伴/灼カバ 生き物が好きだった。
身近だったのが昆虫。カブトムシ、クワガタ、アゲハ蝶。みんなが好きなものの他にも。バッタやカマキリ、コオロギ、ダンゴムシ。なんでも。みんなそれぞれ何もかも違って、それなのに生きているのが不思議だった。
虫籠に入れたそれを何時間でも眺めていられる子供だったから、夏休みに親が博物館に連れてってくれた。一面に飾られた標本は圧巻で、事前に申し込みをしていたらしいワークショップで標本を作った。カラカラに乾いたそれはまるでまだ生きているかのようだった。恐る恐る震える手でピンを刺した。蝶が動くことはなかったがそれは未だに喉に支えてうまく飲み込むことが出来ない。
珍しいそれらや新種のそれ。たしかに発見は偉大なことだった。研究も大事だと思う。けれども、自分が求めるものとは違った。もう見たいもの、知りたいものが現れてしまったから。それは行儀良く並べられることは良しとせず、いつも人々の期待を裏切るように力強く自由だった。
生き物はなんでも好きだ。動物園でも、水族館でも。ライオンや、クジラ。エネルギーに溢れた、人目を引く生き物たちを見るといつも彼を思い出す。
一番知りたいものはもう決まっている。側にいて見ているだけで良かったのに。隣に並び立ちたいと思ってしまった。やっぱり、生き物は不思議だ。
生き物が生きている姿が美しいと思う。そんなの当たり前のことをわざわざ口にしたら、彼は呆れた顔をするかもしれない。
ある日、彼が人見と話していた。内容はよくわからなかったが、外出するならどこか、といった話のようだった。人見がそれなら水族館とかがムードがあっていいんじゃない、と提案する。ちょうど興味深い展示をやっているところがあったので、良かったら一緒に行かないか、と勇気を出して彼を誘ってみた。
彼は顔をしかめて即答した。
「なんで男二人で行かなきゃいけないんだよ」
即座に横にいた人見がその頭を叩いて、せっかくならみんなで行こうよと取りなした。他にも畦道や関が集まってきて、そうしようそうしようと話がまとまってゆく。
「宵越君は行かないんだよね?」
「う、うるせーな! 行くよ」
彼はバツが悪そうに叩かれた頭を掻いた。それを見て畦道が大きな声を出して笑った。みんな何もかも違うのに一緒にいる。それが不思議で興味深くて楽しかった。