われて、食い下がれる人間などいないでしょうね」
    「魔法使いにだって、いやしないよ!」
    「格好いい……。僕もそう言えるくらい、強くなりたいです」
    「ミスラは時々、驚くほどに情熱的だな」
     魔法使い達の反応には一切目もくれず、こちらを見上げて固まっている晶の、その手をぎゅっと握りしめる。
    「一番手っ取り早い『印』でしょう?」
    「そ、そうかもしれませんけど……」
    「次の任務は、ちゃんと俺を連れて行ってください。それで、面倒なことはさっさと終わらせて、俺を寝かせてくださいね」
     というわけで、と『扉』を出現させるミスラ。
    「さっさと行きますよ。もう三日も寝てないんです。今度こそ俺を寝かせてください」
    「待ってくださいミスラ、俺は報告書をまとめないと――!」
    「そんなのあとでいいでしょう」
     そうして問答無用で連れさらわれた賢者を見送って、残された魔法使い達は一斉に顔をほころばせたのだった。
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